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おと
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#Mrs. GREEN APPLE🍏
こんぶ@ミセス推し
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kurara
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電車の窓に額を押し当てると、ガラス越しに伝わる微かな振動とともに、東京の重苦しい熱気が遠ざかっていくのが分かった。トンネルを抜けるたびに、車窓を流れる景色は灰色のビル群から、鮮烈な深い緑へとその色を変えていく。
その景色は、懐かしいようで、真新しい場所のような、自分の記憶が開いていくような感覚がしていた。
あの頃より随分高くなった目線と、一つも色褪せていないあの夏の思い出。それらに忙しなく思いを馳せていた。
東京に帰ってから七年。あの頃の自分の年齢と同じだけの年月、僕は長野に来られずにいた。両親の仕事や兄の部活。色々な用事と重なるたびに、幼い僕は泣きじゃくって抵抗した。
この七年間、一度たりとも僕の頭からは離れたことはない、あの夏の中で必死に駆け抜けた心地よさと、最後にその頬に残した子供っぽいキスの柔らかい感触。そして同じく七年前で止まってしまったあの子の姿。
それらがふっと頭をよぎっては、夢のように消えていく。そんな感覚にまどろんでいた。
「元貴、起きろ。もう着くぞ。」
すっかり声変わりした兄の声とともに、隣から伸びてきた手が軽く肩を小突き、一気に意識が現実へと浮上した。
「起きてるよ。」
そう短く返してもう一度だけ、窓の景色に目を移す。心臓の音が聞こえそうなほどに深く波打っていた。
ひんやりとした緑の香りと、澄み切った青空とともに、僕らの狂おしい夏が、今始まった。
駅に降り立ち、親戚の車に乗り込む。数年ぶりに訪れた長野の避暑地は、驚くほど何も変わっていなかった。冷涼な高原の空気も、遠くで鳴り響く蝉の声も、あの夏のままであるような気がしてしまう。
荷物を開いて片付けるのももどかしく、かつて父が使っていたという部屋に鞄だけ投げるように置いて、家を飛び出した。懐かしい坂道を、一歩一歩、確かめるように駆け上がっていく。心臓がうるさいくらいに脈打つのは、決して走っているせいだけじゃない。
あの頃、毎日のように駆け上がって会いに行き、夕日を背に、何度も何度も振り返って手を振りながら帰った。
その時はまるで、あの家に行くまでのステージに立ち塞がるラスボスのように感じていた高い坂も、長くなった足では、削れて小さくなってしまったんじゃないかと思うほどにあっという間だった。
開けた視界に、繰り返し夢に出てきては、その度に恋しかった町並みが広がる。あの家は、七年前と何も変わっていなかった。
何から隠れているのか、足音を殺しながらゆっくりと玄関へ近づいていく。チャイムを押してみたいところだが、なんと言えばいいか困って脳内でイメージしていると、庭から誰かの話し声が聞こえてきた。
「あはは!やばいやばい!」
鈴が転がるような、高くて澄んだ笑い声。心臓がドクリと大きく跳ね上がった。
庭木をすり抜けて、昔よく使っていた細い道を抜けて、急いで裏の庭の方へ回った。その姿が目に飛び込んだ瞬間、足も息もぴたりと止まってしまったような気がした。他のどんなものよりも先に、瞳が吸い寄せられた。
随分背が伸びて、でもあの頃と同じように揺れるふわふわとした髪。Tシャツから覗く腕や足は相変わらず白くて細いけれど、どこか大人っぽさが加わった姿。
何度想像しても、七歳の姿のままに止まってしまっていたのが、時計の針が動き出すようにして鮮やかに移り変わる。何度見ても、それは間違いなく、涼ちゃんだった。
衝動のままに駆け寄ろうとした瞬間、足はぴたりと止まってしまった。涼ちゃんの隣には僕の知らない少年がいた。二人で一つしかないゲーム機に食いついて、必死に手元をいじっている。
その少年はどこか大人びていて、ハッとするほど整った顔立ちをしていた。涼しげな目元と切れ味のある端正な横顔。地元の子だろうか、日に焼けた肌が、シュッとした佇まいをさらに際立たせている。
「涼ちゃんそんなとこで止まんないで、ってあー、死んだ…。」
少年が天を仰いだ。どうやらゲームオーバーらしい。少年が優しげな瞳で涼ちゃんを見つめる。
僕が立ち尽くしていると、視界の端に映ったのか、少年が鋭い視線で僕の存在に気が付いた。その視線に引きずられるようにして、涼ちゃんもこちらを振り返る。丸い瞳が、僕を捉えた。
一瞬、淡い期待が走った。数年ぶりだけど、もしかしたら、ほんの少しだけでも、僕のことをーー。
「涼ちゃん、友達?」
「…ううん、知らない子。」
涼ちゃんは小首をかしげて、ふにゃりと柔らかく微笑んだ。その透き通った瞳には、僕と過ごしたあの美しい夏の記憶は、ひとかけらも残っていない。
分かっていたはずなのに、冷たい氷水を背中に流し込まれたような衝撃が、身体を硬直させた。
「あ、いや…僕は…。」
言葉に詰まる僕の前に、少年がスッと一歩踏み出した。警戒するような、値踏みするような、強い意志を秘めた瞳が僕を見据える。
「お前、名前は?」
「僕、…元貴って言います…。」
僕の言葉に、涼ちゃんがばっと顔をあげた。
「え、もときくんってさ、もしかして会ったこと、ある?東京から、ずっと前に一回来たよね?」
「うん、そう、そうだよ、」
「やっぱり!あの日記くれた子でしょ?お母さんがよく話してるんだ。ごめん、覚えてはいないんだけどね、よく知ってるよ。」
その口から、元貴という名前が出たことに胸が熱くなったのも束の間、それが母親から聞かされた知識でしかないという事実に、すぐに胸が締め付けられる。
「うん。元貴だよ。…久しぶり、涼ちゃん。」
僕が震える声でそう言うと涼ちゃんは笑って言った。
「あはは、なんか変な感じだ。久しぶり、元貴。」
記憶はなくても、普通に友達のように僕を呼び捨てにしてくれる。それが嬉しくもあり、ひどく虚しくもあった。
「俺は若井滉斗、涼ちゃんの同級生。よろしく、元貴。」
差し出された手を見つめる。人懐っこく爽やかな笑顔に、どこか僕への牽制が含まれているような気がした。
「うん、…よろしく、若井。」
その名前を、喉の奥で繰り返した。この目の前のこのイケメンに対してだけは、何故か下の名前で呼ぶ気になれず、絞り出すようにそう言った。
「元貴、せっかくだから一緒に遊ぼうよ!今ね、若井とゲームしてたんだ。」
涼ちゃんが僕の手を引こうとして、ふと動きを止めた。
「ん?なんのゲームしてたっけ?」
困ったように笑いながら、自分の頭を軽く叩いた。後遺症は、中学生になっても涼ちゃんを苦しめ続けているようだった。
僕が何か言おうとする前に、若井が自然な動作で涼ちゃんの肩をポンと叩いた。
「マリオでしょ?涼ちゃんいっつもジャンプとダッシュ間違えんだから。さっき死んじゃったからまた一面だよ…。涼ちゃん1の1だけやった方がいいんじゃない?」
「ええ?あれ覚えるの難しいんだよ。」
「右がジャンプ、左がダッシュね。」
そのやり取りは、あまりにもスムーズで、あまりにも日常的だった。毎日記憶がリセットされかける涼ちゃんの隣にいて、彼の混乱を瞬時に補完し、笑顔に戻す。それは、数年ぶりに来た僕には、逆立ちしてもできない芸当だった。
「そうそう。いやね、わかってはいるのよ。」
涼ちゃんがゲームをまた起動し始めるのを見つめながら、僕の胸の奥で、どろりと何かが粘りつくような感覚がした。
7歳のあの夏、泣きじゃくりながら望んだ「僕を忘れないで」という願い。それが14歳になった今の僕の中で、醜く歪んだ黒い塊に変わっていく。
爪が掌に食い込むほど拳を握りしめる。僕の知らない7年間。涼ちゃんが笑った日も、泣いた日も、忘れてしまった朝も、すべてをこの男だけが知っている。僕が遠い東京で影を追うことしかできなかった間、この男は涼ちゃんの「今」の全てに触れ続けていた。
「よっしゃ、クリア!次、元貴やれよ。馬鹿むずいから。」
若井が少年らしい弾んだ声で笑い、僕にゲーム機を差し出してくる。楽しそうに顔を見合わせる二人。
差し出された画面越しに、若井と視線が交わる。涼ちゃんに向けられたのとは違う、僕の胸の奥をすべて見抜いているかのような、静かで鋭い瞳。
高原の爽やかな夏の風が吹いているはずなのに、僕たちの間には、ヒリヒリとした痛いほどの空気が張り詰めていた。
筆者失礼します…🙇右がジャンプ、左がダッシュというのはメーカーによって違いがあります。たまたまわたくしのゲーム機がそうだっただけです😅
うちのんはちゃうぞ、などの文句は受け付けておりません💦ほんとにゲーム機にあまり触れていない人が書いてるので、勘弁してください…
コメント
9件
初コメ失礼します🙇♀️ 今回の更新も素敵なお話ですね✨ やっぱり💛ちゃんは忘れてしまいましたか😢 💙さんと❤️さんのやりとりが楽しみです✨
更新ありがとうございます✨ 7年後の夏✨ 💙さんも登場して、ますます楽しみです✨
うわぁ~ヾ(@>▽<@)ノ嬉しい!!!その後が有ったんですね!やはり涼ちゃんは忘れてたか…。でも、新しい夏が始まるんですね。楽しみに更新待ってます。