テラーノベル
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入学式から数日。
俺の頭の中は、あの時みた「泣きそうな顔で楽譜を抱えていた藤澤先輩」と「世界を拒絶するようにノートを閉じた大森」のことでいっぱいだった。
特に藤澤先輩だ。生徒会長のして完璧に振る舞っているけど、あの時一瞬だけ見せた縛られているような表情がどうしても頭から離れない。
「よし、当たって砕けろだ!」
俺は放課後、生徒会長室の重い扉の前に立っていた。深呼吸を一つして、勢いよくノックする。
「失礼しまーす!一年の若井です!」
中に入ると、山のような書類に囲まれてペンを動かしている藤澤先輩がいた。
驚いたように顔をあげる。
「あ、君は……入学式の時の。若井くん、だったかな?」
「覚えててくれたんですか!嬉しいな。先輩、今ちょっといいですか?」
「う、うん。ちょうど一区切りついたところだから大丈夫だよ。どうしたの?何か学校生活で困ったことでもあった?」
先輩はいつもの、ひだまりみたいな優しい笑顔を向けてくれる。でも、机の端にはクラッシックの分厚い楽譜が置かれていて、その上には「練習計画表」と書かれた厳しい筆跡の紙が乗っていた。
俺は迷わず、懐に忍ばせておいた自作のメンバー募集のチラシを机にドンと置いた。
「先輩!俺と一緒にバンドやりましょう!キーボード、先輩しかいないんです!」
「えっ……!?バンド…?」
先輩は目を丸くして、チラシと俺の顔を交互に見た。チラシには下手くそな字で『最高の音を鳴らす仲間募集!』とデカデカと書いてある。
「そうです!先輩の入学式でのピアノ、あの時聞いた一瞬の音だけで分かりました。絶対もっと自由に弾きたいはずだって!」
「……若井くん。熱心に誘ってくれるのは本当に嬉しいよ」
「じゃあ!」
「でもね…」
先輩は少しだけ困ったように眉を下げて、積まれたら書類を指差した。
「見ての通り、僕は生徒会長なんだ。行事の企画に、予算の管理。それに……」
言葉を切り、先輩は視線を自分の指先に落とした。
「放課後は毎日、家でピアノのレッスンがあるんだ。コンクールも近いし、親との約束もあって…。生徒会の仕事だけでも手一杯なのに、バンドなんてとてもじゃないけど時間が作れないよ」
「時間は作るものです!10分でも20分でもいい!先輩が「正しい音」から解放される場所がバンドなんです」
「…開放、か。魅力的な言葉だね」
先輩は自嘲気味にふっと笑った。
「でも、僕は君が思っているような、かっこいいキーボードディストじゃないよ。決められた音を決められた通りに弾くことしか教わってこなかった。君の探している熱いバンドには、きっと僕の音は邪魔になっちゃう」
「邪魔なわけないじゃないですか!先輩のあの叫んでるみたいなピアノ、俺はもっと聞きたいんです。生徒会長の仕事が忙しいなら、俺雑用でもなんでも手伝いますから!」
「ふふ、若井くんは本当に真っ直ぐだね。でも、ダメだよ。生徒会長が仕事を一年生に押し付けるわけにはいかないし…。何より期待に応えられないのが一番怖いんだ」
先輩の声が、少しだけ震えた。
「今の生活を壊す勇気が、僕にはまだないんだよ。ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」
そう言って先輩は、優しく、でも拒絶の意思を込めてチラシを俺に返してきた。
(…やっぱり、そう簡単には行かないか)
でも、俺は諦めるつもりなんてさらさらなかった。だって、チラシを返す先輩の指がさっきよりも強く、鍵盤を叩きたそうにピクりと動いたのは俺は見逃さなかったから。
「…分かりました。今日は一日引き下がります。でも先輩!」
俺は扉に手をかけ、振り返って満面の笑みを浮かべた。
「俺は、しつこいですよ?先輩がやりたい!って言うまで、毎日ここに来ますからね!」
「えっ、毎日!?それは困るなぁ…」
困り顔の先輩を残して、俺は生徒会室を後にした。廊下に出た瞬間、自分でも驚くほどワクワクしていることに気づく。
「よし、次はあの大森をどう落とすかだな…」
俺の挑戦はまだ始まったばかりだった。
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なの

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unknown
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白黒猫

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コメント
2件
うおおお第5話読んだよー!!😭💕 若井くんマジで一直線すぎる…!「先輩の叫んでるみたいなピアノ」って言い回しに胸グッときた。そんで藤澤先輩の「生活を壊す勇気がない」って本音、分かりすぎて泣ける…。でも「毎日来ます」って宣言するところ、推せるわ〜!!指ピクって動いた描写で「いける!!」って確信した瞬間も良き。次は大森くんか…最高の布石すぎる!!続き待ってるね🌟