しっくりこなかったので、なんかもう一個書きました
春の光が、薄いカーテン越しに差し込んでくる。
白い壁と機械の音しか聞こえへんこの部屋で、うちは今日も目を覚ます。
隣のベッドには、いつものように悠が座っとった。
うちの病室の窓を開けて、外の風を入れてくれる。
「おはよう、しょう」
「……おはよう、悠。今日も来てくれたん?」
「当たり前やん。うちはあんたの専属看護師みたいなもんやで」
笑いながら、悠はカーテンを揺らす。
風に乗って桜の匂いがふわっと入ってきて、うちは少しだけ目を閉じた。
病気がわかってから、もう半年が経つ。
退院の話は一度も出てへん。
それでも、悠は毎日来てくれる。仕事終わりでも、疲れてても。
「なあ悠、外って今、桜もう散っとるん?」
「ううん。まだ咲いとる。けど風強いし、もうすぐやな」
「そっか。うち、今年は見れんかもな」
そう言うと、悠は困ったように笑って、うちの手をぎゅっと握った。
「見れるよ。うちが連れてったる。病院の庭にも桜あるん知っとるやろ?」
「……あかんて、先生怒る」
「怒らせとき。うちら、もう何回も怒られとるしな」
悠の笑い声に、うちはつられて笑った。
その笑顔を見るたびに、胸の奥がぎゅっとなる。
悠の笑顔を、うちはずっと見ていたい。
でも、それが叶わんかもしれへんことも、知っとる。
夜になると、咳が止まらん。
薬も効かん日が増えた。
それでも、うちはまだ生きたいと思う。悠と笑いたいと思う。
それだけが、うちをこの世界に繋ぎとめてる。
「しょう、これ見て」
次の日、悠は小さなノートを持ってきた。
表紙には「夢ノート」って書いてある。
「これな、うちが勝手に作った。しょうと一緒にやりたいこと、書いてこ」
「……子供みたいやなぁ」
「ええやん。真面目な顔ばっかしとったら病気まで暗くなるで」
ページをめくると、
「① 一緒に桜を見る」「② コンビニの肉まん食べ歩き」「③ 夜空を見に行く」
そんなことが並んどった。
涙が出そうになって、うちは笑って誤魔化した。
「アホやな、こんなん無理やん」
「無理ちゃう。ちょっとずつ叶えたらええんや」
悠はそう言って、窓の外を見上げた。
夕焼けが、オレンジ色に滲んでいる。
その光が悠の横顔を照らして、ほんまに綺麗やった。
――ああ、うちはやっぱり、この人の隣に生きていたい。
それから、少しずつ夢ノートを叶えていった。
病院の庭で桜を見た日、悠は花びらを拾ってうちの髪に挿した。
「似合っとるで。春の妖精みたいや」
「そんなん言うて、また照れさせる気やろ」
二人で笑った。
あの瞬間だけは、ほんまに病気のことなんて忘れられた。
夏には夜空を見た。
屋上の端っこに座って、手を繋ぎながら星を数えた。
「見える?あれが北斗七星」
「うちには全部一緒に見える」
「ほな、どれでもええ。いちばん光っとる星、しょうの星にしよ」
悠の声が、夜風に溶けていく。
その音が、今も胸の奥で生きとる。
秋の終わり、うちはだんだん起き上がるのもしんどくなった。
それでも悠は笑っていた。
「うちはな、しょうが頑張る限り、絶対泣かんて決めたんや」
「なんでそんな強いん」
「強いんちゃう。しょうが、うちを強くしてくれたんや」
悠の言葉に、うちはただ頷いた。
手のぬくもりが、世界を繋いでる気がした。
冬が来た。雪が舞う朝。
カーテンを開けると、真っ白な光が部屋を包んだ。
「雪や」
「せやな。うち、初雪見るの好きやねん」
悠が嬉しそうに言って、窓の外を見た。
その横顔を見て、うちはふと思った。
――この人の笑顔を、最後まで守りたい。
だから、泣かん。
だから、今日を生きる。
病気がどうとか、未来がどうとか、そんなことはもう関係ない。
この瞬間を、悠と一緒に感じていたい。
「しょう、覚えとる? 最初に言ったやろ、夢ノート」
「覚えとるよ」
「最後のページ、まだ書いてへんねん」
悠はノートを開いて、ペンを走らせた。
その手元を見ながら、うちはゆっくり目を閉じた。
ページの端に、丸い字で書かれていた。
――「最後の夢 また会おな」
涙が頬を伝う。
でも、不思議と悲しくなかった。
外では雪が舞っている。
白い世界の向こうに、春の光が見えた気がした。
けたたましく機械音が。高音の機械音がたった一つの病室に鳴り響いた。
そこには。泣いている少女。
横に。眠った少女。
風が吹く。桜吹雪。二人を世界から見えないように。隠すように。飛び散った。
季節はまた巡る。
悠は今もあの日と同じように、桜の下で笑っている。
風が吹くたび、花びらが舞い、
その中に、あの日の笑顔が重なる。
――「うち、ちゃんと生きとるで」
悠は空に向かって呟いた。
どこかで、きっと初兎も笑っている。
「うちらの旅立ちは、ここから続いとるんや」
風がやさしく吹き抜けた。
ふたりの想いは、今日も同じ空の下で、
確かに生き続けていた。
コメント
2件
ほんとに...書くの上手すぎない、??? 書き方が小説すぎてほんとらぶです...ෆ 切ないし温かいし...もう何なのちみ🫵🏻🫵🏻💕((天才って言いたい))
二個も書けるのまじで尊敬だわぁ...