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「おい、澪。お前まだ時間平気か?」
電話を終えた会長がこちらを向いて聞いてきた。
時間……あっ、そうだ……勝手に抜けてきたんだった。でもきっと、これも今更だ。
「時間なら大丈夫ですよ。まだ何か?」
「ああ。アトラクションは乗れないけどアレなら良いってさ」
「アレ?」
「アレはアレだよ……土産!」
と言って、またしても会長に手を引かれやってきたのは園の端にあるショップだった。ここではパレードを見る時に使えるアイテムだったり、キャラクターをイメージしたリボンだったり、耳がついているカチューシャなど様々なものが売っている。もちろん遊園地に来た思い出としてお土産も売っている。
さっきの電話はこのショップを開けてくれるというものだったらしい。時間の制限はないのでゆっくり見てもいいという許可も貰えた。
会長は出入口付近で待っているとの事で私ひとりでショップ内を見て廻った。
お土産と一言で言っても色んな種類があり、クッキーやチョコレートなどのお菓子系からぬいぐるみ、キーホルダー、文房具など品数が豊富だった。
お土産なんて買ったことがないのでどれがいいかなんてさっぱりだった。あっちこっちに移動しては物を手にとりまた棚へ戻すという行為を何回も繰り返した。
さすがに見かねたのか店員さんが声をかけてくれて、どんなのが人気があるとか、普段使いするならとか色々教えてくれた。
「だいたいこんな感じなんですがいかがでしょうか?」
「そうですね……あの、小さめであまり目立たない物とかありますか?」
「小さいものでしたらこちらはどうでしょう?キャラクターをモチーフにしたチャームです。チャーム自体にカニカンがついてるのでこのままでも使えますし、これを外してお好きにキーホルダーとかネックレスとかにもできますよ」
確かにこれなら目立たないし、パッと見ではキャラクターの物とも分からないだろう。見つかる可能性も低そうだ……
私はその中の一つの、月の形にラインストーンがついている物を手に取りお会計を済ませてもらった。
「お待たせしました」
ショップの外に出ると会長は近くのベンチに座り携帯をいじっていた。何してても絵になるとかちょっと癪に障るな……
「おう、早かったな。もういいのか?」
「これでもだいぶお時間をとらせてしまいました。店員さんにもお付き合いいただいて申し訳ないです……」
右も左も分からない私に、嫌な顔をすることなく笑顔で接してくれた。さすがプロ……
「よし!それじゃあ帰るか」
「あっ、はい……もうそんな時間なんですね……」
楽しい時間はあっという間とよく言うけれど本当なんだな……ずっとここにいたい気持ちにさせる。
そんな事できるわけないけれど……時間が戻ればいいのに。
「時間も遅いし、送ってく。裏の駐車場に車を待たせてるから行くぞ」
「だ、大丈夫です!一人で帰れますので……」
家はダメだ……特に今日は私でも何が起こるか分からないのに。
楽しすぎて忘れていたがここからは現実と向き合わなければいけない。何を言われるか何をさせるか、覚悟をしなければ……
「今日は本当にありがとうございました。お陰様でとても楽しかったです。また明日、学園でお会いしましょう」
さっさと会話を終わらせてその場を立ち去ろうとしたのだが、これまた手を引かれ連れていかれた。
一体今日は何度同じことを体験すればいいのだろうか……
「あの、会長!手を離してください。一人で帰れますから!」
「それじゃあ、お前は自分の家の最寄り駅はわかるのか?どこでどうやって電車を乗り継いで帰るんだ?駅から家までのルートは?」
「……っ」
「分かったら黙ってついてこい」
何も言い返せない私は大人しく手を引かれ、会長が待たせているという車まで向かった。
会長は車の後部座席に私を押し込むと続けて乗り込み、隣に座った。
会長が乗ったのを確認すると車は静かに走り出した。
「そういえばオリエンテーションはどうでしたか?何か問題とか改善点とかありましたか?」
車が走り出してからお互い無言が続いてしまい、気まずくなった私は今日のオリエンテーションについて聞いてみた。
「問題は起きなかったな。広すぎて迷子はいたが……改善点はどうだろうな。目立ったものはないと思うぞ」
「迷子……なぜこの歳になって……とりあえず大きな問題がなくて良かったです」
かなり前から対策などを立てていたお陰かげか無事に終えることができたようだ。
その事に安心するのと同時に、心の中では参加できなかったことへのモヤモヤが広がっていた。
「……来年は参加できるといいな」
「……そうですね……参加したいです。来年こそ」
先程までいたあの場所は既に見えなくなっていた。
「会長……来年は何をしましょうかね」
「今から来年の話か……」
「いいじゃないですか。早いに越したことはないですよ」
「そうだけど……じゃあ水族館にでもするか」
「泳いでる魚見て何が楽しいんですか?」
「お前……それ絶対、他で言うなよ……」
「なぜですか?」
「はぁ……」
なんて会話を会長としながら流れる風景を横目でとらえ、来年こそは……と思いを馳せた。
「……ぉ。……お。みお……」
遠くの方で名前を呼ばれる感じがした……
起きなくてはという気待ちとこのまま寝ていたい気持ちとが戦っているが、起きなくてはという気持ちが負けそうだ。
呼んでいるのが誰かは分からないけど、このまま寝させてくれないだろうか……
「はぁ……いつもこのぐらい可愛げがあれば…………澪!着いたぞ!いい加減起きろ」
「……っ!はい!」
「やっと起きたな。そんなに俺の肩は寝やすかったか?」
「……えっ?」
どうやら相当疲れていたのか気づいたら寝ていたらしい。確か、会長と来年のオリエンテーションがどうたらみたいな話をしたのは覚えているが、その後がさっぱりだ。
しかもよりにもよって会長の肩で寝こけるとは……
「ご、ご迷惑をお掛けしました。起こして頂いても良かったのに……」
人前ではあまり寝ないようにしているけれど、昨日は全く眠れなかったうえに、遊園地ではしゃぎ疲れたのかもしれない。寝たからかいくらか頭がスッキリしていた。
「覚醒したか?お前の家、着いたぞ」
「家……あっ!わざわざ送って頂いてありがとうございます!ここまででいいので、それでは失礼します」
「おい!澪!ちょっと待て」
会長の引き止める声も聞かず、慌てて車を降りて家へ向かった。
……バレるわけにはいかない。タイミング悪く父さんたちが家から出てこないとも限らない。早く家に入らなければ……