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「美紗ちゃーん。真琴のお兄さんにちょっと話聞いてたから、美紗ちゃんの魂胆はだいたい分かってるけど、酷くない? 会社の人たちに俺のこと、【美紗ちゃんの浮気相手】に見せかけたでしょ? 別に美紗ちゃんの会社に知り合いいないからいいけどさー、全然知らない人間に俺まで悪者扱いされるのもちょっとねー」
私に腕を組まれながら……というか引っ張られながら歩く日下さんが、隣で口を尖らせた。
「すみませんでした。本当にごめんなさい。私の思い付きの寸劇に付き合ってくれてありがとうございました。日下さんがいてくれたおかげで、嘘に説得力が出せました。……なんでウチの会社にいたんですか?」
しばらく歩き、会社からだいぶ離れた為、しっかりつかんでいた日下さんの腕を解放する。
日下さんから手を放した途端に、急に恥ずかしさが湧き出てきた。
私は、肉食女子でもなければ、自分から告白をしたこともないチキンな人間だ。
恥ずかしがり屋という可愛い類の人間ではなく、振られて辛い思いをしたくないという、ただただ逃げ腰の人間。
日下さんにおんぶをしてもらった時は、体調不良と逃げたい一心でそんなことを感じる余裕もなかったけれど、少し冷静な時に勇太くんではない男性に触れるのは、緊張と照れと、もう感じる必要もない罪悪感を伴った。
「美紗ちゃん、彼氏と会社で出会ったって言ってたっしょ。前に真琴が『和馬の会社、お兄ちゃんの職場の近くなんだー』って社名言ってて、たまたま覚えてたんだよね。で、美紗ちゃんの様子を見にきてみたら、こんなことに……」
日下さんの意地悪な視線が刺さる。
「本当に申し訳ないです」
頭を下げるという謝罪を口実に、突き刺さる視線を回避する。
「なーんか、大々的に大嘘吐いてるんだってね、美紗ちゃん。今のところバレてないらしいじゃん。女優だねー」
視線を合わせようとしない私の肩を、日下さんが人差指でツンツンと突いた。
「容姿的に女優は無理です。私はただのペテン師です。……全員纏めて騙せるなら良かったんですけどね。1人……佐藤さんだけが私の嘘を知ってるから大変。佐藤さんが変に動いて私の嘘を覆したりしないかヒヤヒヤしてます」
肩にボタンでもあったのだろうか。日下さんの指に押されて、スイッチが入ったのか切れたのか、ふいに本音が零れた。
会社ではずっと気を張っていた。
会社の人間ではない、私の事情を知っている日下さんと、何となく話をしたくなった。
「何か変な感じだよね、美紗ちゃんと佐藤さん。お互いがお互いを想って行動してるのに、お互いがお互いの意図とは正反対のことをしてるんだもん」
私を見て呆れた様に笑う日下さん。
「佐藤さん、優しいから……」
勇太くんの優しさを少し厄介に感じながらも、あっさり破談を受け入れられたらそれはそれで悲しかったはずで。私は勇太くんのことよりも、自分の気持ちに矛盾だらけの私自身に1番手を焼いていて悩んでいるのかもしれない。
結婚したいのに、したくない。勇太くんの優しさを、拒否しながらも嬉しく思っていたり。
こんな私の思考を見透かしているから、日下さんは呆れているのかもしれない。
「美紗ちゃんの嘘だって、佐藤さんへの優しさからでしょ?」
そんな日下さんの言葉に、目頭が熱くなった。
こんな時に、自分を汲み取ってくれる存在が有難かった。
「……自分のことを分かってくれる人がいるって、いいですね。救われます」
「じゃあ、俺のことも救ってくれない?」
日下さんの一言に、目頭は一気に冷え込み、眼球はカラカラに乾いた。
この人は何を言いだしているのだろう。今の私に何をしろと言うのだろう。
「……え?」
戸惑う私などお構いなしに、
「ハイ、腕組み直す‼ ハイ、この横断歩道渡る‼」
日下さんは勝手に私の手を取り、自分の腕に通すと、私を連れて何の用事もない方向へと歩き出した。
「ちょっと待ってください‼ どこに行くんですか?」
ズンズン歩く日下さんに若干引っ張られ気味になり、歩きながら足が縺れそうになる。
「行先言って逃げられたら嫌だから秘密ー。あ、さっき自分からやっておいて俺と腕組むのが嫌とか言うのもナシね」
日下さんがガッチリ脇を締め、私の腕を挟み込んだ。
「『逃げる』って……。ということは、あまり楽しい場所ではないということですね? さっき助けてもらいましたし、私に出来ることなら協力しますよ」
「さすが察しが良いね、美紗ちゃん。『楽しい場所じゃない』っていうか……聞こえはおそらく悪い。でも、結果スッとする所」
私に逃げる意志がないことが分かった日下さんは、歩く速度を緩め、私に歩調を合わせた。
聞こえは悪いのにスッとする場所……どこだろう。
横断歩道を渡りきり、2・3分歩くと、
「ハイ、ココ」
日下さんが足を止めた。
「え?」
立ち止まったその先にあったのは、ビルの1階に店を構えた旅行会社だった。
確かにどこかに旅が出来たら気分はスッとするだろう。でも、全然聞こえは悪くない。むしろ、楽しそうな響きだ。
コメント
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はーい、中めさん、第7話読みました〜! 日下さん、完全に美紗ちゃんの嘘を見抜いてて笑っちゃいました(笑) でも「自分のこと分かってくれる人がいるって救われます」っていう美紗ちゃんの本音がすごく沁みました…あのシーン、じんわり来ましたね。 最後の旅行会社、まさかの展開で「えっ?」って声出ましたよ!日下さんの行動力、読んでて楽しいです🌷