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うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
1,300
「うーん…それってどれくらい?」
弊社は常々高稼働率を維持して収益性を高めているけれど、裏を返せば人繰りに余裕がないということでもある。
急な欠員が発生した場合にアサインできる優秀な代替要員はほぼいなくて、時にはユニットを跨いで人員を探しにいくことになる。
今だと…この春入社して研修を終えたスタッフたちがいるけど…さすがに即戦力には心許なくて、スキルセットが見合わないだろう。それにその新卒社員すらあちこち駆り出されて残っているメンバーは少ないはずだ。
豆さんは相手から差し当たってのタスクを詳しく聞いていて、これはもしかして彼が肩代わりするつもりなんだろうか。
今更見るまでもないけど、彼は今日も明日も打ち合わせ、出張、接待でスケジュールはすでにぎっしりだ。
この中でリスケできそうなものはなんだろ…。
彼のスケジューラーを睨めっこしながら、この後発生しそうな展開に備えてリリースできそうな予定を探し始める。
「おっけ。じゃあ明後日までな」
その言葉を最後に、電話が切れた。
はァ、と目の前でずいぶん重苦しいため息が聞こえたけれど、それは多分致し方がないだろう。
「弓家さん今の聞いてたでしょ」
「聞いてました。悲惨ですね」
「そうなの」
「ただ、あのマネージャーがインフルエンザなのはユニット会議で話題になっていましたよ」
「えー俺参加してなかったから」
「いや出てましたってば」
わかりやすい嘘つかないでくださいよ。
あら、そう?
可愛く小首を傾げるアラフォー男性。意外と似合うからやめてほしい。
「まあいいや」
豆さんは机の端においてあったタバコとオイルライターを左手でグッと掴む。どうやら一旦タバコに逃げるらしい。
そしてそのまま立ち上がって私を強い視線で見つめる。威風堂々、という表現がよく似合うその出立ちに、私は一種の予感を覚える。
「弓家さん、頼みがある」
「嫌な予感しかしないんですが」
「はい天才」
ひどく軽いセリフを吐き出した男は、数歩で個室の扉まで辿りつき、扉に背を預けて再びこちらを半ば挑戦的に見つめてくる。
「今電話で聞いた資料を弓家さん、作って」
「…やっぱり?」
「勘が良い秘書は最高だな」
扉にもたれてご機嫌に言葉を紡ぐパートナー様。
「ストーリーラインは俺が作る。スライドのコンテンツだけに集中してくれたらいいから」
「…現場離れて長いんでそうしていただけるとすごい助かります」
かろうじて笑顔を呼べるものを顔に貼り付けて応答すれば、だいじょぶだいじょぶいけるいけるー、とさらにご機嫌そうに部屋を後にする。
元々2人でいた部屋で、部屋の中にかしましさは一切なかったけれど、彼が部屋を出ると一気に静かになって一種の圧を感じる。
「正気ですか豆さん」
問いを投げかけた先の男は、当然ながらタバコ休憩でこの場にいない。秘書がプロジェクトの資料を作るなんて聞いたことないんだけど?
これ、万が一クライアントにバレたら結構な大問題になる気がするけど。
はあ、と遠慮なくため息をついて、急激な展開が生み出す緊張感を少しでも逃し…たはずが、残念ながら効果はなさそう。
とりあえず、豆さんがタバコ部屋から帰ってくるまえに、少しでも秘書業務を終わらせておこうか。
全く前向きな気持ちにはなれないけど、この後の山を考えれば1つでも多く仕事は終わらせておきたい。スリープ状態になっていたパソコンを再度立ち上げ、数分の猶予の間に全力でタスクに立ち向かう。
「絶対特別手当請求しよう」
この決意をもとに、明後日までを生き抜こうと私は誓った。
***
「うーん、ちょっとこのメッセージにこのコンテンツは弱いかな」
「あーっと、ごめん、これ入れなきゃだ」
「もうちょっと細かめに試算するとどうなりそ?」
予期せぬところで開幕した、久々のコンサルワーク。それもパートナーとダイレクトの1on1だ。尋常じゃない重圧だ。
通常の秘書業務も完全放棄はできないから、自由気ままに寄越されるミーティング依頼をセットし、放り投げられる社内事務手続きを代理で進め。
そして、毎日昼と夕方の最低2回は豆さんの時間をもらって、資料のレビューをしてもらう。
「えー筋いいじゃん弓家さん。コンサルでも即戦力でいけそうだけどね」
思えば、彼の時間を朝晩必ずもらえるという状況自体が異常だ。これ、その時間で自分が作った方が早いのでは?という言葉が何度か喉から飛び出て行こうとしたのをかろうじて押し留めている。
サンサンと陽光が降り注ぐ窓を眺め、夕方は眩しいなと呟いてブラインドをおろす豆さんは、時々ごく自然に私を褒める。
それが社交辞令だとわかっていても、上司から褒められるだけでやる気が加速度的に出てしまう私はチョロい。チョロすぎる。
「これ終わったら転籍しない?」
「…絶対しません」
「つれないねぇ」
会社にとって損失じゃないかな、と言いながらもそれ以上無闇な勧誘はなくて、
「じゃあ後少しだね」
と、そっと作業の背中を押してくれる。
気づけば作る資料のページ数が少し増えて。
資料作ったんだから、と社内の打ち合わせにも突っ込まれて。
本来なら文句の一つや二つも言いたいこのシチュエーションなのに、豆さんが時々落としてくれる優しさだけで全部なかったことにできてしまうんだから救いようがない。
「お疲れ、ありがとね」
コメント
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#### 感想 豆さんの軽いノリで「頼みがある」→「はい天才」って流れ、毎回ズルいな〜ってニヤニヤしちゃいましたw 弓家さんが「チョロい」って自覚してるのに、褒められてやる気出しちゃう感じ、めっちゃわかります。最後の「お疲れ、ありがとね」が優しくて、ああこの2人良いコンビだなってじんわり来ました。転籍しない宣言も含めて、信頼関係が伝わる良い回でした!