一見して職人と分かる白のコックシャツと、前掛けスタイルの赤いエプロンという出で立ちで身を縮めているのは若い人物であった。
小柄な体躯と、幼いとも思わせる容貌。
茶色の髪が後ろで跳ねているのが、小動物のシッポを思わせる。
「ごめんなさい……」
もう一度呟いてから、一歩、女子高生のもとへと近付いた。
倒れた彼女に手を貸したいのだろうということは、傍で見ていても分かる。
いかんせん、両手にケースを抱えているため手を差し出すこともできなければ、側で屈むこともできない。
星歌の視線は女子高生、職人の間を数回往復して、それから地面に転がる薄茶の塊に釘付けになる。
「あぁ……」
決して勘の良いタイプではない彼女だが、全てを察したのだろう。
軽く額を押さえて呻き声をあげる。
学校の正門の前は車一台程度の幅の道路が通っており、小さな商店が並んでいる。
住宅地でもあり、また立地の良さもあって、学生向けのファストフード店やコンビニ、弁当屋などが並ぶその一角。
その中の一店舗。
数か月間空いていたテナントにポスターがいくつも貼られていた。
前面に大きく開けられたガラス窓から、店内の様子を伺うことができる。
洒落た小さなシャンデリアの下に、花の形のオブジェを中心に木の棚が設えてあった。
壁面の棚には、小さめサイズのパンが載せられたトレイが几帳面に並んでいるのが見てとれる。
どうやらパン屋がオープンしたようだ。
星歌が見ているのは、そのパン屋の横の路地。
若い職人と女子高生。
彼女の足元に転がっている薄茶色の物体。
地面に押さえつけられたように、ぐにゃりと潰れてしまっているパン──それが全てを物語っている。
地面に転がったままのJK。
凍り付いたように動かないのは、ひとえに恥ずかしいからに他ならないと分かる。
荷物を抱えたまま固まる職人がいなければ、とっくに立ち上がって走り去っていただろうに、こうやって下手に心配されるとどう反応したら良いやら。
「……あの、大丈夫?」
いたたまれない。
あまりにいたたまれなくて、星歌はそろりと路地裏に入っていった。
新たな人物の登場に、女子高生がビクッと身を震わせる。
つまり、こういうことだ。
裏口からエントランスに回る途中で、職人がうっかりパンをひとつ地面に落としたのだろう。
たまたま通っていた女子高生が、それを踏んだ。
ズルリと滑って転んだのだ。
その瞬間を星歌が目撃したといったところか。
「ねぇ、大丈夫? 今、授業中じゃないの?」
じりじりと近付くと、弾かれたように女子高生が跳ね起きた。
「だ、だいじょぶです……あ、ほんとに。だいじょうぶですから……」
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