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58 ◇あまりに急なプロポーズ
涼の告白からの翌日のデートは、街ブラしていつもの行き慣れた大宮公園まで
出て、食事を楽しみ公園で自然を愛でそのあとは街を歩いた。
そして箸休めじゃないけれど休憩するためにカフェでゆったりと
お茶を堪能した。
4人でいる時とは違って、いつもより少し深くお互いを知る切っ掛けに
なった。
「来月のことですが、おそらく珠代が祭りに行こうと誘ってくると思うのです。
14日15日が祭りのある日なので今からだとあまり日がなくて……」
「あまり日がなくてとは? 一体……」
「あぁ、僕の勝手な想いなのですが珠代と和彦くんには僕たちが付き合って
いることを話しておきたいと思ってるものですから。
結婚宣言をしたいと思っているのです。
あ、すみません、温子さんにはまだプロポーズもしていないのに」
「……」
私はあまりのことに固まってしまい、上手く反応が返せなかった。
「本当なら、お互い近くにいるのですから事務所か自宅で会えばもっと
頻繁に会えますが、世間的に見てそうもいきませんし。
となると僕たちがふたりきりで会えるのは限られてきますよね。
それで僕としては早く婚約という形にしてできれば結婚も早くと
考えています。如何でしょうか? 急過ぎますか?」
「ちゃんと考えてくださっていて、私には過ぎたことです。
涼さんにお任せしますわ。
ただ、結婚と言っても私には来てくれる身内は1人もいないので何だか
申し訳なく思います」
「それなら大丈夫ですよ。
僕のほうは珠代と和彦くんに絹さんと3人だけですから。
あと、工場では休みに皆を呼んで食事会兼ねてあなたのことを
紹介させてください」
「なんだか、恥ずかしい……」
「皆、ビックリするかもしれませんね」
女性の多い職場だから、妬み嫉みがありそうで少し怖いかもと思ったのが
温子の正直な感想だった。
でも、折角いろいろと考えてくれている相手に水を差すようなことは
言えない。
昨夜告白されてからの1日開けて、婚約だの結婚だのとあまりに話の展開が
早く、夢の中にいるのかと思うほどだった。
温子自身は以前の結婚は一応恋愛だったのだが、見合いで結婚をした友達の
話などと比べると、このようなあれよあれよという間の早い展開も見合いな
らあり得そうに思えることと、そこはソレ、一度結婚を経験している身、やは
りその点では肝が据わっていたのである。
温子は交際期間が短く結婚することへの不安は、意外と沸いてこなかった。
そしてなんとなくではあるが、濃い付き合いもなく結婚して一緒に生活を
するようになるのだから、きっと自分は結婚してから夫になる男性に恋をする
のかもしれないと漠然とではあるがそう思えるのだった。
このようにふたりの間で話し合ったあとも、いつものように温子の家に
珠代と涼を招いて食事会を二度ほど行い、そしてふたりでのデートを二度ほど
して14日と15日の祭りの日を迎え、珠代と和彦の前で涼が温子との結婚宣言を
した、という流れになるのであった。
――――― シナリオ風 ―――――
〇 大宮公園 昼下がり
木々の緑が風に揺れ、鳥のさえずりが響く。
温子と涼は肩を並べ、時折笑いながら園内を歩いている。
いつもは4人でいるふたりが、今日は初めての2人きり。
涼「……こうして2人で歩くと、いつもの公園も少し違って見えますね」
温子「ふふ……ほんとうに。何度も来た場所なのに、不思議です」
2人は池を眺め、食事を楽しみ、街を散策し――やがて
一軒のカフェへ。
〇街中の喫茶店 午後
木の扉を押して入ると、店内は柔らかな空気がながれている。
丸テーブルに向かい合って座り、湯気の立つ珈琲を前にした。
涼「来月のことですが……おそらく珠代が祭りに誘ってくると思うのです。
十四日と十五日、川越の例大祭と神幸祭がありますから」
温子「ええ、そうですね。……でも、『あまり日がなくて』とは?」
涼「……はい。
勝手な思いですが……珠代と和彦くんに、僕たちのことを伝えたいのです。
できれば……結婚の話まで」
温子「け、結婚……?」
思わず固まる温子。
涼は真剣な眼差しで言葉を重ねる。
涼「本来なら、事務所や自宅でもっと頻繁に会えますが……世間の目も
あります。
ですから、僕は早く婚約という形にして、できれば結婚も早くと
考えているのです。
……急ぎすぎますか?」
温子「……いいえ。ちゃんと考えてくださっていて、私には過ぎたことです。
涼さんにお任せします。
ただ……私には来てくれる身内が一人もいないので、それが申し訳なく
思えて……」
涼「それなら心配いりません。
私のほうは珠代と和彦くん、それに絹さんの三人だけ。
あとは工場の皆で休みに集まり、食事会をして温子さんを紹介したいと
思っています」
温子「……なんだか、恥ずかしいですわ」
涼「皆、きっと驚きますね」
温子は一瞬、職場での女性たちの視線を思い浮かべ、不安が胸を
かすめる。
だが、涼が自分の未来を真剣に考えてくれていることに水を差すことは
できなかった。
温子(N)『昨夜、告白されてからまだ一日。
婚約や結婚の話が出るなんて――夢のよう。
でも……一度結婚を経験している私だからこそ、不思議と不安は湧いて
こない。
むしろ、結婚してから彼に恋をするのかもしれない……そんな気さえしてい
る』
〇喫茶店を出て街道へ/涼と温子
夕暮れに差し掛かる街を歩きながら、ふたりは未来の話を
少しずつ重ねていく。
そして――その後も数度の食事会とデートを重ね、迎える十四日。
祭りの場で、涼は珠代と和彦の前で温子との結婚を
宣言することになる。