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あの日を境に、二人の世界は静かに、しかし決定的に変わってしまった。
兄弟であることに変わりはない。
けれどそれ以上に、互いを唯一の存在として求め合う関係になった。
今のところ、その秘密を知っているのは世話係のばあやだけだった。
「セイカ様、ユイ様。そろそろお起きください」
襖の向こうから聞こえる声に、ユイが気怠そうに答える。
「ばあや……もう少し」
「いけません。他の将校方に勘づかれますよ」
そう言いながらも、ばあやの声にはどこか諦めが滲んでいた。
二人は顔を見合わせ、思わず笑みをこぼす。
その視線が絡んだだけで、言葉はもう要らなかった。
「……やれやれ。早く身支度をなさってくださいね」
ばあやの足音が遠ざかると、部屋には再び静寂が戻る。
重なった体温と、抑えきれない鼓動だけが、確かにそこにあった。
やがてすべてが終わると、セイカは何も言わずユイを抱き寄せ、湯の支度をした。
湯気の中で、疲れた身体を労わるように、傷ついた肌を丁寧に洗い流す。
傷の薬を塗るその指先は、戦場で剣を振るうときよりも、ずっと慎重だった。
セイカにとって、ユイだけが世界のすべてだった。
ユイにとっても、それは同じだった。
—–ある夜。
縁側で酒を口にしているセイカの隣に、ユイがそっと腰を下ろす。
そのまま肩に身を預ける姿は、まるで長年連れ添った夫婦のようだった。
「父様と母様に、何を話していたの?」
ここはかつてのケイシとリーシの部屋。
庭には、二人の墓が静かに月光を浴びている。
「たいしたことじゃない」
「嘘。きっと……俺たちのことだろう?」
セイカは月を見上げ、小さく笑った。
「怒っていないか、気になっただけだ。
……いや、呆れているかもしれないな」
「もし怒っていたら……俺を、もう愛してくれない?」
不安げな声に、セイカは即座に答えた。
「馬鹿なことを言うな。
たとえ父様と母様が反対しても、俺はお前と生きる」
月明かりが、二人を包み込む。
「それって……夫婦みたいな意味で?」
「当たり前だろ」
その夜、二人は多くを語らなかった。
ただ手を握り合い、同じ月を見つめながら、
この幸福がいつまで続くのかを、互いに胸の奥で噛みしめていた。