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「全然ダメ。酷すぎて話にならない」


言い捨てたエミーネは、ウーゲル(※甲虫ムカデ)を抱きかかえるなり、さっさと身支度を整えた。「待っておくれ」とウィルが呼び止めても、立腹したエミーネはウーゲルをウィルの顔面に押し当てながら、ずっと気にしていた声量のことすら忘れてぶちまけた。


「待つ必要がどこに?! この一週間、アナタは頑張る頑張ると口で言うだけで、ちっとも進歩がないじゃない。残り時間は数日しかないっていうのに、このままじゃ私まで共倒れよ」


行くよとウーゲルを抱えたエミーネの腕を掴んだウィルは、別れ話を告げられた情けない男のように、何度も「ごめんなさい」と繰り返した。

ささくれて水分を失ったウィルの手を振り払ったエミーネは、何度も男の手を振り払いながら捨て台詞を吐く。


「変な自信があるみたいで期待してみれば、まさか魔法の一つもまともに使えないなんてね。冷気アイスの他にも色々覚えたんだ~なんて言いながら、肝心の冷気アイスさえ嘘なんだから笑っちゃうわ」


「ちょっと待って、ほ、本当に魔法は使えたはずなんだ。でもなんだか身体がおかしくて、上手く魔力が扱えないというか、どうしても力が抜けてしまうというか……」


「言い訳は聞きたくない。ホント、こんな人に一週間も使っちゃうなんて、私としたことが迂闊だったわ。さっさと帰って論文をまとめなきゃ」


涙を流し駄々をこねるウィルを足蹴にしたエミーネは、なぜか名残惜しそうなウーゲルの足を一本摘み、「じゃあね」と手を振った。「ギギュウ」と甲高い挨拶をしたウーゲルも、うねうねと数多ある足を振りながら滝底の拠点を去っていく。


「ちょ、ちょっと待っておくれって。僕のことを、み、見捨てちゃ困るよ、ねぇエミーネったら!」


早足で歩くエミーネを追いかけたウィルは、下手に手揉みしながら、「そんな酷いこと言いっこなしだよぉ」と付いて回った。

結界がなくなったことで、襲われればいつ殺されてもおかしくない状況ではあったが、ウィルからすれば、エミーネがいなくなることは即ゲームオーバーも同じこと。たとえ死んでもついていくほかなかった。


「これ以上つきまとうなら、無理にでも撒くよ」


「だから待っておくれ、僕の話を聞いておくれよ!」


「もう聞き飽きた。それに昔から嘘を付く男は嫌いなのよね」


「だから嘘じゃないんだ」というウィルの声に反応し、グルルと地面に響くような声が聞こえてきた。

「ヒィ」とエミーネにしがみついたウィルは、蔑むようにウィルを見下ろす女の視線にも気付かず、ただただ怯えるばかりだった。


「情けない男、Fクラスの冒険者が聞いて呆れるよ。どうやらアナタの話は全て嘘だったみたい。妹さんやアナタの住んでいた国のことも、きっと嘘なんでしょうね」


「僕は嘘なんかついちゃいないよ。それに今だって、ロディアはきっと僕のことを心配していてくれるはずなんだ!」


「どうだか」とエミーネが言った直後、進行方向の柱の陰から黒い影がのしりと現れた。

慌ててエミーネの背中に隠れたウィルを無視し杖を構えたエミーネは、肩に担いだウーゲルに「落ちないでね」と呟いた。


「グルル、ウガウ!」


姿を見せたのはダンジョンジャッカルだった。

以前に見た個体と比べれば幾分か小さく、まだ子供に毛が生えたレベルだったが、ウィルにしてみれば関係なかった。「死ぬ死ぬ」と無様に泣き喚き、エミーネの影に隠れた。


「これだから口だけの男はイヤなの。最期にいい機会だし、せっかくだから見せてあげる。ってものをね」


間合いをはかりながら杖をかざしたエミーネは、ジャッカルよりわずかに先手を取り、重力グラビティを唱えた。するとジャッカルの前脚が踏み込む領域までの空間が、突如黒い円球に覆われた。


「まずは動きを封じること。どれだけ速い相手でも、速さを無効化してしまえば全ては《 無意味 》よ」


重力が増し、ジャッカルの上半身がガクンと地面に突っ伏した。

思わず「オオッ!」と声を上げたウィルの言葉をきっかけに、薄い水着のような生地を振り乱しながら飛び上がったエミーネは、重みに気を取られたジャッカルの頭上でポーズを取った。


「悪いけど、一気に決めるよ。巨像コロッサス!」


エミーネが肩に乗っていたウーゲルを天高く掲げ、かと思えばウーゲルをジャッカルの頭へ向かって投げつけた。


「エミーネ、なんだってそんな酷いことを?! ウーゲル、ウーゲルゥ!」


「ダメ男は黙ってみてなさい。いくよウーゲル、超密度Sデンシティ!!」


エミーネが詠唱を叫んだ直後、ずっとウィルの胸で抱えられる程だったウーゲルが急激に巨大化し、ジャッカルの頭上に覆い被さった。 巨大な影に気付き、慌てたジャッカルが上を見るも時既に遅し。そのまま落下したウーゲルは、巨体でジャッカルを踏み潰した。


岩盤を激しくえぐり、恐ろしい落下音を響かせた一撃の威力は凄まじく、ウィルは思わず絶句する。これは一体何の冗談ですかと軽い笑みすら浮かんでしまうのだから仕方がない。


「は、ハハ……、ウーゲルを巨大化させ、しかも分子を超高密度に圧縮させてから、さらに荷重を上乗せし押し潰すだって? こんな高レベル魔法を何事もなく使いこなすなんて、なんて華麗で美しいんだ。素晴らしいよ!」


目の前で巨大な甲虫ムカデの足がうごめく不気味さも忘れて興奮するウィルを尻目に、ウーゲルの頭を撫でたエミーネが魔法を解除しサイズを元に戻した。

ウーゲルの下では、完全に潰されて絶命したジャッカルが絨毯のようになっており、飛び出した内臓をペッペと水場に捨てたエミーネは、残りを専用の魔道具に放り込んだ。


「す、凄い。鮮やかすぎて言葉がないよ……」


「これくらい朝飯前よ。だけど上手くいったのは相手がまだ子供だったから。あれが群れのボスレベルなら、最初の一撃はまず躱されてる。アナタも運が良かったわね、死なずに済んで」


「そ、それより教えてよ、エミーネ。さっき使った魔法はなんて言うんだい。相手の重力を操り、ウーゲルの身体を巨大化させて細胞分子ごと凝縮させたみたいだったけど!」


ウィルの言葉に困惑したエミーネは、いぶかしい顔で聞き返した。

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