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兄が帰ってくると、家の空気が少しだけ変わる。 なつとみことは、それをずっと感じていた。
テレビの音がうるさいリビングで、食卓に置かれた冷えた朝食。
らんが帰ってきたとき、母親は振り返りもせずにコーヒーをすすっていた。
🎼🍍「らん、おかえりー」
🎼👑「パン残ってるよー」
わざと明るく声をかけた。
でも、らんの声は小さくて――なんか、遠かった。
🎼🌸「……ただいま」
その声を聞いて、みことがなつの袖をそっと引いた。
2人の視線は自然と兄の手元に向かう。
見えた。左手首に、薄い絆創膏。
その下に隠された、昨日の傷跡。
なつは奥歯を噛んだ。
“またか”――言いたくなるのをこらえて、バターを塗ったパンを兄の皿にそっと押しやった。
🎼🍍「食え。俺のいらない」
🎼👑「こっちもあげるー。食べないと、テストやばくなるよ、らん」
兄は微笑んだ。
でもその笑顔は、いつもの“つくり笑い”だった。
それが痛いほど分かるから、双子は何も言わない。
何も、言えなかった。
夜になれば、また怒鳴り声が聞こえるかもしれない。
何かが倒れる音。食器が割れる音。誰かが泣く声。
なのに、母も父も、弟たちには甘く笑う。
「双子ちゃんたちは特別だから」と、頭を撫でて、何も聞かせないようにする。
それが、どれだけ“歪んでるか”なんて――もう、なつもみことも分かってる。
🎼🍍「……なぁ、みこと」
🎼👑「ん?」
🎼🍍「らん、限界きてるよな」
みことは静かに頷いた。
🎼👑「でも、俺たちだけじゃ……無理だよ」
無力感だけが胸を締めつける。
どうすれば兄を守れるのか。
どうすれば兄が、本当に笑える日がくるのか。
それを知らないまま、二人は子どもでい続けていた。