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桜咲かな
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#学園
人間🫧🪄/👤💚
488
◇プロテストまでの半年間。僕の生活は文字通り「ボクシング一色」に染まっていった。
朝5時のロードワークに始まり、学校が終わればジムへ直行して夜遅くまでミット打ちとスパーリング。
だけど、僕にはもうひとつ――絶対に疎かにできない場所があった。
それが、日常の象徴である「高校生活」だ。
「未来、また授業中に寝てたでしょ」
昼休み。お弁当の蓋を開けながら呆れ顔で声をかけてきたのは、幼馴染の一ノ瀬 葵(いちのせ あおい)だった。
クラスでも目立つクールで成績優秀な彼女は、僕が陣内ジムに通っていることを知る数少ない理解者だ。
「……あはは、ごめん。朝のラダートレーニングが効いててさ」
「謝る相手は私じゃなくて担任の先生。ほら、ノート貸してあげるから写しなさい」
葵はため息をつきながらノートを差し出し、僕の手に目を留めた。
バンテージとグローブで擦れて、拳の皮膚が赤く硬くなっている。
「……本当に行くんだ、プロの世界」
「うん。会長からも『次のプロテストで一発合格しろ』って言われてるしね」
「そう。……まあ、アンタが自分で決めたことなら応援するけど」
葵はそう言って、ポケットからスマホを取り出した。画面には何やら複雑なグラフや数値が並んでいる。
「で、最近の“それ”調子はどうなの?」
葵が声をひそめて尋ねてくる。
“それ”――僕の未来視のことだ。
実は、鷹村さんとのスパーリング以降、葵には僕の体質について打ち明けていた。最初は半信半疑だった葵も、僕の異常な回避率とカウンターのタイミングをノートに記録し分析するうちに、本気で信じるようになったのだ。
「うーん……基礎体力がついてきたおかげで、アドレナリンが出た時の『残像』に身体が遅れなくなったよ。ただ、やっぱり疲労が溜まってると動体視力に脳が追いつかない感じがする」
「なるほどね。心拍数が160を超えたあたりから反応速度が上がってるみたいだけど、脳の負荷も凄そう。ちゃんと糖分補給しなさいよ。はい、これ」
そう言って葵が差し出してきたのは、ラムネの瓶だった。
「脳のエネルギー補給にはブドウ糖が一番効率いいから。プロテストの最中に脳がパンクしたら元も子もないでしょ」
「あはは……ありがとう、葵。本当にセコンドみたいだね」
「ふん、誰かがデータの管理をしてあげないと、アンタはすぐ限界を超えて突っ走るんだから」
◇
学校での僕は、相変わらず「目立たない普通の高校生」だ。
休み時間に男子グループが「格闘技のプロって超すげえよな」なんて話していても、僕は輪の外で大人しくお弁当を食べている。
クラスの誰も、僕が放課後にあのプロボクサーの鷹村さんを沈めたなんて思ってもいないし、ましてや未来が見えるなんて夢にも思っていない。
だけど――それが心地よかった。
ジムが「自分を解放して戦う場所」なら、学校は「自分を人間として繋ぎとめてくれる場所」。
葵との他愛もない会話や、静かな教室の空気が、高ぶりやすい僕の心を落ち着かせてくれた。
「おい、刃向!」
放課後、下駄箱で靴を履き替えていると、クラスの男子数人に呼び止められた。
運動部の威勢のいい奴らだ。
「お前、今日もすぐ帰んの? たまにはカラオケでも行こうぜ」
「ごめん、今日もバイト(※ジム通いの口実)があるから」
「チェッ、相変わらずノリ悪いなー。お前、もっと高校生活楽しまねえと損するぞ?」
肩を小突かれる。
昔の僕なら、この程度の軽い衝撃でもビクビクして縮こまっていたはずだ。
だけど、今の僕は違う。
ぶつかられた身体の軸を自然にいなし、柔らかく笑ってみせた。
「ごめんね、次機会があったら行くよ」
(……僕の高校生活は、今が一番楽しいよ)
胸の中でそう呟く。
放課後の夕日を浴びながら、僕はジムへと走った。
待っているのは、地獄のような追い込みトレーニング。
陣内会長の怒号と、ミットを叩く乾いた音。
そして――プロテストという、最初の大きな舞台。
日常を守るための高校生活と、未来を切り開くためのボクシング。
両方を抱きしめて、僕はプロテストの日へと突き進んでいった。
コメント
1件
うおお、第6話も熱かったわ…! 主人公が「日常」と「ボクシング」の両方を大事にしてるのがグッときた。葵とのやり取りで、未来視を真剣に分析してくれる幼馴染の存在って本当に心強いよな。ラムネの差し入れとかリアルで「ちゃんと人の心配できる子だなあ」ってほっこりした。クラスの男子に誘われても軽くかわしてジムに走るシーン、今の主人公の強さと余裕が感じられてニヤリとした。プロテストに向けて、地獄の追い込みも楽しみにしてるわ! 次回も楽しみに待ってる🔥