二 章 : 幽 霊 は 色 褪 せ な い
午後8時 。
山の麓から夜の町を細目で覗いていた 。
星のように光る町は 、
夜に負けない為 、必死に頑張っているように見えた 。
「 皆集まったし 、廃家行くかーー 」
佐藤のやる気に満ち溢れた声に続くよう
地面に落としていた腰をあげる 。
夜に出歩くのは悪い事をしているような気分だ 。
罪悪感と 、ほんの僅かな好奇心が混じりあう
不安定な心情の儘 、
僕達は廃家へ脚を動かした 。
唯の体育の授業で息切れし 、
地面に身体を落としてしまう僕にとって
この運動は苦痛の割合が多過ぎると気付いた山の中間地点 。
脚とお腹の痛みと廃家の遠さに
溜息なのかすら分からない息が恐怖する程出ていく 。
だけど 、休憩したいなんて言い出せず
気付けば 、僕達は廃家へ辿り着いていた 。
「 ンなとこに家建てるとか馬鹿だろ 、クッソ疲れた 」
苦評を立てる田中 。
珍しく 、これは僕も同意見だ 。
「 知ってる?元の家主は人間嫌いだったらしいよ 。だからこんな所に家建てたんだよ 」
山口によるお決まりの嘘 。
でも 、自分の心拍音と呼吸の音で
あまり聞き取れなかった 。
「 なー 、入ろうとしたんだけど鍵かかっててさ 。どうする? 」
どうするも何も 、
帰る以外の選択肢なんて見つからない 。
だけど 、帰る為の体力も無い 。
「 折角来たんだし 、家の周り探索しようぜ 」
田中 、やはり僕と君は相性が悪いよ 。
こんなに意見が食い違うのは初めてだ 。
だけど 、田中の意見に反対するのは僕だけらしい 。
指でグッドを作っていると思ったら
気付いたら探索しに行った佐藤 。
熊がどうのこうの言って
佐藤と同じく探索しに行った山口 。
残ったのは僕と田中 。
「 お前ほんと体力ねーな 、ざっこ 」
反論しようとしても
うずくまって息をする事しか出来なかった 。
元から質のいい反論など無かったけれど 。
「 俺もう先行くから 、がんばれよー 」
僕を置いてけぼりにして
廃家の周りを彷徨く皆 。
僕の目の前には廃れているけれど
形を保った家がずっしりと建ち込んでいる 。
威圧感すら感じる廃家をまじまじと見つめ乍
少しずつ呼吸を整えた 。
「 ふー 、ふー 、」
独り 、呼吸を整える 。
異様な情景だと 、きっと誰しもが思う 。
後悔とはいえない物が積もっていくし 、
東大入試の問題より難解な心情が積もる 。
「 はー 、っん . ? 」
田中でもいい 。
誰と合流しようと 、不規則な呼吸の儘立ち上がると
頭を撫でられる感覚がやってきた 。
こんな山奥で 、人気の無い場所で
僕を撫でた者の正体は
“ アサガオ ” の花弁だった 。
木に咲くアサガオなんて聞いた事が無い 。
なのに 、僕の頭を撫でれる高さから落ちてきた 。
真っ先に意識が行ったのは
この “ 廃家 ” だ 。
だがこの家が廃家になったのは数十年前 。
数年前だとしても 、花はとうに枯れている 。
何処かの常識外れの人間が不法侵入し
アサガオを育てているのか 。
モヤが掛かった儘にするのは好みじゃない 。
佐藤が鍵がかかっていると言っていたけど
僕はその言葉を聞いてい乍 、手を伸ばした 。
ガチ ャ ッ
想定外の音に胸が高まった 。
先程迄は鍵がかかっていたのに 、
中から誰かが開けた?鍵が壊れた?
折角整えた呼吸にズレが生じていく 。
「 .. . 」
少し考える 。
ひとまず皆と合流するか 、この儘1人で廃家へ入るか 。
1番目の問題は時間と体力 。
ばらけた皆を集めるのは時間と体力の消耗が激しいと推測した 。
2番目の問題は危険性が高いという事 。
鍵が勝手に開いた 、この時点で可笑しいのは誰でも分かる 。
中に不審者が居る可能性だって0ではない 。
何方を選ぶか 、選択権は僕にある 。
もし不審者が居たとして 、僕1人じゃ太刀打ち出来ないだろう 。
でも 、皆が居たとしても太刀打ち出来るかは分からない 。
「 .. はあ 」
重りのついた脚を渋々廃家を落とした 。
月明かりのような光が
薄らと廃家の中を照らしていた 。
光源は見当たらない 。不自然だ 。
外からの光とは考えられない 。
酸素不足で上手く回らない頭を
渦を巻くようにぐるりと回転させた 。
「 、アサガオの花弁 」
お節介な事に 、階段は目の前に有る 。
もう僕は何がしたいんだろうか 。
曖昧な霊にもバレぬよう 、小さく溜息を吐いて階段を登る 。
今更だけど 、正直後悔してるよ 。
皆はバラバラで行動し始めたし 、全身痛いし 。
無意識に怒気を階段へ踏み付けた 。
それにしても 、やけに長 、
夏のど真ん中 。
僕は純白を知った 。
窓から侵入した風になびかれる姿は
天 女 も 顔 負 け だ と 感 じ た 。
「 .. . ぁ 」
雪を模したかと思える程白い肌と髪に
恐怖すら感じる整った顔立ち 。
僕は 、そう
正反対の雪に
心 奪 わ れ た ん だ 。
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