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――目が覚めた。
乾いた口の中に、苦い後味だけが残っている。
ぼやけた視界の中、カーテンの隙間から差す朝の光が妙に刺さる。
頭が重くて、起き上がるのも億劫だった。
キッチンの方から、小さな物音が聞こえた。
若井だ。
昨夜、あの顔を見てから、どう声をかければいいかわからなかった。
「……おはよ」
かすれた声でそう言うと、若井は一瞬だけこちらを見た。
けれど、すぐに視線を外してコーヒーをカップに注ぐ。
その表情は、昨日までのあの“待ってる”という柔らかさを失っていた。
テーブルに置かれたカップ。
「飲める?」とだけ、短く言う。
俺は頷いたけど、コーヒーの香りも、温かさも、何も感じない。
沈黙が続く。
若井は何かを言いかけて、やめた。
その間が、妙に苦しい。
まるで、何も言わないほうが俺を傷つけないとでも思っているみたいに。
「……もう、やめられないんだろ」
ぽつりと落ちたその言葉に、俺は返事をしなかった。
反論しても、説得しても、結局また繰り返すことを、俺自身が一番わかっている。
若井は深く息を吐いて、立ち上がった。
「俺、今日は帰る」
それだけ言って、コートを羽織る。
焦りが胸をかすめる。
でも、引き止める声が出ない。
俺はただ、ドアの閉まる音を聞いていた。
静けさが戻る。
昨日の夜と同じ、あの息苦しい静けさだ。
テーブルの端に置かれた、飲みかけのコーヒーが冷めていく。
棚の奥――
そこにはまだ、昨日の瓶が半分残っている。
俺は、手を伸ばす。
まるでそれ以外に、選択肢なんて存在しないかのように。