コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「残念だったな、桜の初めては、俺が頂きました♡♡」
煽るようにせせら笑う棪堂。
その言葉に怒りを覚えたのか、蘇芳がぐっと拳を握った。
桜は未だ、眠ったままだ。
「….棪堂、貴様だけは許さない」
「ほう….」
ピリピリと、裂けるような空気が渦巻いた。
刹那。
ヒュオッ!!
蘇芳の拳が啖呵を切るように、鋭く降りかかった。
今までに見たことがない….いや、1度だけ、1度だけ、見たことがある。
怒りも何も背負ってない。強いて言うなら、愉しそうに。
今みたいな鋭い拳を振りまくる奴。
そう。
こいつは。この、蘇芳と言う奴は。
────焚石矢に、似ているのだ。
拳が。圧が。
それを渦巻く感情が、違うというだけ。
ドカッ
その拳に思わず惚れていると、顔面にもろに食らってしまった。
鉄臭い赤い液体が、口の中から出てくる。
「なんだ、こんなもんですか」
冷めた表情で、嘲笑する蘇芳。
ああ、と心底思う。
コイツが、欲しいと。
「なあ蘇芳」
「…….」
欲しい。その怒りも、拳も、冷たい目も、全て。
「俺の所に来ないか?」
「は」
「そしたら桜のことは諦めてやる」
ぴくり、とその言葉に奴が反応する。
その反応に、少しの優越感を覚えた。
追い討ちをかけるように、再び毒の言の葉を吐き続ける。
「もしお前がそれを拒むなら、俺は変わらず桜に手を出す。もっと酷いことをするかもな。しかし、もしそれを受け入れるなら、俺は甘んじて初恋を捨てよう」
なぁ、悪くないだろ?
悪魔の様に嘲笑いながら、蘇芳へ手を差し伸べる。
奴は拒めきれないその手に、逡巡の色を瞳に宿した。
「…….」
ごくり、と蘇芳の喉が鳴る。
あとちょっとだ。
ゾクゾクと、心臓から脳までに電流のような刺激が走る。
あとちょっとで、欲しい物が、手に入る…..!
そして、ついに、
蘇芳が、恐る恐る手を取ろうとした。
────その時だった。
「…..めろ」
「「!?」」
先程まで棪堂に無理矢理犯され、気を失っていた愛玩具….桜が、腰の鈍い痛みに耐えながら、むくりと起き上がった。
「さ、桜くん!」
途端、棪堂との契約は忘れたかのように、取りかけた手を無視し、桜を支えに行く蘇芳。
棪堂は、行き場のない手を、ただじっと見つめていた。
「桜くん!大丈夫なのかい!」
「….す….お…」
「?どうしたんだい、桜くん」
心配そうに顔を覗き込む蘇芳に対し、桜は、ガシッと蘇芳の腕を掴んだ。
「….さ、桜くん….?」
「…..行くな…….」
「!」
寂しげな顔を向けられ、はっと蘇芳の瞳が揺れる。
….これまでに見たこともないくらい、優しくて、切なそうな表情だった。
「…..行っちゃ、だめだ…..蘇芳……」
その切実な願いに、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされる。
彼の顔も、声も、言葉も、全てが愛おしく感じた。
─────好きだ、とどうしようもなく思ってしまった。
もう、どうでも良くなってしまう。
桜と一緒にいられるのなら。
もう、なんでもよくなってしまう。
もう一度桜と居られるのなら。
もう二度と桜を手離したくないから。
「….桜くん、大丈夫だよ。」
はっと桜が顔を上げる。
その愛おしい顔を両手で包み、おでこにそっと口付けした。
「俺はずっと、君のそばにいる。二度と、遠くに行かない」
その言葉に、安心したように、桜が笑った。
その笑顔がまた、満開の桜のように、愛おしくって。
「愛してるよ、桜くん」
「….!」
今度は、ゆっくりと、でも優しく、唇を重ねた。
どうしようもなく、愛おしかった。
「─────ふざけるな!!」
刹那。
棪堂の怒号が、部屋に響いた。
「なんだよ、それ。愛の力?ふざけんな!結局俺は何も得てねぇじゃねぇか!」
ふつふつと湧き上がる怒りに任せ、荒い言葉を投げる。
しかし、そんな言葉にも奴らは痛くも痒くもなさそうな顔して、慈悲深そうな目を向けてきた。
「やめろ!俺を、そんな目で見るな!」
もういい!!全てぶっ壊す!
うわあああっ!と声にならない怒声を上げ、2人めがけて鉄パイプを振りかざした。
しかし。
蘇芳がタイミング良く鉄パイプを掴み上げ、それと同時に桜が蹴りをかましてきた。
「ぐはっ!」
腹に食らったそれは、いつもくらう焚石のよりも重く感じられた。
思わず後方へぶっ飛んでしまう。
だが、蘇芳らはトドメを刺そうしなかった。
意識のある棪堂を独り残し、仲睦まじく部屋から出て行ったのだ。
それが何よりも屈辱で、悔しかった。