テラーノベル
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仕事を終えた阿部は、駐車場に停めていた車へ乗り込んだ。
エンジンをかけようとした、その時だった。
ガチャ。
後部座席のドアが開き、深澤と渡辺が当たり前のように乗り込んでくる。
しかも二人とも大きなバッグを抱えていた。
「……え?」
阿部はバックミラー越しに振り返る。
「どうしたの、その荷物。」
深澤はシートベルトを締めながら笑う。
「今日の着替え。」
渡辺も隣で頷いた。
「充電器も持ってきた。」
「……。」
嫌な予感しかしない。
阿部は恐る恐る尋ねた。
「家まで送ってほしいの?」
「違う。」
深澤が即答する。
「今日はあべちゃん家に泊まる。」
「は?」
「決定事項。」
渡辺まで当然のように言う。
「出発して。」
「いやいやいや!」
阿部は思わず振り返った。
「誰が決めたの!?」
「俺ら。」
「却下!」
「却下は却下。」
深澤は窓の外を眺め始める。
渡辺もスマホを取り出し、完全に降りる気配がない。
阿部は二人を交互に見つめ、大きくため息をついた。
「……もう。」
「好きにして。」
___________
三人は阿部の家へ到着した。
「お邪魔しまーす。」
「今日からよろしく。」
「今日だけでしょ!」
阿部がツッコむ間にも、二人は自分の家のように靴を脱いでリビングへ入っていく。
「風呂借りる。」
「俺先。」
渡辺は荷物を置くと、そのまま浴室へ消えていった。
「ちょっと!」
阿部が止める間もない。
深澤はその隙にキッチンへ向かう。
「ちゃんと食ってる?」
冷蔵庫を開け、中を確認する。
「野菜ある。」
「卵もある。」
「……賞味期限も大丈夫。」
そう呟くと、勝手に冷えたお茶を取り出した。
ゴクゴク。
「うん、冷えてる。」
「ちょっと!」
「一本くらいいいじゃん。」
さらに棚を開け、お菓子の袋まで見つける。
「ラッキー。」
バリッ。
勝手に開けて食べ始めた。
kaede🍁
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「これうま。」
「なんで勝手に食べるの!」
阿部は呆れたように額へ手を当てる。
「ちゃんと食べてるから。」
「冷蔵庫の確認までしなくていいよ。」
深澤は悪びれる様子もなく笑った。
「ちゃんと食べてるなら安心。」
「目的達成。」
「目的達成じゃないから。」
そこへ風呂から上がった渡辺がタオルで髪を拭きながら戻ってくる。
「あべちゃん。」
「シャンプー変えた?」
「……気付くところそこ?」
「前よりいい匂い。」
「あ、俺も思った。」
深澤まで頷く。
阿部は二人を見つめ、長いため息をついた。
「ほんと自由だね。」
「今さら。」
「今さらだな。」
二人は声を揃えて笑う。
阿部は肩の力を抜いた。
「……もういい。」
「俺もお風呂入ってくる。」
そう言って立ち上がる。
「勝手に家荒らさないでよ。」
「努力する。」
「努力じゃなくて約束して。」
返事は返ってこなかった。
阿部は苦笑しながら浴室へ向かう。
リビングではすでに深澤がテレビをつけ、渡辺はお菓子をつまみながらくつろいでいる。
まるで最初から、この家に住んでいたかのように。
___________
阿部がお風呂から上がると、リビングでは渡辺がテレビを眺めながらくつろいでいた。
「ふっか、お風呂空いたよ。」
「はーい。」
深澤は立ち上がると、着替えを持って浴室へ向かう。
入れ替わるように渡辺がソファをポンポンと叩いた。
「あべちゃん、こっち。」
「ん?」
「クリーム塗る。」
「自分で塗れるって。」
「いいから座れ。」
有無を言わせない口調だった。
阿部は苦笑しながらソファへ腰を下ろす。
渡辺は慣れた手つきでボディクリームを手に取り、阿部の腕へ優しく伸ばしていく。
「冷たっ。」
「我慢。」
「翔太、お母さんみたい。」
「違う。」
そう言いながらも、渡辺の手は真剣だった。
腕、肩、首筋。
クリームを塗るたびに、さりげなく身体つきを確認していく。
「……。」
「何?」
「ちょっと痩せた?」
「痩せてないよ。」
阿部はすぐに否定する。
「ちゃんと食べてる。」
「本当?」
「本当。」
少し間を置いて、阿部は静かに続けた。
「今回は迷惑かけないようにする。」
「ちゃんとご飯食べるし。」
「ちゃんと寝る。」
「だから心配しなくて大丈夫。」
その言葉に渡辺は手を止めた。
“今回は”。
その一言に込められた意味が痛いほど伝わる。
以前は心配をかけてしまった。
だからもう同じことは繰り返さない。
そんな決意だった。
渡辺は小さくため息をつく。
「約束だからな。」
「うん。」
「無理したら、また来る。」
「えぇ……。」
阿部は困ったように笑った。
「今日だけでも十分賑やかなんだけど。」
「知ってる。」
渡辺は少しだけ笑った。
___________
しばらくして浴室のドアが開く。
「ふぅー。」
髪を拭きながら深澤が戻ってきた。
すると真っ直ぐキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開ける音がする。
「よし。」
ゴソゴソと何かを探し始めた。
「ふっか?」
阿部が声を掛けると、深澤は缶を三本抱えて振り返る。
「お酒発見。」
「ちょっと!」
「勝手に開けないで!」
「一本くらいいいじゃん。」
「よくない!」
深澤は気にも留めずテーブルへ缶を並べる。
渡辺も「あ、俺も飲む。」と一本受け取った。
阿部は呆れたように頭を抱える。
「ほんと自由だよね。」
深澤はプシュッと缶を開ける。
「あべちゃん。」
「何?」
「お前さ。」
「今回めっちゃ頑固だから。」
「……。」
「今日は酒飲んでから話そう。」
阿部は眉をひそめる。
「何の話?」
深澤と渡辺は視線を合わせ、小さく頷いた。
「目黒のこと。」
その名前が出た瞬間、リビングの空気が静かに変わる。
阿部の表情から笑みが消えた。
深澤は缶を一つ阿部の前へ置く。
「逃げんな。」
「今日は俺らも、とことん付き合うから。」
阿部は缶を見つめたまま、小さく息を吐く。
今夜は簡単には眠れそうになかった。
コメント
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おつかれー!第5話読んだよ〜。 最初の「なんで勝手に家来てんの!?」ってツッコみたくなる導入から、もう阿部の困り顔が目に浮かんだわ。でも深澤と渡辺が「今日の着替え」「充電器も持ってきた」って完全に泊まる気満々なのが笑える。しかもクリーム塗るシーンで「今回は」って言葉が出てきたところで、空気が一気に真剣になったよね。過去に何かあって、それを繰り返さないようにしてるんだなって伝わってきた。 最後の「目黒のこと」で一気に緊張感が出たから、次がめっちゃ気になる…!