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## 第5話「夜明けと共に:再会と旅立ち」
サテライト・キャノンが放った極大の光束は、夜空の雲を消し去り、大気を震わせた。その余光がゆっくりと闇に溶けていく中で、機体各部の冷却ダクトからは熱を孕んだ白煙が激しく噴き出している。
プロト・ウイングエックスのコクピット内。ゼロ・ドラートは、操縦桿を握ったまま、シートに深く沈み込んでいた。全身が痺れ、指先一つ動かすのも億劫なほどの疲労感が彼を襲っている。脳裏には、先ほどゼロ・システムが見せた「少し先の未来」の断片が、焼き付いた残像のように明滅していた。
「……はぁ、はぁ……なんだよ、今の……。死ぬかと思ったじゃねえか、このデカブツ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、ゼロは重い瞼を持ち上げた。メインモニターには、エネルギーの逆流でノイズが走っている。その画面の端、崩壊した地下施設の瓦礫の山から、ふらふらと這い出してくる小さな影が映り込んだ。
「――っ!? おい、まだ誰かいたのか!」
ゼロは反射的にハッチのロックを解除した。プシュッという排気音と共に重厚な装甲が跳ね上がる。彼は疲れ切った体を引きずり、機体から滑り落ちるようにして瓦礫の山へ駆け寄った。
そこには、一人の少女が立っていた。
土埃に汚れながらも、透き通るような白い長袖のワンピースを纏い、月光を反射して淡く輝く銀色のストレートヘアが肩まで流れている。彼女の瞳は大きく、どこか遠い場所を見つめるように虚空を彷徨っていた。その幼さの残る童顔は、この世のものとは思えないほど美しく、そしてひどく儚げだった。
「おい、あんた。大丈夫か! どこか怪我は……」
ゼロが肩に手をかけようとした瞬間、少女の視線が彼を射抜いた。
彼女は何も答えない。ただ無口に、そして静かに、ゼロの背後にそびえ立つ「白き暴君」を見つめている。彼女の存在そのものが、その場の空気を凍りつかせたかのような静寂を連れてきた。
「……ミラ」
少女が初めて口を開いた。それは自分自身の名前なのか、それとも何か別の意味を持つ言葉なのか。ゼロが問い返す前に、彼女の膝が折れた。ゼロは咄嗟に彼女を抱き止め、バギーへと運んだ。
夜が明け、朝日がリメイン・ビレッジを照らし出す頃、ゼロはミラを連れて村へと戻った。
だが、昨日のような平穏はそこにはなかった。村人たちは皆、怯えた表情で広場に集まり、ひそひそと昨夜の「謎の光」について語り合っていた。
「あの光……あれは、かつての月からの裁きじゃないのか」
「あの山の方で、悪魔が目覚めたんだ……」
不安と恐怖が渦巻く中、ゼロはバギーを長老の家の前に止めた。村人たちの視線が、ゼロと、その横に座る見慣れない少女に集まる。ゼロは彼らの視線を撥ね退けるように、生意気な足取りで長老のもとへ向かった。
「じいさん。いや、長老。話がある」
家の奥から出てきた長老は、ゼロの顔を見るなり、深い溜息をついた。その目には、すべてを察したような悲しみが宿っていた。
ゼロは横にいるミラを親指で指し、ぶっきらぼうに言い放った。
「昨日の光を見たろ。ありゃ、あのアホみたいなガンダムがやったことだ。そして――コイツだ。コイツはあの地下の奥でガンダムと一緒に閉じ込められてやがった」
ミラは長老を前にしても、一言も発さない。人形のように無表情で、ただゼロの影に寄り添うように立っている。
「いいか。敵の連中は、このミラと、あのガンダムを狙って何度でもやってくるぜ。昨日の光で、連中の本隊も間違いなく場所を特定したはずだ」
長老は震える手で杖を握り直した。
「……ゼロよ。お前、まさか」
「ああ。俺は村を出る。コイツと、あのデカブツを連れてな。ここに居座って、村がまた火の海になるのを見るのは御免だ。それに……」
ゼロは、自分の右手の震えを見つめた。あの瞬間、機体と意識が繋がった感覚。恐怖と共に感じた、得体の知れない「高揚感」。
「あいつを放っておけねえ。祖父さんが隠してたんだ、俺がカタをつけなきゃなんねえだろ」
長老は長く沈黙した後、静かに頷いた。
「……わかった。ならば、今すぐ行け。荷物をまとめる暇などないぞ」
ゼロは再びバギーに乗り込んだ。助手席には、相変わらず無口なままのミラが座っている。
村のゲートが開く。そこには、不安に怯えていたはずの村人たちが、いつの間にか道を作り、ゼロを取り囲んでいた。
「おい、ゼロ! 逃げ出すのかよ、この臆病者が!」
一人の男が声を荒げた。
「そうだ! 散々村を引っかき回しておいて、勝手な野郎だぜ!」
「二度と帰ってくるなよ! 生意気なガキの顔なんて、もう見たくもねえ!」
村人たちの罵声が、容赦なくゼロに浴びせられる。
だが、ゼロはその言葉の裏側にある「真実」を知っていた。彼らは、ゼロに村への未練を残させないために、あえて悪役を買って出ているのだ。自分たちがゼロを引き留めれば、彼は村を捨てきれず、結果として村を滅ぼしてしまう。それを理解しているからこそ、彼らは愛する少年を、全力の罵倒で送り出そうとしていた。
「ふん、言われなくても戻らねえよ! せいぜい静かになって清々するぜ、クソジジイども!」
ゼロはアクセルを思い切り踏み込んだ。バギーが砂煙を上げ、村の外へと飛び出す。
一度も振り返らない。バックミラーに映る村の影が、どんどん小さくなっていく。
「……優しいのね」
突然、隣でミラが小さく呟いた。
ゼロは一瞬驚いたように彼女を見たが、すぐにフンと鼻で笑い、サングラスをかけ直した。
「あいつらが? 冗談はやめろよ。ただの口うるさい、ガラクタみたいな連中さ」
バギーは荒野をひた走り、再びあの地下施設を目指す。
眠れる暴君、プロト・ウイングエックス。そして謎の少女ミラ。
一人の少年と、歴史から消されたMSの、終わりのない旅が今、始まろうとしていた。
**次回予告**
村を離れ、荒野をゆくプロト・ウイングエックス。
立ちふさがるは、敵組織のエースパイロット。
ミラの中に眠る「ガンダムの記憶」が、ゼロに新たな力を与える。
次回、『襲来:荒野の追跡者』
**「コイツの使い方は、俺とミラで決める。あんたらには指一本触れさせねえよ!」**