コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「桜くん。どこか、痛むところ、ある?」
桜くんを背中に背負いながら、桜の並木道を歩く。
サラサラと流れていくピンク色をした花びらが、俺たちを歓迎しているかのように優しく舞った。
「…..腰、が」
「…..あぁ、」
今更ながら、桜くんが無理矢理処女を奪われたことに、灼けるような怒りが沸く。
そんな俺を見かねた桜くんが、わざとらしく笑った。
「そんなに凹まなくても、俺はもうお前のものだっつの 」
「え」
少し照れたような、でも清々しい顔で桜くんが。
俺の瞳に映る、桜くんが。
きらりと、太陽の反射と、桜の花びらとともに、光った。
「…..ねぇ、桜くん」
「?何だ」
「また、この桜の木の下に、来ようね」
もちろん、2人きりで、と付け足す。
桜くんはしばしキョトン、とした後。
ぷっと吹き出した。
「別にいいけど」
「….良かった」
何事もなく、ただ穏便に。
そんな毎日を送れたら。
どれだけ幸せなんだろうか。
桜くん。俺、君となら。
幸せに生きたいって思うよ。
「…..なあ蘇芳」
「ん?」
「俺さ….」
ほんのりと頬を赤らめた、桜くんが躊躇いがちに口をひらいた。
そしてしばらく逡巡したあと。
再び、震える唇で言葉を紡いだ。
「….俺、お前となら幸せに生きれると思うわ」
「!」
微笑を浮かべた彼の顔がまた、愛おしくて。
俺も、と続いた。
「俺も、桜くんとなら、幸せに生きれると思うよ」
───これが、俺が1番初めに彼に吐いた嘘。
そんなに、生きれない。
もう俺は、長くないのだから。
多分、次桜が咲いて枯れる時に、俺の命も枯れ果てるだろう。
青が滲む快晴の空に、鮮やかなピンクが舞う。
同時に、俺たちの髪が風になびいた。