テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件

今頑張って読んでます 正直きついです なんと言うか…いい大人がこんな中学生痛々しい女子が書きそうな夢小説を書いてるのが恥ずかしすぎる
婚約後、私はすぐに王都へ呼び出された。それからはアウレリアさまの用意してくれたあの邸宅で、フラウや他の使用人の方々と今まで、こうして暮らしている。
私はアウレリアさまに、結婚までは故郷にいると言ったのだけれど、側にいたいし、私と婚約したとなれば、王都にいてくれたほうが安全だから……と、アウレリアさまは私を諭してくれた。私はアウレリアさまのその優しさに、甘えさせてもらうことにした。
あの出会いから、もうすぐ一年が経つ。最初は心細かったけれど、アウレリアさまもいるし、使用人の皆さんも優しくて。この王都での暮らしにもすぐに慣れることができた。
この一年、アウレリアさまのご厚意で、色々と花嫁修業もさせていただいて。初めてなことばかりで大変なときもあったけれど、アウレリアさまのことを想えば、努力も忍耐も、ぜんぜん苦痛ではなかった。最初は私との結婚に懐疑的だった宰相閣下――お義父さまも、少しずつ、アウレリアさまにふさわしく成長していく私を、ついには認めてくれた。お義母さまは、最初からとても優しかった……。
生まれを考えれば、奇跡と呼べてしまうくらい、私は今、幸運な人生を送っている。この先ずっと、この穏やかで満たされた生活が続いてくれるのかと思うと、少し浮き足立ってしまう。私、こんなに幸せでいいのかな。そんなふうに思って、軽く首をかしげていると、鏡越しに視線を感じた。
フラウがいかにも、「ドレスはいかがでしょうか」といった表情で、こちらを見つめている。そうだった、今はドレスと決めないと。
「……アウレリアさまにも相談はしますけど、私はこちらを着させていただきたいなって。本当に素敵です。ありがとうございます」
ご主人の脇に控える職人さんに、鏡越しに軽く会釈した。
「ありがとうございます。それでは、こちらで進めるつもりでわたくしどももご準備させていただきますね」
「リティアさま。私はご主人と納期など、この先の予定を詰めますので、先に馬車へ戻っていていただけますか?」
「分かりました。では、外で待ってますね」
振り返ってドレスをご主人に預けると、完成を楽しみにしていますと期待の詰まった言葉を贈った。ご主人と職人さんとなんとか目を合わせて、口元に微笑みを形作る。
私は店員さんにお店の入り口まで案内され、外に出た。お店の前に止まっている馬車へ歩み寄ると、屋内で何かが崩れる音、ガラスの割れる音が鼓膜を揺らした。すぐにそちらを見れば、建物一階の扉が、乱暴に開け放たれるところだった。大きな荷物を脇に抱えた数人が足早に建物をあとにし、そしてすぐその建物の中から悲鳴が聞こえた。
「盗人よ!! 誰か止めてっ!」
視線を上げると、建物からは魔導具店の看板が吊り下げられていた。今、私の視界には、盗人たちしかいない。盗人を捕まえたいとは想うけれど、相手はどう見ても屈強な男数人で、私では少しの時間稼ぎもできそうにない。悔しいけれど、今の私には彼らを見逃すことしかできない。
そう歯がゆい思いでいると、なんと盗人たちは私のほうに走ってきた。どうして……? まさか、この馬車も盗むつもりなの?
アウレリアさまが用意してくれた大切な馬車を盗まれるなんてまっぴらごめんだけど、抵抗すれば何をされるか分からない。私は馬車から離れようとするけれど、そんな私よりも盗人たちのほうが明らかに早かった。
彼らは私――馬車へと駆け寄りつつ、その進路上にいる私に向かって刃を抜いて、それを――
私が「死」を覚悟するよりも早く、目の前で火花が散った。そして、金属のぶつかり合う音。……あまりに早すぎて、何が起きたのか理解するのに、数秒もかかった。馬車の脇から誰かが飛び出してきて、盗人の一閃から私を守ってくれたのだ。盗人の集団を見れば、彼らの後方にも、また別の人物がおどり出てきている。
「……またか。厄介だな」
目の前の人は、視線を盗人から外していない。独り言、だろうか……。
私がそう思っていた次の瞬間には、その人は盗人の刃をはじき返し、その背後に回り込んでいた。手にしたナイフの柄で盗人を昏倒させると、残りも一瞬のうちに片付けてしまう。たった数秒の間に、店の前は元の静かな場所へと戻っていた。その人は盗人を仲間らしき人たちに任せると、私のほうに近づいてきた。
少し長い黒い前髪から、目を引く赤い瞳が覗いている。
「怪我はないですか?」
とても優しい声音だった。
「あ、はい。大丈夫です……。あ、の…………ありがとうございました。あなたがいなかったら、どうなってたことか……」
それからしばらく、返事がない。何か変なことを言ってしまった……ということはないと思うのだけれど。下向きだった視線を軽く持ち上げてみると、その男の人は私を見ながら、何か考えているようだった。
「えと……どうか、しましたか?」
「あ、いや……なんでもないです。無事だったのなら、良かった。王都は最近少し物騒なので、どうかお気を付けて」
「物騒、ですか?」
そんなふうに思ったことはなかったから、思わず尋ねてしまう。
「ええ。ここ数年で王都にはかなりの数、異国の民が増えましてね。国境付近の少数民族が難民としてやってきたり、隣国出身者が出稼ぎとして来たり……」
そういうことか。彼の話を聞いて合点がいった。私が王都に来てからまだ一年しか経ってないから、私はそれより昔から起こっている王都の変化に気付かなかったんだ。
「それ自体はまあいいんですが、そういった人々が犯罪に走ることも多くて」
彼は縛り上げられた犯人たちを見やる。よく見てなくて気付かなかったのだけど、盗人たちは肌の色が私たちと少し違っていた。記憶が正しければ、多分南の国出身のはずだ。
「……異国の民の犯罪者を捕まえるのは、今月に入ってもう三度目です」
「確かに、それは多いですね」
十日で三度、三日に一度捕まえていると考えると流石に多すぎる。
「見たところ、裕福なご家庭のようですし、ご自宅に押し入られるということはないと思いますが、こういった街中では何卒お気を付けくださいね。それでは」
彼は軽く会釈して、外套をひるがえす。大の男数人を運ぶのは難しそうだし、近くの衛兵を呼びに行くのだろう。そう思って、私はやっと自分鼓動の早さに気付いた。もし彼がいなければ、今ごろ私は――
彼と話す前に感じた恐怖を今になって実感する。足がふらつき、その場に座り込んでしまった。そのあと、すぐにフラウが店から出てきて、何が起こったのか、かいつまんで説明をした。馬車に乗せてもらって一息ついて、私はふとこんなことを思った。
「……名前、聞いておくんだった」
◇ ◇ ◇
馬のいななきに、黒い髪の男――ルクスは振り返った。店の前に止まっていた馬車が走り去っていくのを、ルクスはその赤い瞳で見送る。
盗人から救った女性を見て、彼はとても懐かしい感覚に襲われていた。伏し目がちなその女性に、かつて会った女の子の面影を、彼は見ていた。
(……あの子に似ていたな)
十年以上前にかけられた言葉を、彼は胸のうちで反芻する。そして彼は頭を振り、自分の想像をかき消した。
(でもまさか、あの子のわけないか)
あの子は今もきっと、辺境でひっそりと暮らしているだろうから……。そう自身の考えをまとめ、彼は指示を待つ仲間たちに向き直るのだった。
◇ ◇ ◇
九死に一生を得たあの日から、数日後。私はアウレリアさまと一緒に、馬車に乗っていた。あの日お屋敷へ帰ると、アウレリアさまから近いうちに王家の方々にご挨拶へ行くと言付けがあったのだ。
王都へ呼んでいただいて随分と立つけれど、王家の方々にお会いするのは今日が初めてだ。昨日の夜から緊張してしまって、今日はあまり眠れていない。今も少し、手が震えている。
アウレリアさまはすぐそれに気付いてくれて、私の手を優しく握ってくれた。手のぬくもりで、緊張が少し和らいだ。
◇ ◇ ◇
ドミナティオ王国は王制だけれど、今在位しているカドゥクス七世はもう何年も前から病に伏せていて、公の場に姿を見せることは基本的にないらしい。そのため、今日もご挨拶するのは、王位継承権第一位のクレメンティア王子になる……とアウレリアさまはおっしゃった。
謁見の間にて、緊張に震えながら恭しくご挨拶した私に、件の第一王子は優しく温かい言葉をかけてくれた。
「見事な口上だ。作法もしっかり身についているな。平民の出だと聞いていたが……しっかり努力されたのだろう。その調子で、この先もアウレリアどのを側で支えてやってほしい。彼は何事も頑張りすぎるところがあるからな」
どこか懐かしい印象を与える王子の目元から視線を外して、軽くお辞儀をする。
「は、はいっ。……この先も精進し、生涯にわたって彼の側でお支えできるよう、努めます」
「うむ、結構。……そして、アウレリアどの。良い女性を見つけたようで、私も安心した。お前は仕事ばかりで、女っ気がなかったからなぁ。お父上から代替わりしても、しばらくは伴侶ができないのではないかと、私も少し心配していたのだ」
「クレメンティアさまにご心配いただくなど……恐れ入ります。私も殿下と同じように思っていたのですが……恥ずかしながら、視察先で彼女に一目惚れを」
ちらっと見たアウレリアさまの頬が少し赤く見えたのは、気のせいではないと思う。私も少し、口元が緩んでしまう。
「ははっ! やはりお前も人の子か」
「そのようです。それでは殿下、婚姻のご報告は以上となります。せっかくの謁見ですので、このまま少し仕事の話しをできればと思いますが……よろしいでしょうか?」
「よい」
「リティア。少し部屋で待っていてくれるかい?」
「分かりました。……殿下、失礼いたします」
「うむ。次は結婚式で会おう」
恐縮して、ペコペコお辞儀してしまいながら、私は謁見の間を出ていった。
◇ ◇ ◇
外に出るとすぐそこにフラウが控えていてくれて、用意していただいたお部屋まで付き添ってくれた。そんなフラウも、せっかく王城に来たので結婚式の段取りを詰めてきますね、と足早に部屋を出ていく。
広い部屋にぽつんと残された私が、持ってきていただいたお茶をいただいているときだった。
「……やはり、何かおかしい」
老人の声だった。最初は空耳かと思ったけど、続けてどんどん聞こえてくる。
「そう思っているのは、私だけなのか。誰もあの男を、不審に思わないのか? でもよく考ええれば、分かるはずだ。ここ数年、ここ数年だ。それだけの短い期間で、一気に変わった。それはあの男が、顔を見せるようになってからだ」
この部屋の壁が薄いのか、声ははっきりと聞き取ることができた。言葉の内容を気にしないことにしてみるけれど、やっぱり声ははっきりと私の耳に届いてしまう。私は勝手に色々と聞いてしまうのが忍びなくて、声の主を見つけてもう少し声のボリュームを下げてもらうことにした。
部屋を出て、声のほうへ進む。ある程度進んでから、道を覚えていないことに気付いたけれど、もう戻ることも難しそうだ。私はそのまま、声のほうへ進み続けることにした。まっすぐ行ったり、左右に曲がったりして、ようやく声の主のいる部屋を見つけた。
ずいぶん古いようでとてもきしむ扉を力一杯押して開けると、ほこりっぽい部屋の中に老人を見つけた。思ったとおり、老人は一人だった。聞こえていたのは、全部独り言だったから。
「あのぅ……少し、よろしいですか? 部屋の外まで声が届いているので、その……もう少し声を小さくしたほうが良いのかなと思うのですが……」
どこかで会ったとことがあるような顔をした老人は、部屋の中をぐるぐる回りながら、独り言を続けている。私の声、小さくなかった気がするけど……考えるのに夢中で、聞こえなかったとか。もう一度、今度は少し大きな声で同じことを告げてみるけれど、結果は同じだった。年老いて、耳が遠くなった……ということだろうか。
「そもそも、あんな清廉潔白な経歴であることが疑わしい……。あの男の父親も、別に最初は有能ではなかった。他の大臣と、何ら変わらなかった。なのに、気付けばあそこまで出世し、いまや国の中枢だ。だというのに、政策は自分に利益のないことばかり……。おかしいだろう。人は必ず、欲を出す。それがあの宰相にはない……。そうか、あの男と――息子のアウレリアと結託しているのか。そう考えれば……うむ、納得がいく」
「え?」
老人の言葉に婚約者の名前を見つけて、私は自然と独り言に耳を傾けた。
「宰相が進めた移民政策も、別にこの国には必要ない。労働力も足りているはずだ……。王国軍の採用強化も、都市の治安維持強化が名目だが……治安を悪化させているのは、おそらく移民だ。そう……この政策は、すでに矛盾している。なぜ誰も、それに気付かない? あの親子が手を回しているから……? でも、何故だ? なんのためにそんなことを……? まさか――」
「――あの、どうかされましたか?」
部屋の外から声をかけられて、私は振り返った。使用人の女性が、不思議そうな顔でこっちを見ている。
「えっ? あ、その……聞いてのとおり、大きな声が聞こえたので、気になってしまって……」
「声?」
その人はよく分からないというふうに、首をかしげた。
「はい、先ほどからあの方が……」
「あの方……?」
使用人は眉をひそめて、疑問の色を濃くする。なんだろう、どこか話がかみ合っていないような……。
「ええ、あちらにいる……」
「えっと、その……。見たところ、この部屋にはあなた以外、どなたもおりませんけれど……」
はっとして、振り返った。今もあの老人は、独り言を続けている。
つまり、あの声も姿も私にしか届いていない。老人はここに存在しない――死者だったのだ。そう気付いた私は、急いで全てを誤魔化そうとした。
「えっと、その…………私、ちょっと疲れてるのかも。ごめんなさい。変なことを言ってしまって……。私今日、初めてここに来たので……。第一王子殿下に結婚のご挨拶に来て、部屋をご用意いただいたんですけど……そこまで案内していただけないでしょうか?」
「なるほど……分かりました。こちらへどうぞ」
使用人は私を助けるように、王子殿下に謁見は確かに大変ですもんねと付け加えつつ、私の前を進んでいった。
◇ ◇ ◇
緊張して疲れたらしいリティアを屋敷に送り、アウレリアは長く息を吐いた。
アウレリアですらいまだに緊張するのだ、平民出身のリティアの心労は大きいだろう。ゆっくり休んでほしいと内心思っていると、屋敷からフラウが駆け寄ってくる。
「何かあったのか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
歯切れの悪さに、アウレリアは先を促した。
「今日、お城で聞いたんですが……リティアさま、幻聴に悩まされて、お城の中をさまよってしまったみたいで……」
「なに?」
「城勤めの使用人がリティアさまを見つけて、お部屋まで案内してくれたようです」
「……そうだったのか。不調はそれだけか? 私に隠して、怪我したりなどは……」
「それはないみたいです。でも最近は色々とありましたし、お疲れだったのだと思います」
城下町で泥棒に襲われかけたと聞いたとき、アウレリアはひどく動揺した。
「そのようだ。幸いこの先、特に予定はない。しっかりと休ませてやってほしい。それから、また何かあれば、すぐに私に知らせてくれ。大事なリティアに何かあっては、困るからな」
「はい! かしこまりました」
フラウの背中を見送り、アウレリアはリティアの力について思いをはせた。
(このまま何もないといいが……)
◇ ◇ ◇
あのあと屋敷に戻ってきた私はもう休むよう言われたけれど、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。
老人の言葉が、頭の中で反芻される。
しばらく眠れないことを悟った私は、老人の言葉の真偽を自分の目で確かめることにした。
夜、静かになった屋敷の中を進み、広間へ行くと、二十四部、過去の新聞を持ち、書庫へ向かった。幸運なことに老人の言っていた政策は王国の目玉事業で、新聞に載っている情報もたくさんあった。それらを王国の歴史書と照らし合わせていく。
疲れているはずなのに、とても集中できて、だから私は、背後から近づく人影に気付くことができなかった――