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【重大な注意】
作品の題材を**「カニバリズム」**としているため、グロテスクな描写が多く含まれます。
私が表現を変更する事は絶対にありませんので、嫌悪感を感じる方は自衛してください。
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山道を真東に一時間ほど歩いて抜けたところに、小さな朽ちかけの神社がある。鳥居には蔦が巻き付き、入り口の扉は片側が外れている。雑草が生い茂り、何か月も前に誰かが供えたであろう果実らしき物体には蛆が沸き、隣に添えられた酒瓶はその果実よりも前からあるようで強いアルコールの臭いがする。あまりに醜いその様に誰も近寄らなくなり、まぁお決まりというべきか根も葉もない噂が漂い始めた。
「あの神社には悪魔が住み着いていて、自身の命と引き換えに願をかなえてくれる。」
あまりにベタだ。漫画やらアニメやらで何十回も擦られてきた、噂の内のド定番。その話を聞いたうちの何人かは本当に信じているようだが、大多数はただのつまらないギャグとして扱っていた。信じないのが正常だろう。
たった今、正常でない少年が一人、神社に向かおうと山道を歩いている。名前は木戸恭太。十五の中学三年生で、鎖骨位の男にしては長い髪とアンダーリムの眼鏡が特徴的。頭脳も運動も人より劣った、謂わば出来損ないである。今も、木と湿気と土しかない自身の背後に怯えて無様に肩を震わせながら歩いている。
さて木戸は千鳥足ながらも歩を進め、本来一時間で着く筈の山道に三時間半かけて神社に辿り着いた。前述した様に蔦が絡まり色褪せた鳥居を潜り、建物の方へ向かってくる。眉を下げ、今にも恐怖で泣き出しそうな情けない顔で。私は歩み寄ろうとはせず、今にも崩れそうな銭なんてもう何年も入れられていない賽銭箱に腰掛け彼が来るのを待った。
⋯
木戸が神社に足を踏み入れると同時に、ミシミシと木製の床が苦しそうに呻いた。それと同時に木戸も
「ひっ」
と限りなく情けない声をあげ、一歩後ろに身を引く。目を見開いて暫く地面と見つめあった後、顔を上げようやく目の前にいた人のような、化け物のような男の存在に気が付いた。
「あなたは」
木戸が口を開くと男も口を開き、木戸の発言に覆い被せるように話し出す。
「はじめまして、ようこそ、木戸恭太くん。外は晴れているようで、良かったよ。」
低く、地を這う様な少し掠れた声。真っ白な仮面に隠された顔の下で発せられた筈なのにその声はやけに通っていて、変に聞き取りやすい。木戸は自身の言葉がかき消されたことを不快に思ったのか、むっ、と眉間に皺を寄せた。
「はじめまして。悪魔様はすべての人間の名前を知っているのですか」
男を悪魔であると決め付け木戸が問う。自分が知らずのうちに名乗ったわけではあるまい、何故名前を知られているのか不思議でならない。
「いぃや、知らないよ。知っているのは恭太の名前だけ」
くすりと笑い声を零して男が答える。ならばどうして自身の名前だけなのだ、と木戸は続けて問うた。
「恭太がいまから、私と契を交わすからさ。事前調査というやつかね」
男が賽銭箱から立ち上がり、木戸に近寄る。木戸は後ろに身を引こうとするが、磁石にでもなったかのような気分になり何故か前に進んでしまった。男の右手に顎を掴まれ、息を呑む。この手、指がひとつ足りないではないか。
「命を捧げれば、どんな願いでも叶えてくれるとは本当ですか」
今更後に引けず、弱々しく潤んだ瞳で男を捉え、木戸が問いかけた。先程から問い掛けばかりだ。
「あぁ。いかにも。噂の通りだよ。どういうわけか広まってしまって困っていたが、本当に来たのは今のところ君だけ。私は一人が好きだから、早く望みを言って、早くその身を捧げておくれ。」
男は一切乱れない声色で木戸にそう答え、ほら、早く、と催促し始めた。
「…悪魔さんが死ぬことはありますか」
木戸がまた問う。あまりに質問ばかりしてくるこの少年に少し苛だったのか、男の右手に少し力がこもった。
「眠ることはあるけれど、私は死なないよ。それと、私の名前は悪魔じゃなくてシモン。かってに悪にしないでいただけるかな」
んん、と咳払いして男、改めシモンが左手を胸に置いて名乗った。口を閉じると貧乏ゆすりし、また望みの催促をする。
「…シモンさんの内臓が食べたいです。」
少しの沈黙の後、木戸が口を開いてそう呟く。先程まで戸惑い目線を泳がせていた癖に、やけにしっかりシモンの目があるであろう場所を捉えて。
「…それは、まあ、随分と変わった要望だ。」
思っていたのとは少し逸れた願に内心驚きつつも、平然を装ってシモンは声を発し、
「その心は?」
と続けて問う。木戸は俯いて少し唸った後、再びシモンを見上げて口を開いた。
「一般人を殺してしまっては捕まりますが、人ならず者に法は適用されないと思ったのです。」
その瞳には好奇心の色が滲み、酷く楽しそうに見えた。シモンはクククとなんとも奇妙な化け物らしい笑い声を浮かべ、息を吸って話し出す。
「何故食べたいのかと問うたつもりだったけれど、まぁいい。好きにするといいよ」
顎に手を当てて指で擦った後、右手をようやく木戸の頭から離す。シモンは壁際まで寄ると埃が薄く積もった床に腰掛け、身に着けていた着物を乱し始めた。胸部から腹部にかけての血色感のない肌が露わになるくらいまで上半身をはだけさせると両手を広げ、木戸を自身の懐へ招いた。木戸は吸い込まれるようにシモンへ近付き、彼の胸部を指先で上から下へとなぞる。ごくりとあからさまな音を発しながら唾液を飲み込み、赤く火照った頬をシモンに晒した。シモンは広げた両手を曲げて木戸の背中に回し、受け入れるような動作をする。
「……綺麗です。シモンさん」
息を荒げながら木戸が呟き、胸部に置いた手を腹部まで下げる。少し浮いた肋骨に指先を滑らせ、蕩けた視線をシモンの体に注ぐ。しばらくして、木戸の視姦を遮るようにシモンが口を開く。
「食べないの?」
こてんと首を傾げる様は何処か無邪気に見えるが、掠れた声がその印象を破壊する。白に近い薄いくりいむ色のシモンの髪が傾げるのと同時に揺れて、出来損ないな天井の隙間から注ぐ光を反射した。眩く煌めき、木戸は思わず目を細める。
「…こんなに綺麗は肌を切り裂くのが、たまらなく惜しいです。」
木戸は床に両手を着けてバランスを取りながらシモンの腹部に顔を近付け、うっとりと見つめ乍ら自身の舌先を這わせ溝に添って滑られる。僅かな汗の味と、この男の味がする。シモンは僅かに肩を震わせた後、愛撫紛いなことをする木戸の後頭部を骨張った手で撫でた。
「一時間もあれば元に戻るよ」
仮面の下で目を伏せ、木戸にそう伝える。正直、分からない。物理的に食べられた経験なんてないから、絶対に元に戻るという保証は、シモンには無かった。けれどそれ以上に、自身が性的な意味ではない真の意味での捕食対象とされている現状に、堪らなく興奮した。
「…良かったです。」
小さく安堵の息を吐き。木戸が自身の懐から刃の少し錆びたカッターナイフを取り出す。カチカチという無機質な音と共に刃を出し、彼の腹部の中央に這わせた。息が荒くなり、どんどん昂っていくのを強く感じる。先程からやけに溢れてくる唾液を飲み込み、少し震える手で皮膚にめり込ませた。
「痛いですか」
木戸が顔を上げてシモンを見る。ふと顔が気になったのか、仮面越しに頬に手を這わせながら。
「…いや。異物感がるだけ。」
少し間を開けてからシモンが応答する。腹部に突き刺さったカッターナイフに目線を落とし、木戸の頭をもう一度撫でた。
「そうですか。苦しむ様子は見たくないので、安心しました。」
昂りを抑えているのか、少し早口で木戸は言葉を返す。言い終わると目線を再びシモンの体に向け、カッターナイフを少しずつ下に動かし始める。ツツ、と皮膚から赤い液体が溢れ、同時に皮下脂肪が覗く。二十センチメートル程切ると刃を抜き、無造作に地面に放った。傷口を指でなぞり、両手を中に押し込んで無理やり広げる。ブチブチと皮膚が裂け、血液が木戸に向かって更に飛び出してくる。顔にも服に掛かり、建物全体に鉄臭さが充満した。だらだらと流れ続ける血液を舌で舐め、口に含み、喉を潜らせ胃に貯めこむ。全身が熱くなり、今まで感じた事の無い快感が木戸の全身を駆け巡った。
「勃ってるよ、恭太」
木戸の頭部に置いていた手を離すと彼の局部を指さし、シモンが愉快そうにクククと笑い声をあげる。指摘されると木戸は恥ずかしそうに顔を赤らめ、皮下脂肪を弄る手を止めた。
「どうせなら、犯してみてよ。文字通り、私の中を。」
両手を木戸のうなじに回し、少し声のトーンを上げて誘う。シモンもまた、僅かながら木戸と同じように興奮していた。
「いいんですか」
「いいよ」
短い言葉を掛け合うと、木戸は制服のズボンに手を掛け少しもたつきながらベルトを外し、チャックを下ろし、膝辺りまでズボンと下着を下げ自身の局部を露出させる。血管が浮きあがったソレを自身の右手で握ると、シモンも腹部に出来上がった大きな性器に這わせる。ぐちぐちと皮下脂肪が音を立て、油と血液とカウパーが混ざり合う。生暖かい感覚と柔らかい感触に快感が走り、木戸は顔を歪めた。木戸のうなじに置いた手を頬まで下ろし、シモンは彼の顔を撫でる。ぐちゅ、と生々しい音と共に入り込んでくる木戸の性器に感覚を集中させ、なんとか自分も恭太と同じように快感を得ることはできないかと模索しながら。
「あ、ん、ん…気持ちいいです、シモンさん。」
甘い吐息交じりの声を発しながら、腰を揺らす。名称のいまいち分からない臓器達をかき乱して無理やり中にねじ込んでいくのはたまらなく快感で、時折背骨にぶつかる痛みに目を瞑ればきっとどんな性器よりも名器だと思った。快感はドンドン強まり、果てそうになる。自身の精子が掛かった物を食べるのは嫌なようで性器を抜き、シモンの胸部に白濁した精液を放出した。頭が真っ白になる。自慰行為の何倍も気持ちが良かった。赤らみ、涙の滲んだ顔でシモンを見、彼の仮面の越しに口づけをする。
「…キスがしたいなら、外そうか。」
シモンが口を開き、仮面に手を掛ける。木戸は少し考えた後、彼の腕を掴んで制止した。
「…大丈夫です。顔をみたら、死ぬのが惜しくなりますから。」
「どうして?」
「シモンさんと目を合わせたら、きっと恋してしまう。」
そう告げると木戸はシモンの腕から手を離し、再び傷口に手を入れる。ずるりと肝臓であろう部位を引き出し、力いっぱいに噛んで引きちぎった。ゆっくり咀嚼し、荒いペースト状になったのを舌で確認してから、ごくんと喉を鳴らして飲み込む。口が止まらず、夢中になって噛み、気付くと掬いあげた肝臓は無くなっていた。
「…おいしい?」
こてんと首を傾げ、されるがままだったシモンが口を開く。同時に頬に這わせた手を動かし、木戸の瞳から無意識に流れていた涙を拭った。
「………おいしいです。すごく…シモンさんの味がする。」
目を伏せ、もう一度仮面越しにシモンに口付けをして返す。真っ赤になった手でシモンを抱きしめ、肩に顔を埋めた。
「ありがとうございます、シモンさん。もう大丈夫です」
「そう、…お粗末様でした」
少し名残惜しそうな声色でシモンが呟く。同時に木戸の意識は遠のいていき、十秒程で呼吸する音は聞こえなくなった。