テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
――それは7年前。
「コハルは、なんで聖女なんて引き受けちゃったの?」
「え?」
唐突に訊かれて、私は隣を歩くエルを見上げた。
そこは『妖精の国』の広大で静謐な森の中。
通称「迷いの森」と呼ばれるその森でまんまと迷っているときに出会ったエルが興味津々といった顔で続けた。
「いきなり異世界に召喚されてこの世界を救ってくれなんて、普通は断ると思うんだけど」
「……私だって、最初はそんなの無理だって思ったよ。今も自信なんて全然ないし」
「じゃあ、なんで」
首を傾げた彼に、私は前を向きながら答えた。
「ティーアにお願いされたから」
「ティーアって、花の女王様?」
「そう。すごくいい子なんだ。私と同い年なのに女王様としてめちゃくちゃ頑張ってるの。だから、私も力になりたいと思って」
「ふーん」
「……それに、私これまでこんなふうに誰かに必要とされたことってなくて。どうせ私が死んでも悲しむ人もいないし、ならここで私の出来る限りのことをしようって決めたの」
「そっかぁ。コハルは偉いね」
「偉いねって、子供じゃないんだから」
私が照れ隠しに嫌な顔をすると、エルは可笑しそうに笑った。
(あのとき、本当は褒められて嬉しかったんだよね)
彼に手を引かれお城へ向かって飛んでいる最中、私はそんな昔のことを思い出していた。
あのとき、彼が居てくれて本当に心強かった。
道案内をしてくれたこともだけど、話し相手が出来たことが何より嬉しかった。
「7年前、なんで私を助けてくれたんですか?」
ずっと気になっていたことを訊くと、彼はこちらを振り返った。
「ん? あぁ。異世界から来たっていう『聖女』に興味があったんだよね。どんな子なんだろうって」
「はぁ」
「そしたらコハルが想像以上に面白かったから」
にっこりと言われて思わず顔が引きつってしまった。
「面白かったって……」
「だから助けてあげたいって思ったし、今だって僕はいつでもコハルの助けになりたいって思ってるよ」
「それは……ありがとうございます」
今、彼のお蔭でリューとの間が大変なことになっているのだけど。
そう突っ込みたい気持ちをなんとか抑える。
(エルは心配してくれたんだもんね)
それに、本当に気分転換になった。
都の様子を見ることが出来たし、リューがこの国の人たちから愛されていることを知ることが出来た。――私が歓迎してもらえていることも。
でも、前方を見ればお城まであと少しで流石にそわそわとしてくる。
(リュー、私がいなかったことに気付いてるかな)
私が城を出ていたのは1、2時間ほどだろう。
ぱっと見た感じでは城の様子はさっきと何も変わっていないけれど……。
「はーい、到着」
そう軽く言って、彼は私を先ほどまでいたバルコニーに下ろしてくれた。
でも彼は私の手を握ったまま、バルコニーの向こうにふわふわと浮いていて。
「じゃあ、僕は帰るとするよ」
「え? 少しの間お城にいるんじゃ」
「うーん、コハルのことが心配で来たけど、思ったより平気みたいだし。それに僕がお城にいたら皆に気を遣わせてしまいそうだからね」
相変わらず気まぐれというか、リューの言葉を借りるなら完全に振り回されている気がした。
「あ、でももし万一何かあったときには、あのブローチに呼びかけてみて。どこにいてもすぐに駆け付けるよ」
あのブローチにそんな機能があったなんて。流石は妖精王といったところだろうか。
そんな彼に私は笑顔を向ける。
「色々とありがとう、エル」
あの頃のようにフランクにお礼を言うと、彼は目を瞬いてから嬉しそうに破顔した。
「うん、やっぱりコハルはそっちの方がいいな」
「私も、そう思った」
「あはは。竜帝くんによろしくね。あ、式には呼ばれなくても参加するからって伝えておいて」
「う、うん」
苦笑しながら頷く。
「じゃあね、コハル。また会えて嬉しかったよ」
「私も!」
そうして彼は私から手を離した。
その手をひらひらと振って、彼が背を向けたかと思うとその姿はスゥっと消えていってしまった。
私は小さく振り返していた手を下ろし、一息ついた、途端だった。
「コハルさまぁーーーー!?」
「ぅぐっ」
後ろからそんな大声が聞こえてきて振り返れば丁度メリーが私の胸の中にぼすんっと飛び込んできた。
その勢いに流石にちょっとだけむせて。
「め、メリー」
「コハルさま良かったのですぅ~! てっきりあの竜人族に嫌気がさしてあのお方と逃避行してしまったのかと思いました~~」
「ご、ごめんね、驚いたよね」
「というかコハルさま、さっきのお方が妖精王さまって本当なのですか……?」
「あー、うん、本当みたい」
メリーの顔がさーっと青くなっていく。
「メリーは、メリーは、妖精王さまを前にしてなんて非礼をばばばばっ」
「大丈夫、もう帰っちゃったから」
多分。
そう心の中で付け足して。
「でもメリーはエル……妖精王のこと知らなかったんだね」
「ほとんどの妖精がそのお姿を見たこともお会いしたこともないのです。それだけレアなお方なのです~」
「レア……そうなんだ」
確かにゲームとかだとレアキャラっぽいなと笑いそうになってしまった。
でも、そこでハタと気付く。
メリーが彼が妖精王だと知っているということは――。
そのとき、背後でバサリという風音がした。
振り返れば、大きな竜の翼を生やした彼がこちらを見下ろしていて。
「リュー……?」
私は小さくその名を呼んでいた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!