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体育の授業中、ボールを取りに走る男子たちが、何気なくさゆりの近くを通り過ぎた。その瞬間、男子2人組の悪ふざけが耳に入った。
「メガネちゃん、邪魔じゃね?」
くだらない言葉。
けれど、さゆりの心には小さく刺さる。
それでも、ただ下を向いて、やり過ごそうとした、そのとき。
「おいおい、お前ら〜そういうのはチクチク言葉ですよーん」
としきの声が、すぐ近くから聞こえた。
いつも通りのみんなを笑わせるような態度をとりながら、ボールを拾う。
それだけだった。
特別、守るような仕草はしなかった。
でも、さゆりは気づいてしまった。
自分が、ちゃんと「見られていた」ことに。
放課後。
誰もいない教室で、さゆりは自分の胸に手を当てた。
(……バカみたい)
どうせ、あんなの、としきにとっては些細なことで、覚えてもいないだろう。
それなのに、こんなに胸が痛い。
ひとりでいることに慣れたはずなのに。
たった一言で、たった一瞬で、こんなにも心は揺れてしまう。
(――怖い)
それでも。
ほんの少しだけ、温かいものを知ってしまった自分を、否定できなかった。