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らてぃ
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胡宮うらら°
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ゆる
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【はかなきもの】第5話
謙治と出会ってから、一週間経った。
月が段々と顔を出しているのを見る度に、
謙治が居なくなってしまうことを実感し、
胸が苦しい。
今日は、桜を観る予定だ。
僕は “いつもの” ベンチで、謙治がやってくるのを待っていた。
カラン、コロンと、今ではすっかり聞き馴染んでしまった下駄の音が近づいてくる。
「やっと来たな」と、どこか安心しながら音のする方へ目を向けようとした、その時だった。
『だーれだ?』
背後から不意に伸びてきた細い指が、僕の目を優しく覆う。
視界が真っ暗になると同時に、あのあたたかい陽だまりのような香りが、僕を包み込んだ。
「わっ、ちょっと、謙治……!」
驚いてその手を退けながら振り返ると、そこには一週間前と何も変わらない、悪戯っぽく細められた、あの美しくて真っ直ぐな瞳があった。
『あはは! 幸一くん、待たせてごめんなぁ?』
「も〜…やめてよ」
『はいは〜い笑』
謙治はそう笑うと、僕の隣に並んで歩き出した。僕も立ち上がり、謙治を追いかけるように歩調を合わせる。
目指した先は、街外れにある桜の名所だ。 坂道を上りきると、視界一面に淡い薄紅色の世界が広がっていた。満開の桜の木々が、春の風に揺れてざわめいている。
「わぁ……凄いな……」
『うわぁ、ほんまや! めっちゃ綺麗なぁ、幸一くん!』
謙治は子供のように目を輝かせて、桜のトンネルをくぐり抜けていく。
僕はそんな彼の背中を追いかけながら、近くの芝生に腰を下ろした。そして、昨日から用意していた紙包みを、少しぶっきらぼうに差し出す。
「ほら、これ。食べれる?」
中身は、近くの和菓子屋で買った三色団子だ。
『えっ、お団子!? 嬉しいわぁ! 幸一くん、俺のために用意してくれたん?』
「ち、違う! たまたま買っただけ…!!」
嘘だ。
謙治が喜びそうな顔を想像しながら、昨日からずっと楽しみに選んでいたなんて、口が裂けても言えない。
顔が熱くなるのを隠すようにそっぽを向くと、謙治はふにゃりと嬉しそうに笑った。
『なぁなぁ、幸一くん』
「ん? 何」
『俺、手が汚れるの嫌やから、あーんして?』
「っ、自分で食べてよ…!!」
勢いよく振り返ると、謙治はわざとらしく口を開けて待っている。
そのふざけた様子に、また耳まで真っ赤になっていくのが分かった。
「もう……一回だけだからな!」
文句を言いながらも、僕は観念してお団子を一本手に取り、謙治の口元へ運ぶ。
謙治は『んむ』と満足そうにそれを頬張った。
『ん〜! 美味いわぁ! 幸一くんに食べさせてもらうお団子は格別やな!』
「うるさいッ!、静かに食べてよ……あ」
見れば、謙治の白い頬に、小さく餡子がついていた。
本当に、この男は。
僕はため息をつきながら懐からハンカチを取り出し、身を乗り出して、彼の頬を優しく拭った。
「ほら、ついたまま…子供じゃないんだから、」
拭き終えて、ハッとした。
至近距離で、謙治のあの真っ直ぐな瞳が、じっと僕を見つめていた。
からかうような色はなく、ただ、ひどく愛おしそうに、僕を映している。
どくん、と心臓が大きな音を立てた。
『……ありがとーな、幸一くん』
いつもより少し低い声で囁かれ、僕は慌てて身体を引き離す。
その時、ふわりと春の風が強く吹き抜け、僕たちの間に大量の桜吹雪が舞い散った。
「わ、すごい風……」
頭や肩に落ちた花びらを払おうとして、ふと隣の謙治を見た瞬間、僕は思わず吹き出してしまった。
「ふふっ……」
『えっ、何ぃ? 幸一くん、急に笑ってどうしたん?』
謙治が不思議そうに首を傾げると、その頭の上で、綺麗に並んだ二、三枚の桜の花びらが、ちょこんと乗っている
「いや、だって……謙治の頭に花びらが」
『え、マジで!?』
謙治が慌てて自分の頭をパタパタと叩く姿が、いつもの大人びた余裕を無くしていて可笑しくて、可愛かった。
『あはは、ほんまや! 桜の帽子やな!』
と笑っている謙治を見ると心が満たされると
同時に、なんだか胸が苦しくなる。
この気持ちは一体何だろうか。
「……あ」
気がつけば、桜の薄紅色に染め上げられていた世界が、いつの間にか夕闇に飲み込まれようとしていた。
春の陽はすぐ隠れる。 楽しそうに桜を見上げる謙治の横顔が、じわじわと藍色の影に染まっていく。
街灯の灯りだした帰り道。 ふと見上げた夜空の片隅に、少しだけ欠けた月が浮かんでいた。
一週間前、喫茶店で謙治が言った言葉が、冷たい刺のように脳裏をよぎる。
”次の満月……やから一ヵ月後にまた死のうと思ってねん”
一週間、経ったのだ。
あの日は真ん丸だった月が、今はもう、形を変えている。
それは、僕たちが過ごした愛おしい時間の証明であると同時に、謙治の“約束の日”へ向かうカウントダウンそのものだった。
『……あぁ、月、綺麗やなぁ』
隣を歩く謙治が、足を止めて空を見上げていた。
昼間のあの、お団子を頬張って子供みたいに笑っていた男と同一人物とは思えないほど、月光に照らされた横顔はひどく静かで、透き通っている。
謙治は僕の方を振り返ると、いつもと変わらない、ふにゃりとした柔らかい笑みを浮かべた。
『なぁ、幸一くん。……あと、三週間やね』
まるで、明日の用事を話す様な穏やかで、残酷な声だった。
「……っ」
怒ることもできず、ただ胸の奥を激しく締め付けられる。
何も言えないまま、気づけば、僕は隣を歩く謙治の藍色の着流しの裾を、ぎゅっと握りしめて立ち止まっていた。
『ん? どうしたん、幸一くん』
不思議そうに、謙治が足を止めて振り返る。
その瞬間、自分の衝動の恥ずかしさに、顔がカァーッと熱くなるのが分かった。
すぐに手を離さなきゃいけないのに、なぜだか指先に力を込めたまま、どうしても動かすこと
ができない。
「……なんでも、ない」
僕は謙治の顔を見られないまま、俯いて、蚊の鳴くような声でそう呟いた。
顔だけでなく、耳まで真っ赤に染まっていくのが自分でもわかる。
いつもなら、ここで
『幸一くん、耳真っ赤やん!かわええなぁ〜!』
と大笑いするはずの謙治だった。
けれど、いつもの揶揄う様な笑い声は聞こえてこない。
静寂の中、僕が掴んだ裾のあたりを、謙治がじっと見つめている気配だけが伝わってくる。
『……?』
消えそうなほどに強く縋りついてくる僕の手の感触と、赤くなった僕の顔。
そこに込められた、僕の言葉にならない感情に、謙治が、ほんの少しだけ勘づいてしまったような
――そんな、ひどく静かで濃密な沈黙が、二人の間に流れた。
月光に照らされた謙治の真っ直ぐな瞳が、いつもより少しだけ、優しく、真剣に揺れる。
『……そっか。まぁ、夜道は危ないからな』
謙治はいつものふざけた調子をあえて引っ込めて、僕の手を優しく解くようにしながら、僕のすぐ隣にぴったりと並び直した。
そして、今度は彼の方から、僕の歩調に合わせるようにゆっくりと歩き出す。
『こっからは一緒に、ゆっくり歩こな?』
いつもより少しだけ過保護で、静かなトーンの声。
僕は「……うるさい」と小さく呟いてそっぽを向くことしかできず、だけどその温かい距離を、どうしても拒めなかった。
作者のらてぃです!
投稿が遅くなってすみません💦
プライベートのことで色々忙しくて投稿できてませんでした😭
余談ですが、つい先日に私の性癖をブチ抜いてくる作者様にフォローして頂いて、私は死ぬほど調子に乗っております😏😏😏
私の作品が好きと仰って下さったので調子に乗りまくりで…自分自身のチョロさを再確認した一週間でした🫵🫵
コメント
3件
コメ失礼します〜🤝 真面目に感情移入しすぎちゃうから、読むと若干しんみりしてくる感じがめっっっっっっちゃ好きです、、 あとやっぱシンプルに方弁書くのバリうまくて見てて気持ちいいです!🫶
第5話、もう胸がぎゅうってなったわ…! 桜の下でのやりとり、あーんのシーンとか謙治の頭に花びら乗ってるのとか、ぜんぶ尊くてニヤニヤが止まらんかった。でも最後の「あと三週間」で一気に現実戻されて、裾を握る幸一くんの気持ちが痛いほど伝わってきて切ない…。 謙治が冗談抜きで優しく寄り添うところも沁みる。 この距離感、本当に好きです。続きが気になる!