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俺は白雪を木に押し付けたまま睨みつけた。


「どこまで読んだ」


「え、えっと……邪神と戦ってるところ……」


どう考えてもアウトだな。


「老日さん。白雪が何をしたんですか?」


章野が問いかけた。目が据わっている。もしものことがあれば敵対するという覚悟を決めたのかも知れない。


「記憶を読まれた」


「あぁ、それか……人の記憶を勝手に読むなって死ぬほど言ったんですけどね」


まぁ、死ぬほど言われた程度でやめる性格では無さそうだよな。この女は。


「……読まれると不味い記憶があったんですか?」


「あぁ、死ぬ程な」


俺は白雪の襟を持ったまま答える。


「邪神、とかいうワードが出てましたが……まさか、邪神の召喚を目論んでるとか」


「違うに決まってるだろ。俺がそのレベルの悪党なら既にアンタらは死んでる」


さて、どうするか。


「記憶を消す、か?」


記憶を消した場合どうなる。ただ記憶を消すだけなら、流石に不自然すぎて疑われるだろう。感知できないとはいえ、直近の記憶が消えるんだ。違和感は生じるはずだ。

記憶を消して意識を飛ばした場合でも同じだ。俺の記憶を全て消す訳にはいかないから、起きた時には違和感を感じるだろう。というか、この場合は再捜査命令が出てもおかしくない。


……待てよ?


「アンタ、もしかして前に会った時から俺の記憶を盗み見てたのか?」


「もしかしなくてもそうですっ! それで君に興味を持ったって感じ!」


……やっぱり、記憶を消すのは無しだな。そもそも、次に会うことがあればどうせ二の舞になる。


「……殺害?」


「へぇっ!?」


流石に無いな。ここは日本だ。子供相手に殺しは無しで行こう。だったら、アレか。


「抵抗するなよ。殺しはしない」


悪いが、章野にも食らって貰う。


「『完全なる支配《コンプリート・コントロール》』」


俺から魔力が広がり、二人を浸蝕していく。


「おい、抵抗するなって言ったよな?」


魔術に抵抗されている。白雪だ。


「ちょ、ちょっと待って! 私、むしろ抵抗してる状態がデフォルトだから……よし、これで行けるかな」


通った。しかし、オートで抵抗か。益々こいつの力が分からんな。


「先ず、共通して二人とも真偽調査後のことは全て他人に話せない。伝えようとすることも出来ない。その内容が露呈しそうになった場合は取り繕う必要がある。あと、白雪は前に見た俺の記憶についてもだ」


白雪は自分の体を眺め、呆然としている。


「これが、あの悪魔を倒した後の能力……やっぱり、魔術の完成度が異常だよぉ」


「え? 悪魔、倒してたんですか?」


一応、今は俺たちの間では話せるようにしているが、この調子じゃ漏らしそうだな。


「あぁ、実はな。それと、独り言とかメモで情報を残すのも禁止した。それが他人に伝える目的が無くてもだ」


これはほぼ、白雪の為のルールだ。


「……そうだ、アンタら警察だったな。無線を繋いで向こうに筒抜けとか無いよな?」


だったら、相当に面倒臭いことになるが。


「繋いでいませんよ。僕は、この人みたいに常識が無くて他人に迷惑をかける人間にはなりたくないので。プライベートな会話を漏洩するつもりはありません」


「うへぇ、ひどいなぁ章野くん」


良かった。章野はかなり真面目な雰囲気があるから怖かったが、こいつは組織に忠実というよりは正義に忠実なタイプのようだ。


「そして、これは白雪単体だが……今後は常に支配下に置かせてもらう」


「え」


固まった白雪。一応、説明しておくか。


「これから、断ることが出来ない命令を下すことがあるかも知れない」


ほぼ隷属魔術のようなものだが、違うのはこれは飽くまで副次的な支配ということだ。完全なる支配《コンプリート・コントロール》による命令は永続だが、この魔術自体は直ぐに効果が切れる。つまり、この魔術で命令できる期間は相当に短い。

だから、今回のように服従の命令を出せば永続的な支配が可能だが問題が無い訳ではない。先ず、強度が低い。この命令自体は魔術ではないので当然だが、そこそこの相手には無効化される可能性もある。特に、身体機能を自由に弄れる奴相手なら。

そして、これによる命令は口頭やメール。つまり、俺からの命令であると認識出来ないと効力を発揮しない。要するに俺の命令を認識するまでは効果が無いのだ。例えば、命令した時に寝てたら効果は無い。


「日常的に命令する訳ではないが、警察らしいからな。必要な時は利用させてもらう。連絡先も教えてもらう。電話は出て、メールは見ろ」


「もしかして、奴隷?」


人聞きが悪いな。


「日常的に命令する訳じゃないと言ったろ。命を賭けさせるような真似もしないつもりだ」


使う機会があるのかも分からんが。


「……章野くんも行っとく?」


「はい?」


無いのか、こいつには。倫理観が。これっぽっちも。


「良いか、これはアンタへのペナルティだ。俺のプライバシーを侵害したことに対するな」


俺が言うと、白雪は項垂れた。


「……何で、こんな倫理観の無い奴が警察なんだ」


「こんな倫理観の無い奴が他の組織や機関で能力を使ってたら不味いからじゃないですかね」


そうだな。こいつは多分野放しにすると碌なことにならない奴だ。寧ろ、高校を退学になっていないのが驚異的と言えるだろう。


「まぁ、取り敢えずこんなところだな。アンタは巻き込んで悪かった」


「いえ、僕も勘違いで尾行しましたから」


それが警察の仕事って奴だろう。それ自体を責めることはしない。


「そうだ、老日君! どうせ誰にも話せないなら全部見せてよ! 言うこと全部聞くから大丈夫!」


こいつ、こいつ。こいつには反省とか自省とか内省とか無いのか。


「おい……」


怒りの混じった俺の声に、白雪が首を傾げる。


「焼きそばパン買ってこい」


「えっ」


「ダッシュだ」


「えっ」


きっと人生初のパシリだろう。異界からコンビニは相当遠いが、楽しんで行って来ると良い。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

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