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そういや行人が言っていたっけ。自分はキスをしたことがあると。
「だれと……?」
親の再婚で姉と弟になって以来、同学年ということもあり行人とはいつも一緒だった。
恋多き──残念な、という形容詞がつく──姉に比べ、弟はもてるわりに浮いた噂ひとつなかったではないか。
歴史オタクが高じて現代人には興味がないものだと思っていたのだが。
「私にナイショで、誰かと付きあってたのかな……」
何故だろう。小さな針がチクチクと心臓の表面を嬲るよう。
「………………」
下くちびるを押す己の指先。
その指がビクリと震え、隠すように背中に回されたのは、突如聞こえた細く高い悲鳴のような叫び声のためだった。
「ぎゃあぁぁ!」
あられもない金切り声は、女性のものだ。
振り返った先、その路地で両手を掲げた若い女が片足を高く高く振り上げている──違う。
派手に滑ったのだ。
見事にすっ転んで尻もちをついた、まさにその瞬間の目撃者となった星歌の足元にコロン……と靴が哀れな様子で転がってきた。
大きめサイズの白いセーター、短めのプリーツスカート。とっさに拾った靴は学校指定のもので星歌にとっても見慣れた、つまり制服である。
そう、地面にあおむけに横たわって呆然と目を見開いているのは、星歌が昨日まで務めていた高校の生徒なのであった。
JKのいたたまれない姿に、今更ながら顔をそむけてやったのは、せめてもの親心といったところであろうか。
「す、すみま……」
女子高生の傍らから、蚊の鳴くような声があがる。
見るとクリーム色の長方形のケースを両手で抱えるように持った人物が、彼女の前で立ち尽くしている光景が。