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ルームキーを受け取り、二宮が先にカードキーを差し込む。
「入って」
振り返って促されたその声は、さっきまでの挑発とは違う。
妙に静かで、どこか優しさを帯びていた。
元貴は無言で頷き、
部屋に足を踏み入れる。
カーテンの隙間から見える、夜の東京。
それがどれだけ煌びやかでも、
今はそれより、すぐ背後にいる男の気配のほうが、ずっと重い。
「……ほんとに緊張、してない?」
「……何回聞くんですか、それ」
笑いながら言うと、後ろからすっと腕が伸びてくる。
ジャケットを脱がせるような仕草。
だけど――
その指先は、襟元をなぞるだけで、決して脱がせはしない。
「脱がせないんですか?」
「うん、まだ」
「焦らしてるつもりですか」
「……気づいた?」
にやりと笑う声。
だが元貴も、負けるつもりはなかった。
彼は振り返り、二宮のネクタイに手をかける。
「じゃあ、俺が先に触ってもいいですか?」
「どうぞ」
あっさりと許可が出た。
けれどその瞬間、
“この人、やっぱり強いな”と思う。
元貴は指先でネクタイを解き、
そのまま第一ボタンに触れる。
ほんの数秒、肌が覗いた瞬間――
「……お返し」
言うなり、二宮の指が元貴の腰に回り込んでいた。
「っ……!」
「君が解いたら、俺も解く。フェアだろ?」
「ずるい」
「それ、褒め言葉」
そのまま、ベッドの端まで歩かされる。
何も言わないまま押し倒された元貴は、
仰向けの姿勢で、ただ見上げることしかできなかった。
でも、それすらも悔しい。
「……触られたら、どんな顔するかって…言ってましたよね」
「言ったね」
「……じゃあ、ちゃんと僕を見ててください」
そのまま、元貴は自分のボタンを外していく。
一つ、また一つ。
色白い胸元が露わになる。
でも、互いの視線は決して外さない。
「……元貴」
「なに」
「俺、すごい今…君に負けてる気がする」
「俺も、ですけど」
ふたりの距離が、一気にゼロになる。
唇が触れるか、触れないかの距離。
けれど――キスは来ない。
「……焦らしてます?」
「うん、さっきのお返し」
小さな意地悪の連続。
でもその中には、確かに優しさが混じっている。
二宮の指が、ゆっくりと元貴の手を取る。
「震えてる」
「震えてませんってば…」
「震えてるよ。嘘が下手だね」
そのまま、手の甲に唇を落とされる。
「……今日だけは、元貴の全部、もらっていい?」
「……全部は渡しませんよ」
「どうして」
「勝負はまだついてない」
二宮は笑った。
「面白いよ、君」
そしてようやく、
キスが落ちた。
触れるだけのものじゃない。
噛むように、飲み込むように、奪うように。
舌が絡み、唾液が混ざり、
どちらが先に息を切らすかの勝負。
キス一つで、ここまで息が上がる。
「……っ、意地悪な人、好きですよ」
“駆け引き”は終わらない。
それはベッドの中でも、続いていく。