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## 第6話:荒野の追跡者
地平線から昇る朝日が、赤茶けた荒野を鋭く切り裂くように照らし出す。昨日まで過ごしたリメイン・ビレッジの影は、すでに砂塵の彼方へと消えていた。
地下施設の暗がりに鎮座していた「白き暴君」プロト・ウイングエックスは、いま、乾いた大地を踏みしめ、重厚な金属音を響かせながら歩を進めている。
コクピット内。わずかな電子音と冷却ファンの回転音だけが響く狭い空間に、二人の鼓動が重なっていた。メインシートに座るゼロ・ドラートのすぐ傍ら、予備のスペースに身を寄せているのは、銀髪の少女、ミラだ。
「……おい、窮屈じゃないか? 嫌なら外のバギーに乗り換えてもいいんだぜ。まあ、あっちの方が乗り心地は最悪だろうけどな」
ゼロは前方のモニターを凝視したまま、ぶっきらぼうに言葉を投げかけた。村を出る際、彼女をバギーに乗せるか迷ったが、敵がいつ現れるかわからない現状では、この鋼鉄の繭の中に隠しておくのが一番安全だと判断したのだ。
ミラは答えなかった。ただ、膝の上で白く細い指先を重ね、じっと前方の景色を見つめている。その瞳には、荒廃した世界がどう映っているのか、ゼロには想像もつかなかった。
「ふん、相変わらず無口だな。……まあいい。俺もベラベラ喋るのは性分じゃねえ」
ゼロは操縦桿を握り直し、機体の出力を安定させる。背部に斜め下向きで固定された二門のブラック・キャノンが、歩行の振動に合わせて鈍い光を放つ。昨夜、あの圧倒的な破壊力を見せた兵器。その感触が、まだ掌に残っているような気がした。
突如、メインコンソールの警告灯が鮮烈な赤に染まった。
「ピピピピピピピピピピピピ……!」
耳を刺すゼロ・システムの起動音。昨夜、脳を直接かき乱されたあの感覚が蘇り、ゼロは思わず奥歯を噛み締めた。
「っ……またこれか! おい、何が来るってんだ!」
視界が歪み、デジタルな情報が幾重にも重なって映し出される。ゼロの瞳が、システムが提示する「未来の光景」を捉えた。一秒後、右斜め前方の砂丘の裏から、高速で飛び出す熱源。
「そこかっ!」
ゼロは反射的にバスター・サテライト・ライフルを構え、火線を引いた。
ドォン! と重い衝撃が機体を揺らす。砂煙を切り裂いて飛び出してきたのは、敵組織の追撃部隊、三機の**オーリー改**だった。
『見つけたぞ、ガンダム! その機体、我ら「アイアン・ヴァルチャー」が回収させてもらう!』
外部スピーカーから響く敵パイロットの傲慢な声。彼らは昨夜のサテライト・キャノンの光に導かれ、夜通し荒野を捜索していたのだ。
「回収だぁ? 冗談じゃねえ。このデカブツは俺の、いや、俺たちの相棒だ。あんたらみたいなハイエナに渡すもんかよ!」
ゼロはスロットルを全開にした。プロト・ウイングエックスが地響きを立てて加速する。
だが、敵も昨日の二の舞は演じない。三機が巧みに連携し、左右から回り込むようにしてマシンガンを乱射する。
「ちっ……動きがさっきより速い! システム、もっと先を見せろ!」
ゼロが叫んだ瞬間、情報の奔流がさらに加速した。敵機の弾道、砂塵の舞い方、地面の硬度、そのすべてが数値となって脳内に流れ込む。
「ぐ……あ、ああぁぁっ!!」
あまりの情報量に、ゼロの意識が混濁し始める。脳が焼き切れるような熱。操縦桿を握る手が震え、機体の挙動が乱れた。
その時だった。
隣にいたミラが、静かに立ち上がり、ゼロの震える右手にそっと自分の手を重ねた。
驚くほど冷たく、しかし透き通るような彼女の体温。その接触を通じて、ゼロの頭の中を荒れ狂っていたノイズが、まるで嘘のように凪いでいく。
「……熱くならないで。あの子の声を、聞いて」
ミラの小さな声が、システムの警告音を突き抜けてゼロの心に届いた。
ふっと、視界が晴れる。
歪んでいた情報の波が整理され、一つの「勝利への道筋」として収束していく。ゼロは深く息を吐き、ミラの手に重ねたままの操縦桿を、力強く、かつ繊細に引き寄せた。
「……ああ、見えたぜ。ミラ、あいつらの『詰み』の形がな!」
プロト・ウイングエックスが、目にも留まらぬ速さで旋回した。
左腕のディフェンサー・バスターシールドを突き立て、一機目のタックルを完璧に受け流す。その勢いを利用して機体を回転させ、シールドの先端から「バスターソード」のビーム刃を発生させた。
ガガギィィィッ!
閃光一閃。すれ違いざまにオーリー改の一機の脚部を両断する。
残る二機が狼狽し、距離を取ろうとするが、すでに遅い。ゼロはゼロ・システムが示した「死角」へと機体を滑り込ませ、バスター・サテライト・ライフルの出力を最大に引き上げた。
「これでお別れだ、ハイエナども!」
放たれた高出力ビームが、二機のオーリー改の機体中心部を正確に貫いた。爆炎が荒野に咲き、黒煙が空へと昇る。
静寂が戻ったコクピットで、ゼロは大きく肩を上下させていた。
「はぁ、はぁ……。助かったぜ、ミラ。あんたが居なかったら、今頃俺の頭はパンクしてた」
ミラは何も言わず、重ねていた手をそっと離し、元の場所へ座り直した。その表情は相変わらず真顔のままだったが、どこか少しだけ安心したように見えた。
「……あの子が、喜んでる」
「あの子って、このガンダムのことか? ……ふん、変な奴だ。機械の機嫌なんて、俺にはまだよく分からねえよ」
ゼロは生意気な口を叩きながらも、機体のモニターを優しく撫でた。
荒野の先には、崩壊した巨大な建造物群が見え始めている。かつての大戦で捨てられた、沈黙の廃都だ。
「行くぜ。あそこなら、少しはマシなパーツが見つかるかもしれないしな。それに、追手から身を隠すにはちょうどいい」
白い翼を持つ機体は、夕闇が迫る荒野を再び歩み始めた。
村を捨て、平和を捨て、少年と少女は戦乱の渦中へと突き進んでいく。
背後に残された三つの爆炎は、彼らの長い旅路の、ほんの序章に過ぎなかった。
**次回予告**
逃亡の果てに辿り着いた、沈黙の廃都。
そこには、かつての連邦軍が遺した「禁忌の遺産」が眠っていた。
ミラを狙う新たな影、そしてゼロを襲うシステムの暴走。
次回、『暴走と番人:忘却の廃都』
**「俺が……俺自身がガンダムになるってのかよ!?」**
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