episode4 仕方ない
時間が経つにつれて俺たちのバンドは少しづつだけど、確実に名前を広げていった。
ライブの動員数も増え、曲がラジオで流れることもあった。
なにより、俺自身が音楽をもっと楽しみたいという衝動に駆られるぐらい音楽が大好きになっていた。
それは涼ちゃんの出会いがあってこそだと思う。
だが、それをよく思わない人もいる。
いきなり知名度を上げた俺たち、下積みは言うて1年経つか経たないかぐらい。
10年ここの業界に潜っている人なんてザラにいる。
だから若手のうち、それに高校生が自分たちより早く売れるなんぞ、嫉妬してやまないのだろう。
他の人より有名になっても、雑用や後片付けは「若いから。」の一点張りで押し付けてくる。
なんでもいいけどね。正直。
後片付けの時間も涼ちゃんとお話出来て楽しいし、最後に激しく扱った楽器に感謝する時間でもあるし。
ある日のライブ中、いきなりギターの音が消えた。
なんだなんだ?と思って歌うのを辞める。
それに合わせて若井もギターの手を止める。
「みなさぁん!!」
急にステージ上に上がっきたかと思えばマイクに大声を吹きかける。
コードをたどってみると、俺が使っていたギターのアンプのチャンネルを刺したマイクのコードの方へ変えられていた。
観客もザワザワしている。
その犯人の顔をちらっと見てみると、次の番だったはずのボーカルの方だった。
あ、この人前涼ちゃんがメロディーが好きって言ってたバンドの人だ。
俺が困惑してぽかーんとしているとその人は言葉を続ける。
「こいつらいきなり1年前に出てきたと思えばいきなり売れだしてウザくないですか?!」
はぁ?そんなことを言うために俺らのライブを邪魔したのかよ。
俺の大好きな音楽を止められて無性に腹が立った。
「ねぇ!バンドマンの皆さんはそう思いますよね?!」
俺らのファンの人もはぁ?という顔をする反面、出演者の方々はそうだー!と次々に名乗りを上げた。
「ですよね?!だから…」
こっちを見て退けと睨みつけるする。
まぁこういう事もあるか、仕方ないか。と俺は若井に片付けろと目で合図する。
若井は悲しそうな顔をしたあと、深くこくっと頷いた。
「俺らがバンドしちゃいまぁ〜す!!」
どこからとも無くベースの人、ギターの人、ドラムの人がステージ上に上がってくる。
正直言って悔しかった。
ファンの方にも申し訳なかった。
俺の気がもっと強かったらなにか変わってたのかも。
ここではもうライブできないだろうなぁ。
今日のお客さんには次どこでライブするか言えるけど、たまたま来れなかったお客さんにはどうやって説明しよう。
また新しいところでお客さん集めかぁ…
涼ちゃん、今日はまだ来ていないみたいだしどうやってライブする場所移動するって話そう。
心折れそうになりながらもギターを黒いケースに入れてステージをそそくさと降りる。
「ちょっと!あの人たちなんなんですか?!」
1人のファンの方が話しかけてくれた。
「私はミセスさんの音楽を聴きに来たのに!」
怒りがこちらまで聞こえてきた。
こんな風に思われていてとても嬉しかった。
「皆さんすみません、次からは会場移動します。」
ファンの方にペコッと頭を下げると渋々了解してくれた。
まぁ新しい場所でも心機一転、頑張るか!と意気込んで後ろでさっきのバンドマン達がほくそ笑みながらうるさい音楽を鳴らしている会場を後にしようとした。
どんっ!
気分が落ち込んでいたため、下を向いて歩いていたところ前から人が来ていることに気が付かず、ぶつかってしまった。
「あっ…すみません。お怪我ございませんか、?」
俺がそう問いかけると
「え?!もう終わっちゃった?!早くない?!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
見上げるとそこには目立つ金髪の涼ちゃんが立っていた。
「あれまぁ、終わっちゃってたかぁ〜。くそぅ、仕事早くケリつけて走ってきたのにぃ!」
息ゼェゼェの涼ちゃんは悔しそうに地団駄を踏む。
「違うんですよ藤澤さん!」
1人のファンの子が名乗りをあげる。
殆どバンドしている時間は涼ちゃんと話したり、曲を考えていたりするからファンの子も殆どメンバーとして扱っている。
「え?どうしたの?」
涼ちゃんが困惑して尋ねると
「あのバンドの人達にいきなり取られたんです!お前ら売れててウザイからって!!」
後ろのステージを指さして答える。
「なにそれ、」
いつもニコニコしている涼ちゃんのはの字の眉毛がピクっと動いた。
「あ、いやいいんだよ。もうあの人たちと一緒にライブなんてやりたくないし。俺らが移転するから。」
俺がすかさず訂正を入れたが
「ちょっとごめん、待ってて。」
それだけ言い残し、ステージの方へ向かっていった。
「あぁちょっ…!」
止めに行こうとしたら若井に腕を掴まれた。
「お前は黙って見とけ。」
お前なんて滅多に言われないから相当怒り心頭なんだなと俺は大人しくその現場を見ていた。
「あの!」
涼ちゃんがステージに上がってそのバンドマンに向かって叫ぶ。
「あぁ?んだよ。リーマンがしゃしゃり出てくんな。」
「なんで今やってるんですか?元貴達の番ですよ!」
「元貴…?あぁあのガキか。」
ふっと鼻で笑う。
「あいつ若手のうちから売れやがってよぉ。うぜぇんだよ。若いうちは下積みが大事だろ?だから経験させてやったんだよ感謝しろ。」
そんな悪口を浴びせられながらも涼ちゃんは動じない。
「んだよ、なんか言えよ。」
バンドマンが痺れを切らしてそういうと
「んなあっさい理由?笑 だから売れねぇんだよ。」
今世紀最大に悪い顔をして煽り返す。
それがあちらの逆鱗に触れたのか涼ちゃんは飲みかけの水をバシャッとかけられる。
「反撃の仕方よっわ 笑」
その一言で後はもうめちゃくちゃだった。
若井がボーカルの人の肩を取り持つまで涼ちゃんに一生拳を浴びせるし、涼ちゃんは反撃すらしなかった。
「二度と来るかよ。」
涼ちゃんはかーっ、ぺっ!!と痰を吐き散らす真似をしながらライブ会場を出た。
次回最終話&お知らせ
コメント
15件
りょつすごいよぉぉぉ🥲︎🥲︎🥲︎
fjswさんの意外な一面が見られてびっくり🫢
かっこいい…!!