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「……お兄さん? 大丈夫?」
余程じっと彼を見ていたのだろう。無意識だった蓮は、心配そうに手を握られてハッとした。
視線を落とすと、ナギが不安げにこちらを見上げている。
「だ、大丈夫。なんでもないよ……。あの人が、ちょっと昔の知り合いに似てて驚いただけだから」
「ふぅん?」
ナギは小首を傾げたが、その瞳には微かな疑念が滲んでいた。
大丈夫だ、落ち着け。心の中で何度も自分に言い聞かせる。彼は「あの人」じゃない。自分には、今こうして手を握ってくれているナギがいる。過去の亡霊なんて、もうどうでもいいはずだろう。
そうは思っても、実際目の前に現れて堂々と振る舞われると、心臓に悪い。蓮の手にはじっとりと汗が滲み、指先が微かに震えていた。
「俺、皆さんの動画が大好きなんです。スタッフもキャストも和気藹々としてて……。もっと皆さんの魅力が伝わる企画、ガッツリ考えますね!」
銀次がぺこりとお辞儀をする直前。
ふと彼と目が合った。スッと細められた銀次の瞳に、蓮の心臓がドクリと跳ね上がる。
(……今の目は、なんだ?)
見惚れていたことがバレたのか、それとも何かを見抜かれたのか。気まずさに耐えきれず蓮が目を逸らすと、銀次は特に気にした様子もなく、すぐに美月たちの輪に溶け込んでいった。さすがは人気配信者、人の懐に入るのが異常に早い。
「それは心強いですね。撮影の合間の生配信も、銀次さんが来てくださるならさらに賑やかになりそうです。楽しみですよ」
弓弦が嬉しそうに微笑む。銀次の人当たりは良く、ナギほどではないが人懐っこい笑みは、周囲の警戒心をみるみる溶かしていくようだった。
「ねぇ、お兄さん。コラボ、楽しみだね」
不意に、隣のナギが袖を引いた。
「えっ? あ、ああ。そうだね」
「あの銀次って人も、いい人そうだし?」
「……うん。僕もそう思うよ」
「…………お兄さんは、嬉しくないの?」
問われて、一瞬息が詰まった。
嬉しくないわけがない。企画が成功すればメンバーの自信に繋がるし、何より「獅子レンジャー」を多くの人に知ってもらえる。
だが、あの外見が、どうしても封印したはずの過去を抉ってくるのだ。
「嬉しくないわけないだろ。成功への道標ができたんだ。チャンスだと思ってるよ」
「……何か、隠してるでしょ」
ナギの瞳が、射抜くように蓮を捉えた。
「っな、あるわけないだろ。何を言って……っ」
「お兄さんってさ。嘘を吐くとき、いっつも左の耳たぶ触るよね」
「……っ!」
指摘されて、初めて気づいた。慌てて手を離すが、もう遅い。ナギの眉根がギュッと寄った。
「ねぇ、お兄さん。何かあるなら教えて。一人で抱え込む必要はないって、約束したよね?」
「だから、本当に何もないって……」
「嘘、吐かないで」
「――――……っ」
じっと見つめられ、言葉に詰まる。どう説明すれば誤解を招かずに済むのか、混乱する思考が言葉を拒んだ。
「と、とりあえず……詳しい話は、俺の家で話そう。な?」
「……約束だよ?」
「わかってる」
ようやく納得したのか、ナギは小さく溜息をつくと、肩をすくめて先に控室を出て行った。その後ろ姿を追いながら、蓮は重い息を吐き出す。
(とにかく、今は撮影に集中しないと……)
自分に言い聞かせ、台本を確認しようとメンバーの輪へ向かう。
視線の先では、銀次がナギや美月と楽しそうに笑い合っている。
無邪気な笑顔。昔の思い人はあんな風に笑ったりしたことは一度もない。全然別人だと頭ではわかっている。
それなのに――なぜかその姿が、心の奥底をざわざわと波立たせて仕方がなかった。