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4 - 第4話

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2023年01月05日

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今日からツアーが始まった。開始前はいれりすで混雑していたであろう会場のロビーは、開演となった今は閑散としていた。

悠佑は今、会場入口前に立っていた。チケットは取っていない。ここに来ることは、誰にも言っていない。なんなら来るつもりもなかった。

ただ、駅の広告で今日から始まると知り気がついたらここまで来てしまっていた。まだ声出しは禁止となっているため歓声などはほとんど聞こえない。また今回も、うっかり叫んでしまう客に初兎がやんわり注意してるんだろうな、なんてぼんやり考える。

「……カッコ悪…。」

呟いて苦笑する。ここから先は自分で決めたこと。なのに、不安はどうしても湧いてきて、最後にアイツらの顔を見て安心したい、と思ってしまった。アイツらだって、こうやってツアーやって頑張ってる。俺も、負けてられへん。

「…悠佑さん?」

踵を返して去ろうとした時、声をかけられた。振り向くと、大きな袋をいくつも抱えたいれいすのスタイリストがこちらを見ていた。


「悠佑さん!!!」

楽屋へ入ると、スタッフが口々に悠佑の名を呼び寄ってきた。

「アイツらは?」

返事をするのもそこそこに、悠佑は現状を確認する。

「今のところは問題なく進んでます。でも…」

舞台のモニターに目をやる。確かに間違えたり演奏が止まってしまったりすることはないようで、滞ることなく進めているように見える。しかし、舞台に一緒に立っていた自分や舞台スタッフにはわかる。

「…初めての共演かよ…」

演奏中、目を合わせない。お互い近寄らない。ただ、演奏に合わせて歌っているだけ。

「直前のリハでお互い話し合って一応和解はしたんですがやっぱりわだかまりはあるみたいで。」

「………」

「ねえ、悠佑さん、どうしたら……」

「……、もう、俺には何も出来へんやん。アイツらが自分で解決せな。」

1度口から出かけた言葉をぐっ、と堪えて突き放すように言った。

「引退した俺が口を出すのはあかんやろ。」

「でもっ、」

「俺がでるのは、アイツらのためにはならない。」

俺のためにも。最後の言葉は口に出せなかった。その場の全員が黙ったその時、モニターの向こうの音が止まった。歌と演奏が合わず、ストップしてしまったらしい。

‪”‬……あはは、夢中になりすぎて先走っちゃった‪”‬

引きつった笑顔で誤魔化すリーダー。たどたどしくそれに合わせるメンバーたち。

見てられない。

「…悠佑さんが、何も言わずにいなくなるから。」

急に、責めるように言われた。いつの間にか俯いていた顔を上げると、仲間に制止されつつ自分を睨みつけるスタッフと目が合う。

「ごめん、の一言でいなくなられて、納得なんてできるわけないでしょ?そのくらいには、俺たちだって悠佑さんとの時間は大切だったんだ。」

「そのせいで、こんな空気になってるんだ。

これが最後でもいい。助けてよ…」

「……」

今度は期待を込めた目が自分に集中する。

「…今日のタイムスケジュールは?」

覚悟を決めた。



何とかその場を凌いで、進めていく。次は、新しく考えたパフォーマンス。いれいすメンバー同士で目を合わせる。そして、足を踏み出そうとした時、バンドメンバーの1人が天を仰ぐのが目に入ってしまった。

-悠佑さんなら。

突然、ないこの頭に揉めた時のことが頭に浮かび思わず一瞬足が止まった。

しまった‪…!

ほかのメンバーもそれに気が付き全体のバランスが崩れた。

「お前らぁぁぁ!」

突然大声が響いた。会場内にながれるアナウンス。音割れする程の大音量。この声は…

「みんな、ごめんな。ちょっとだけ邪魔すんで。」

「あにき!!!」

あにきだ!悠佑くーん!うそ、来てるの?!

客席が大きくざわめいた。しかしメンバー誰もそれを窘める余裕なんてなかった。

思わず舞台袖に駆け込もうとするいふ。しかし

「そこから動くなよ!ライブ中やろ!」

お見通しとばかりの悠佑の声に、何とか足を止める。

「いれいすともあろうやつらが、腑抜けたパフォーマンス見せてるんやないぞ!お前ら、そんなんで武道館行けるなんて思っとらんよな?!」

「あにき‪…」

「いれいすバンドもそうや!…いきなりいなくなった俺が悪かったけど、お前らだって大事な仲間やから。喧嘩してもいい。やけど、一緒にチームいれいすとして支えてやって欲しい。頼りないアイツらを、しっかり叱ってやってくれよ。」

「……」

「俺が、いつも言ってたこと。覚えてるか?」

「…誰一人かけてもいれいすはここまで来れなかった。感謝の気持ちは忘れない。」

りうらがぽつりと言った。

「…お前らには感謝しとんねん。でかい舞台で歌いたい、って言ったのを真剣に聞いてくれて、引っ張ってきてくれて。俺はそんなお前らに頼りっぱなしだった。」

「…っ違う!!頼ってたのは俺たちの方や!あにきにはもっと違う可能性があるのを知ってながら手放してやれんかった!」

いふが泣きそうな声で叫んだ。

「悠くんはもっと大きくなれる男やもん。やから俺たちがそれを邪魔したくなかったんに…そう思ったから、あの時…」

「うん、そうやな。ありがとうな。」

「ねえ、あにき、やっぱりあにきいないとだめだよ。ソロデビュー、やめたんでしょ?戻ってきて。ね?出てきてよ!」

初兎とほとけが1歩前へ詰め寄った。

「そうやな。でも、自信をもてない今のままやったら、結局また甘えてまう。やから……」

そこで、悠佑は1度言葉を切った。

「ここだけの話な。俺、アメリカへ歌の勉強しにいこう思っとんねん。」

「!!!!!」

「1年、あっちで勉強して、自信をつけて戻ってくる。そうしたら、また一緒に歌ってくれるか?」

「……もちろん!」

「それまでに、俺達もあにきに見合うような男になってるからね!」

「絶対、もどってきてよ!」

「おう!……みんな、時間貰ってもうてごめんな。俺はこれでいなくなる。その間、ダイスナンバー六番はお前らいれりすに預けるから、よろしくな!」

静かに聞いていた客席が、我に帰ったように沸いた。

「いれいすバンドも、巻き込んで迷惑かけてしもてごめんな。俺が戻ってくるまで、こいつらのこと頼むわ。」



「…みんな、私的な話聞かせてごめんね。そろそろまた再開しよう。次は…」

ないこはそこで言葉を切って‪”‬チームいれいす‪”‬を見渡した。みんな、同じ気持ちだったようで大きく頷く。

「これ歌うの久しぶりかも。『天真爛漫夢宴』!」

練習なんてしていないのに、バンドメンバーたちが戸惑うことなく演奏を始めた。



やっと、見たかった光景に戻った。もう大丈夫だろう。ほっと息をはいて、悠佑はマイクを置いた。

「…またな、みんな。」

晴れやかな笑顔で、その場を後にした。

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