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一度だけ世田谷の豪邸に招かれた時は、高速道路を使って送ってもらった事があったけど、その後、凌太は一人暮らしを始めて大学の近くにマンションを借りたのよね。
何かあった事はわかったけど、あんなに辛そうな凌太は初めてだったからあえて聞かなかった。
だから、今もあの頃凌太になにがあったのかはわからない。
車は国道246号から国道16号に入る。
「車が良いからかな?すごく安心する」
「いやいや、俺の運転が上手くなったからだ。そういえば瞳は運転してる?」
「結婚してた時は車は無かったから、シェアカーで必要な時にちょっとだけ、今はお父さんの車はあるけど近所のスーパー以外は貸し出しを拒否されてる」
ぶっ
ハンドルを握る凌太が吹き出して笑いながら「遊園地楽しかったよな」
「そうだね」
思い出話をしているうちに自然公園に到着して二人並んで歩き出した。
本当はあのスマホの通知の女じゃなくて大学で凌太に声を掛けていた女性と関係があったことを知っていた。
凌太と付き合い始めた頃、トイレで手を洗っていた時に背後から声をかけられ、顔を上げた時に鏡に映った彼女の目は釣り上がり口は歪んでいた。
「最近、甲斐くんにベタベタしてるけどあんたも所詮セフレの1人だから勘違いしないでよね。知ってる?4人くらい居るよ、だからあんたは5番目以降だから」
そう言って彼女はトイレを出て行った。
よく女性が話を掛けていたし、そんなこともあるかもって思っていたから敢えて言いにくる事に不快感を覚えたけど付き合ってからは女性の影を感じなくなっていたから凌太を信じようと思った矢先のあのメッセージだったからショックというよりがっかりした。
でもその後の必死な姿に許したんだよね。
そしてここで
「子供にツッコミ入れられたよね」
「最近の子供はマセてるからな」
小川では子供達がはしゃいでいる。
「土曜日だから親子連れが多いな、キャンプもできるみたいだし」
「春に来ると桜が綺麗だよ」
ゆっくりと歩きながらマイナスイオンを体内に取り込むと、宇座課長からのハラスメントも正人とのことも少しだけ薄らいでいく。
実家にいるんだからこんなふうに休みの日は散歩をするのもいいかもしれない。
かといって
「今後も実家に住むのか?」
そう、ずっと実家にいるつもりはない。
両親は居ていいと言ってくれるが会社からも遠いし、何より楽になりすぎて何もかも放り出してしまいたくなりそうだから。
「部屋を探すつもり」
「それなら部屋が空いてるぞ、瞳の会社から近いし」
タワーマンションの生活感のない広い部屋を思い出した。
「そうやって女を口説くのね」
「いいや、俺は本気じゃなきゃテリトリーにいれないから」
「はいはい、テリトリーに入れない人も多数って事ね」
二人で自然を満喫しながら散歩をしてから車に戻る。
「今度、リベンジの小田原城に行かないか?」
「え?」
「いや、あの時気まずい空気になってから二人で行ってないだろ」
「自販機のカップ麺まだあるのかな」
「それも含めて今度行こう」
「でも、それは恋人と行ったほうが良いと思うよ」
そう答えたところで自宅近くに着いた。
「じゃあ、今日はありがとう」
車を降りようとドアを開けた時に右手首を掴まれ「瞳ともう一度行きたいんだ」というと手を離してから「じゃあまた、連絡する」と真剣な表情から優しい笑顔になった。
車を降りて歩き出す、曲がり角で振り返るとまだ車は停まっていた。
軽く手を挙げると、何とくリアガラスに左手を挙げている姿が見えた気がした。
私はどうしたいんだろう