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それから、何も起きなかった。
帰り道も。
そのあとも。
驚くくらい、普通に時間が流れていった。
「……なんだよ、その顔」
そう言ったのは三ツ谷隆。
「ずっと気ぃ張ってるじゃん」
「別に」
そう返したけど、自分でも分かってる。
ずっと、気を抜けていない。
でも――
「ま、何もなかったしな」
松野千冬が軽く笑う。
「お前の心配しすぎじゃね?」
その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。
(……でも)
生きてる。
ちゃんと、ここにいる。
それだけで、十分だった。
「……うん」
小さく頷く。
三ツ谷がちらっとこっちを見る。
「ほんとか?」
「ほんと」
少しだけ、笑ってみせた。
ぎこちないけど。
ちゃんと、笑えた。
「じゃあさ」
千冬が前を向いたまま言う。
「このままどっか寄ってくか?」
「いいね、腹減ってるし」
三ツ谷が軽く同意する。
「……また?」
思わず言うと、千冬が振り返る。
「いいだろ別に」
「太るよ?」
「うるせぇ」
そのやり取りが、いつも通りすぎて。
思わず、吹き出した。
「……なに笑ってんだよ」
「いや、なんか……」
言葉にしようとして、やめる。
“戻ってきた”なんて言えない。
でも――
(戻ってきた)
この空気も。
この距離も。
この時間も。
全部。
「……よかった」
ぽつりと、こぼれた。
二人が少しだけ不思議そうな顔をする。
「何が?」
三ツ谷が聞く。
少しだけ迷って、それから――
「なんでもない」
そう言って、前を向いた。
夕焼けが、やけに綺麗だった。
こんなふうに、三人で歩くのも。
きっと、当たり前じゃなかった。
(これでいい)
やっと、そう思えた。
もう繰り返さなくていい。
もう失わなくていい。
そう、思ってしまった。
その瞬間。
――ポケットの中で、何かが鳴った。
「……え?」
取り出す。
見覚えのない番号。
嫌な予感が、走る。
「どうした?」
三ツ谷の声。
震える手で、画面を見る。
そこに表示されていたのは――
知らないはずの名前だった。
でも。
私は、その名前を知っている。
(……なんで)
息が止まる。
それは――
“本来、この時間には存在しないはずの人物”だった。