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筋肉痛は、想像以上にしぶとかった。
「……いってぇ……」
ベッドから起き上がるだけで呻き声が漏れる。 昨日の訓練人形との戦闘で、全身が悲鳴を上げていた。
宿の階段を降りると、おっさんが朝食を食べながらこちらを見た。
「遅い。」
「いや、無理だって……体がバキバキなんだよ……」
「なら今日は休むか?」
「……休む。」
即答した。 おっさんは珍しく文句を言わず、パンをちぎりながら言った。
「筋肉痛のときに無理をすると怪我をする。今日は魔力の流し方だけ軽く確認して終わりだ。」
「それでいい……」
結局その日は、宿の裏庭で座ったまま魔力の循環を整える練習をしただけで終わった。 おっさんは「明日には動ける」と言い切ったが、正直半信半疑だった。
──そして翌朝。
「……あれ、動ける。」
昨日の痛みが嘘のように軽くなっていた。 おっさんは腕を組んで頷く。
「魔力を扱うと、回復力も多少は上がる。慣れればもっと早く治るようになる。」
「便利だな、魔法って……」
「便利にするのは使い手だ。」
相変わらず説教くさいが、悪い気はしなかった。
森へ向かう道は静かだった。 鳥の声と風の音だけが響き、昨日の筋肉痛が嘘のように体は軽い。
「ゴブリンって、どんな感じなんだ?」
「小柄で、動きは素早い。知能は低いが、群れると厄介だ。」
「群れる……」
嫌な単語だ。
森の入口に差し掛かったとき、おっさんが急に手を上げた。
「止まれ。」
「え?」
おっさんは地面に落ちている“何か”を指差した。 泥にまみれた、小さな足跡。
「ゴブリンの足跡だ。新しい。」
「ってことは……」
「近くにいる。」
その瞬間――
ガサッ。
茂みが揺れた。 俺は反射的に魔力を手に集める。
次の瞬間、緑色の影が飛び出した。
「ギャッ!」
小柄な体、黄色い目、鋭い牙。 まさしく絵に描いたようなゴブリンが、こちらに向かって突っ込んでくる。
「来るぞ!」
おっさんの声が飛ぶ。
俺は地面の小石に魔力を流し込んだ。
「動け……!」
小石が浮き上がり、ゴブリンの額に向かって一直線に飛ぶ。
ガンッ!
ゴブリンがよろめいた。 だが倒れない。 むしろ怒りで目をギラつかせ、さらに速度を上げて突っ込んでくる。
「うそだろ、効いてないのかよ!」
「効いてる! だがゴブリンは痛みに鈍い!」
おっさんが叫ぶ。
ゴブリンとの距離が一気に詰まる。
(やるしかない……!)
俺は周囲の落ち枝と石を同時に浮かせた。
「まとめて……行けぇっ!」
石が弾丸のように飛び、枝が鞭のようにしなり、ゴブリンの顔と腕を叩く。
「ギャアアッ!」
悲鳴を上げ、ゴブリンが地面に転がった。
動かない。
「……倒した?」
おっさんが近づき、ゴブリンを軽く蹴る。
「気絶だ。だが十分だ。よくやった。」
胸の奥が熱くなる。 昨日の訓練とは違う、“本物の魔物”を相手にして勝てた。
「これなら……いけるかもな。」
153
ゆう/カイ
「油断するな。巣はこの先だ。」
おっさんが森の奥を指差す。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
本番は、まだこれからだ。