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風呂上がりの濡れた髪のまま、ナギはソファに座る蓮の隣にドカリと腰を掛け、彼の肩に寄りかかった。
ふわりとシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり、ドキリとする。
「ちゃんと髪乾かさないとダメだって、いつも言ってるだろ?」
「んー、めんどい。お兄さん乾かして」
「……ったく、仕方ないなぁ」
甘え上手な年下の恋人に小さく笑い、ナギの髪に触れ、首に下げたタオルで優しく水気を拭き取っていく。
柔らかい髪は絹のように滑らかで、艶のある感触にうっとりと目を細める。自分の髪とは全然違う触り心地だ。
「ナギって、髪まで綺麗なんだな……」
「フハッ、何それ」
蓮の言葉に、ナギがくすぐったそうに笑みを零す。そして自分の髪を触る手を掴むと、それをぎゅっと自分の頬に押し当てた。
「お兄さんの手の方が綺麗だよ。努力してる人の手って、なんか特別な感じがして好き……」
甘えるような仕草で掌に頬を摺り寄せるナギの姿は、まるで飼い猫のようだ。
自分の前でだけ晒される無防備な姿にドキリと鼓動が高鳴る。
彼が自分に心を許してくれている優越感が堪らなく嬉しくて、そのいじらしさに蓮は目を細めた。
「ナギ……」
「あ! そう言えばさ……。お兄さん、昼間の話覚えてるよね?」
旋毛にキスを落とそうとしていた唇がぴたり、と止まる。急に改まった調子で言われてしまい、蓮は気まずそうに身じろいだ。
「銀次君を見てた時のお兄さんの態度、明らかにおかしかったでしょ。知り合いってわけでも無さそうだし……」
ナギは本当によく見ている。驚きを隠せない蓮が目を瞬いていると、ナギは顔を上げて蓮の頬を両手で包み込み、じっと瞳を見つめてきた。
「ねえ、どういう事?」
問い詰めるような視線に射抜かれ、蓮は気まずそうに頬を掻いた。
「……それは……。ええっと、昔好きだった人にあまりにも似てたから、ちょっと驚いただけだよ。彼とは何の関係もないし……今はもう吹っ切れてるから」
「本当に?」
ナギが疑うのも無理はない。銀次を目の当たりにした時、自分でもらしくないと思うほど明らかに挙動不審だった自覚はある。
だが、これ以上彼に隠し事を増やしたくはない。
蓮は観念したように溜息を吐くと、苦笑いを浮かべて頷いた。
「本当だよ。びっくりしすぎて動揺してしまったけど、彼とは顔立ちが似てるだけで全然別人だってわかってるから。それに、アイツの顔だけが好きだったわけじゃないし」
「……そっか」
ナギはまだ何か言いたそうにしていたが、蓮の素直な返答にホッと安堵の溜息を零すと甘えるように頬を摺り寄せて来た。
「だったら、いいや。 銀次君がお兄さんに迫ってきたらどうしようとか色々考えちゃった」
「流石にそれは無いだろ」
苦笑いした蓮がナギの髪をくしゃりと撫でる。サラサラと指の隙間から零れる銀糸は絹のように滑らかで、いつまでも触れていたくなる。
「そうだね。うん……。大丈夫。大丈夫だよね……」
何か思うところがあるのか自分に言い聞かせるようにナギは小さくそう呟くと、ナギはちゅっと音を立てて蓮にキスをしかけてきた。
「ごめん。俺、みっともないよね」
「ハハッ、みっともなく無いよ。……ナギに沢山愛されてるんだってわかって嬉しかった」
「そりゃそうだよ。俺はお兄さん一筋なんだから。天然タラシな恋人がいると苦労するんだよ?」
「酷いなぁ。僕だって、君一筋なのに」
「今は、でしょ?」
悪戯っぽく微笑むナギに蓮も柔らかく微笑み返す。蓮はナギを抱き寄せながら、そっと笑みを零した。
「……今も、これからも。僕はずっと君一筋だよ」
その言葉に安堵したように目を細めるナギを見て、胸の奥に温かな光が灯るのを感じた。
「ふっふっふ、じゃぁみんな準備はいい? せーので引くわよ?」
楽しげな含み笑いを浮かべ、美月がくじ引きの箱を差し出して来る。メンバー全員が集まって輪になり、箱に手を入れてくじを引く姿は中々シュールな光景だ。
傍から見れば遊んでいるようにしか見えないだろうが、これも立派な次の動画の企画会議である。
「どうしよう、なんだか緊張して来た」
「大丈夫ですよ。棗さん」
くじを握りしめたまま、プルプルと震えている雪之丞の手を弓弦がそっと握る。
その表情は真剣そのもので、まるでこれから手術に臨む患者を見守る医者のようだ。
その横では、東海とナギが手を組んでどうか当たりませんようにと祈りを捧げている。
「はは、みんな大袈裟だなぁ。たかがドッキリを仕掛けるだけだろう?」
「たかが、じゃない! 仕掛ける相手が悪すぎるよっ、ターゲットは凛さんだよ!? 絶対ヤバいって」
呑気に笑う蓮に抗議するようにナギが声を上げ、それに同調するように全員がウンウンと頷く。
「もー誰よ、御堂さんに寝顔ドッキリしかけるなんてカード入れたのは!」
美月が頭を抱えて叫ぶと、全員の視線が一斉に蓮に突き刺さる。
その鋭い眼差しに、蓮は思わず怯んだ。
「えぇ……なんで僕が悪いみたいになってるんだよ。僕じゃないって」
「まぁ、誰がいれたかなんてこの際どうでもいいじゃないですか。それより、さっさと決めてしまいましょう。凛さんにドッキリを仕掛ける人を」
弓弦の言葉に、全員が顔を見合わせこくりと頷く。どうか、自分じゃありませんように。なんて声が聞こえてきそうな緊張感の中、一斉にくじを引いて行く。
その結果――。