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ゆずき
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19××年 12月 26日
昨日、体調を崩した古くからの友人の家を訪ねた際、この日記帳を受け取った。
寝込んでいるアーサーの代わりに食料を買って来てくれたお礼だという。
正直、なんで日記帳?とは思ったが、まあこういうものは素直に受け取っておくのが礼儀だろう。
ということで、折角貰ったし日記を書いてみようと思う。
こんな日記を書いていると、幼少期のことを思い出す。
今から十二年前、俺がまだ十五のときの話だ。
当時、俺はまだ自分が「Stitch&Stone」のような歴史ある店の門を叩くなんて想像もしてなかった。
ただ、どこにでもいる落ち着きのないガキだった。
あの日は、ひどく霧の濃い日だったのを覚えている。
山の奥、迷い込んだ先にあったのが、あの古ぼけた雑貨店、 The Foggy Shelfだった。
“アレッシア・ロッシ”
彼は当時、十六歳だった。
それなのに、あんな山奥で独り、時計の秒針が刻む音に囲まれて暮らしていた。
癖のあるブロンドの髪に、透き通るような白い肌。
女と見紛うほどの美貌を持ってたが、その瞳はどこか遠く、今の俺よりもずっと大人びた何かを見つめているようだった。
あの店、「The Foggy Shelf」には不思議な空気が流れていた。
雑貨店という名目だが、棚を埋め尽くしていたのは数えきれないほどの時計だ。
カチ、コチ、と重なり合う音の中にいると、時間の流れが外の世界とは切り離されているような、奇妙な錯覚に陥ったものだ。
それから十二年。
十五だった俺も、今や二十七歳だ。
今は老舗仕立て屋で見習として、頑固な師匠に揉まれながら針を動かす毎日。
アーサーとは相変わらずの仲だが、あいつが修復保存官なんていう、繊細な仕事を選んだのは少し意外だったかもしれない。
明日は仕事が早い。
日記はこの辺にしておこう。
アーサー、粥はちゃんと食べたか?
明日、また様子を見に行ってやろうと思う。
─ ウィリアム ・ ホロウェイ