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出版社の仕事――特に漫画家の担当編集者の仕事は多岐に渡る。
まず編集者とは、漫画家に付き添い共に作品を作り上げていくパートナー。これが大前提である。
|故《ゆえ》に作家と共にあらすじを考え、ネームの打ち合わせをし、資料を集め、原稿のチェックを行い改善や修正の指示もする。
更には、買い出しや背景にトーン貼りといったアシスタント業務もこなしたかと思えば、担当部署との打ち合わせに原稿の進捗、入稿期限のスケジュール管理まで行う。
また、良い原稿を上げて貰う為に、健康状態の管理や|精神状態《メンタル》のケアなんかも担当編集者が行うのだ。
ただ、そういった事に、どこまで踏み込むかは相手の作家先生によって変わってくる。
当然、大御所の作家などは、編集者に口を出されるのを嫌うし、逆に新人作家などはネームだけでなくコマ割りや表情の見せ方まで指示する場合もある。
まあ、今日はその辺を含めての、担当引き継ぎの話し合いとして、こんなとこまで来ているわけだ。
「とゆうわけで智紀くんはぁ、慣れるまでしばらくの間、毎日通うようにして下さいねぇ~。事前に連絡あれば、直行直帰しても構いませんからぁ」
「は、はい……」
歩美さんの言葉に、テンションの下がるオレ。何が悲しくて、こんな元ヤン女の面倒を見んとイカンのか……
「でもぉ~、会社の目が届かないからってぇ、サボってちゃダメですよぉ~。ちゃぁんと、携帯の|位置情報《GPS》で確認してますからねぇ~」
「はい、連絡は定期的に入れますから」
「お願いしますねぇ~。メグちゃんに聞いた話だとぉ、この辺りはデリバリーヘルスの激戦区だそうですから、仕事サボって入り浸らないか心配ですぅ~」
「行きませんよ、そんなとこっ!」
なんの心配をしてんだこの人はっ! てか、テメェもなんて話してんだ、コラッ!
オレが睨みつけると、トボケた顔で視線を逸らす千歳。
「智紀くんも男の子ですからぁ、行くなとは言いませんけどぉ~、せめて就業時間が終わってからにしてくださいねぇ~」
「変態……」
変態ゆーなっ! 行かんとゆーとろうがっ!
てか、|歩美さん《この人》はどこまで本気なんだ……?
「さて、報告と引き継ぎは終わりですぅ。それじゃぁ――」
ようやく終わった。じゃあ、飯でも食って帰りますか。この底上げバカ女のせいで、昼飯食いっぱぐれて――
「みんなでお昼ご飯に行きましょぉ~」
――――え? み、みんなで……?
「ち、ちょっと待って下さい、歩美さん。みんなってコイ……工藤先生もですか? てか、まだ会社に戻らないですか?」
正直、今日は色々有りすぎて疲れたので、とっとと会社戻って定時には家に帰りたい。
「何を言ってるんですかぁ~? 二人にはコレから親睦を深めて貰わなくてはいけません。なのでみんなで食事に行ってぇ、そのあとはカラオケですぅ~」
ええ~~…… マジっすか?
「心配しなくても大丈夫ですょ~。今日は直帰するって伝えてありますからぁ、安心して下さい~」
いや、直帰していいなら、もう家に帰りたいです。
「メグちゃんはぁ、このあと予定ぇ、大丈夫ですよねぇ~?」
「はいっ! カラオケなんて久しぶりですっ!」
なんか、歩美さんと一緒になって千歳まで浮かれているし――カラオケなんて、そんないいもんかねぇ。
音痴だというせいもあるが、オレには良さがさっぱり分からん。
てゆうか――
「い、いや、千と……工藤先生? 時間に余裕があるなら、少しでも原稿を進めた方がいいのではないですか?」
てゆうか、オレとオマエが連れ立ってこの街を歩いてたら、どこで誰に絡まれるか分かったもんじゃねぇぞ。そのこと忘れとらんか?
と、アイコンタクトを込めながら、千歳に話を振ってみるが――
「ご心配どうも。でも、原稿はもうほとんど終わってますから、安心して下さい」
と、不敵な笑みで、言葉を返す千歳。
こ、このアマァ……オレのアイコンタクトが伝わってネェ……
てか、締め切りまでまだ三週間以上あるのに原稿は、ほとんど終わってるのか?
「さっすが、メグちゃん。相変わらずの優等生ですねぇ~」
「ありがとうございます♪」
「じゃあ、お昼はどこにしましょうかぁ~?」
「フライング・カーテンなんてどうですか?」
「あっ! いいですねぇ~。あそこのハンバーグ大好きなんですよぉ~。それに東京じゃ、食べられませんしぃ~」
オレを置き去りにして、ドンドンと盛り上がって行く二人。
こうなって来ると、男は無力であり発言権すらなくなるものだ。
はあぁ~……、お家に帰りたい……