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その日、おっさんは俺を町の広場へ連れてきた。 朝の空気は冷たく、まだ人影もまばらだ。だが、広場の中央には不気味な存在が三つ並んでいた。
木製の訓練人形。 ただの木偶ではない。表面に刻まれた魔法陣が淡く光り、まるで生き物のように呼吸している。
「今日は実践だ。」 おっさんは短く言った。
「実践って……まさか、戦闘か?」
「そうだ。お前の“簡易操作”がどれだけ通用するか、確かめる。」
心臓が跳ねた。 昨日まで小石を動かすだけで精一杯だった俺が、いきなり戦闘なんて――。
「安心しろ。死にはしない。」
「安心できるかよ!」
おっさんは答えず、指を鳴らした。 その瞬間、人形の目にあたる部分が赤く光り、ギギギ……と音を立てて動き出す。
「おい、もう始まってんじゃねえか!」
「構えろ。来るぞ。」
言われるより早く、一体が突進してきた。 木の脚とは思えない速度。 俺は反射的に手をかざし、魔力を流す。
「動けっ……!」
地面の小石が浮き上がり、人形の顔面にぶつかった。 ガンッと鈍い音が響き、人形の動きが一瞬止まる。
「よし……!」
だが、次の瞬間。
ドンッ!
横から別の人形が体当たりしてきた。 俺は吹っ飛ばされ、地面を転がる。
「ぐっ……!」
肺から空気が抜け、視界が揺れる。 立ち上がろうとした瞬間、三体が同時にこちらへ歩み寄ってくる。
「おいおい……無理だろ、これ……!」
「諦めるのが早い。」 おっさんの声が飛ぶ。 「“簡易操作”は小石を動かすだけの魔法じゃない。周囲の“物”をどう使うかだ。」
どう使うか――?
俺は歯を食いしばり、周囲を見渡した。 地面には散らばった小石、訓練用の木片、そして――倒れたときに蹴り飛ばしたバケツ。
(……そうか。)
ひらめきが走る。
俺は手を広げ、魔力を一気に流し込んだ。
「全部……来い!」
小石が浮き、木片が舞い、バケツがカランと音を立てて宙に上がる。 三体の人形が同時に突っ込んでくる。
「行けぇっ!」
俺は魔力を一気に解放した。
小石が弾丸のように飛び、人形の関節を狙って叩きつける。 木片が回転しながら頭部を打ち、バケツが最後の一体の顔面に被さった。
ガンッ、ガガッ、ドンッ!
三体の動きが止まり、ギギギ……と音を立てて崩れ落ちる。
広場に静寂が戻った。
「……やった、のか?」
俺は肩で息をしながら、倒れた人形を見つめた。
おっさんが近づき、珍しく口元を緩めた。
「よくやった。今のは“応用”だ。」
「応用……?」
「そうだ。魔法は力じゃない。工夫だ。お前はそれを理解した。」
胸の奥が熱くなる。 初めて“戦えた”という実感が、じわじわと広がっていく。
「これなら……俺、もっと強くなれるか?」
「なれるさ。」 おっさんは背を向け、歩き出す。 「だが、今日のはあくまで“初歩”だ。明日からは本格的に鍛える。」
「本格的って……どれくらい?」
「死なない程度には。」
「いや、それ絶対死ぬやつだろ!」
痛む体を押さえながら笑った。
こうして、俺の“魔法使いとしての第一歩”が始まった。
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ゆう/カイ