テラーノベル
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数日後の昼下がり。
スタジオの一室には、楽器や譜面が並び、メンバーとスタッフが次のライブに向けて真剣に打ち合わせをしていた。
夏の気配が濃いせいか、空調が効いているのにじんわり汗ばむ。
藤澤は白いTシャツに膝上丈の短パンというラフな格好でやってきていた。
⸻
「……涼ちゃん、ちょっと」
若井に呼ばれた藤澤が近づくと、差し出されたのは黒い小箱。
「え、なにこれ」
「開けてみろ」
恐る恐る蓋を開けると、中にはシルバーのシンプルなピアスが光っていた。
小さな石がきらりと揺れるデザイン。
普段の藤澤の服装にも馴染むよう、控えめでありながら存在感のある品だった。
「……これ、俺に?」
「そう」
若井は短く答え、にやりと笑う。
「……これでいつでも命令してやるよ」
耳元で囁かれた声に、藤澤の背筋がゾクリと震える。
ただのピアスじゃない。
実はイヤホンが内蔵されている。
若井の声を、命令を、耳の奥に直接響かせるためのもの──そう直感した。
「……俺、もう完全に若井の……」
「そう。俺のものだ」
ピアスをつけてやりながら、若井は低く囁いた。
⸻
「お。オシャレなピアスつけてんじゃん」
「っ……!」
大森が藤澤の耳を指差した。
心臓が止まりそうになる。
「似合ってるじゃん。前からしてたっけ?」
「い、いや……最近……」
「へぇ〜、いいね。ちょっと大人っぽい」
藤澤はうつむき、耳を押さえた。
若井の横顔を盗み見ると、彼はソファに寄りかかり、わざとらしく目を逸らしていた。
(ふふ、焦ってる。ほんと可愛すぎるわ)
若井の口元にはうっすら笑み。
(……やっぱり……楽しんでる……!)
⸻
打ち合わせの合間、ふと耳に低い声が届いた。
「……Open your knees.(膝を開け)」
(……えっ)
即座に理解した。
若井の命令。
声は他の誰にも届いていないのに、ピアスを通して耳の奥に直接響く。
(ここで……!? 打ち合わせ中なのに……!)
頭の中が真っ白になる。
けれど、身体は逆らえない。
譜面を持ったまま、少しずつ膝を開いていく。
短パンから、色白の内腿が少しずつ露わになる。
(やばい……恥ずかしすぎる……)
「……おい」
突然、大森の声が飛んだ。
「お前、座り方だらしなくない?」
「っ!」
藤澤は一気に顔が熱くなり、慌てて膝を閉じた。
「ご、ごめん!」
声が裏返る。
スタッフも心配そうに「大丈夫?」と覗き込む。
顔を真っ赤にしてうつむく藤澤の正面で、若井は口元を手で隠し、小さく笑っていた。
⸻
打ち合わせが進む間も、耳の奥に命令は届き続ける。
「……Touch your lips.(唇に指を当てろ)」
藤澤はビクリと肩を震わせた。
(……また、命令……?)
だが逆らえない。
無意識に指先が上がり、唇に触れる。
自分でも信じられないほど、ドキドキと胸が高鳴る。
「……Whisper my name.(小さく俺の名前を呼べ)」
「……若井……」
息のような囁きが零れる。ほんの小さな声のつもりだった。
だがすぐ隣で書類を確認していた元貴が、首を傾げて口を開いた。
「ん? 涼ちゃん、今“若井”って呼ばなかった?」
「えっ……!? い、いやっ……! ち、違う!」
顔が一瞬で真っ赤になる。
慌てて否定するが、視線は泳ぎっぱなしだった。
元貴は「そっか?」と首をかしげただけで、特に深追いはしなかった。
それでも藤澤の心臓は爆発しそうだ。
⸻
「……Look(見ろ)」
ピアス越しに、また若井の低い声が響く。
藤澤はゆっくりと目を動かし、向かいに座った若井を盗み見る。
若井はにやりともせず、淡々とペンを走らせていた。
だがその瞳だけがちらりと動き、藤澤を射抜く。
その瞬間だった。
若井がボールペンを持ち直し、ノック部分をわざとらしく口元へ。
そして――ぺろりと、舌先で舐めた。
「……っ!」
藤澤の喉が勝手に鳴り、息が荒くなる。
赤い頬を隠そうと下を向くが、肩の震えは止まらなかった。
「……涼ちゃん?」
すかさず大森が声をかけてくる。
「なんか息、荒くない? 大丈夫?」
「っ……だ、大丈夫! な、なんでもないから!」
声は裏返り、ますます動揺が顔に出る。
慌てて両手で資料を整え直すが、真っ赤な耳がすべてを物語っていた。
鈴のように心臓が鳴り続け、若井の低い声に抗えないまま――。
コメント
2件
今回めっっっっちゃいい!!焦ってる涼ちゃんもかわいいけど指示してる若井も素敵(><)*。