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それからビクターは、リオが行く先々で現れた。その|都度《つど》、リオは仕事が忙しい振りをして逃げた。 アトラスもリオの近くにいて警戒してくれていた。
鍛錬と勤めは?と突っ込みたかったが、気にしてくれていることが嬉しくて黙っていた。
そしてビクター含む王城からの使者は、三日の滞在を経て城を出ていった。
ギデオンの話では、次は隣の領地に向かうらしい。いくつかの領地を回って王城に戻るのだそうだ。
ま、王城に戻ったなら、もう二度と会うことはないよな。
リオが朝餉の後の香りの良い茶を飲み息を吐き出しながら安堵していると、ギデオンが「どうした?」と聞いてくる。
リオは、ギデオンを見て茶器を机に置く。
「俺が聞いちゃいけないのだろうけど…使者は何しに来たの?」
ギデオンは片眉をピクリと上げ、「ああ」と頷く。
「リオは、魔獣に会ったことはあるか?」
「あるよ?」
「その時どうしていたのだ?まさか戦ったり…」
「してないしてない。逃げたよ」
「そうか」
本当は魔法で|退《しりぞ》けたんだけど。でもそれは言えない。
「魔獣がどうかした?」
「魔獣は強いが、我々騎士が退治できる。しかし|稀《まれ》に、とんでもなく強い魔獣が現れる」
「うん」
それは、ケリーからも聞いた話だ。
「国の北西に、その強い魔獣が出た。それを討伐するための招集の依頼だ」
「え!ギデオンが行くの?」
「俺と領内で腕の立つ騎士を集めて行く」
「…俺も行っちゃダメかな」
「リオが?」
この城に来てから鍛錬してるとはいえ、リオは、まだまだ剣が使える状態ではない。当然、足でまといになる。一緒になんて無理に決まってる。
でも、魔法が使えれば戦力になる。ギデオンを守れる。だから行きたいと思ったのだけど。
「ダメだ。危険な任務だ。リオは、この城で待っていてくれ」
「…わかったよ。ギデオン、危なくなったら、絶対に逃げて。無理しないで」
「承知している。必ず無事に戻ってくる。討伐に行ってる間は眠れずに疲れが溜まる。だから戻って来た時は、存分に俺を眠らせてくれ」
「いくらでも添い寝するよ。でもさ、三日眠れなかったら限界がきそうだし、三日で帰ってきて」
「無茶を言うな。それにリオと出会う前の俺は、ほぼ眠れなかったのだから、大丈夫だ」
「でもここ数ヶ月は安眠できてるんだろ?だから不眠の耐性がなくなってると思んだけど…」
「ふむ…そうかもしれぬ」
ギデオンが腕を組み、黙り込んだ。
リオも黙ってギデオンを見つめる。
しばらくして、ギデオンは腕を解きリオの目を見た。
「リオ、頼みがあるのだが」
「うん、なに?」
ギデオンが立ち上がり、隣のリオの部屋へと向かう。
リオもギデオンの後に続き、床に寝そべっていたアンも二人の後について行く。
二人と一匹が扉の奥に消えると同時に、扉が静かに閉じた。
そしてこの日から五日後に、ギデオンはロジェを筆頭に精鋭の騎士、複数人と共に、魔獣討伐に出発した。