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ナチュラルに心の声まで読んでいるのを見ると本当に人外なんだな、と実感する。
「…そうですね…でもなんで僕を神なんかに?少なくとも僕が崇めているのは虚空であって、僕はただの教祖であり人間ですよ。」
いつの間にか大学生ではなく、あの狐の姿に変わっている相棒を見つめながら疑問をこぼす。
「そうっすねぇ……理由は軽く3つ。」
3の指文字を僕に見せた後、彼はゆっくりと説明しだした。
「まずひとつは、そもそもあなたには神になる資格ってか……素質?があるんすよ。貴方はいつまでも16歳であることに少したりとも動じないし、精神力も強くカリスマ性もある。そして貴方が崇めているのは『虚空』。ありもしないものを崇めている。ありもしない声を聞く役割をいとも容易く担っている。
宗教での教祖は、神……崇める対象に1番近い存在だ。アンタら虚空教が崇めているのは虚空ですけど、実は崇める対象のないものを崇めるのはとても難しい。出来るのはアンタくらいでしょうね。
それでは信者は何を崇めているのか?」
にや、と笑い彼は目線をこちらに向ける。
「……教祖、つまり僕。ですか?」
僕が応えると、彼は子供のように無邪気な笑顔を見せた。
「せいか〜い!信者にとってアンタは神だ。元々人間に崇められている対象は神になりやすいんすよ、物であろうと人であろうと、ね。」
そう言うと彼はこちらをちらりと見て気味悪く笑う。そんな彼に少し寒気がして、僕は目を逸らした。
それを気にせず彼は説明を続ける。
「ま、それが1つ目です。
2つ目と3つ目は単なるオレの私情なんですが……オレが神に仕える存在であるってのはご存知ですよね?」
当たり前だが、もう隠すつもりはないようだ。答えを聞くような目で見つめてきたので小さく頷く。彼はそれを確認しニコッと笑った。
「ご存知のように、オレは神に仕えていないと生きている意味がありません。つまり消えてしまう。存在価値がないですからね、仕えていないとオレは消えてなくなります。
そんで〜…なんでこの話したかっつーと、なんてゆーか…この前オレが仕えてた神が堕落しちゃったんすよ、ははっw…いや〜困ったもんですよねぇ、堕落した神に式神はついてはいけない。つまりオレはクビで無職でもうすぐ消えるんです。
だから、とやさん。あなたに仕えたいんです。」
「…………エッ…………」
すごいことを言われた。
「え、いやぁ、そ、それは……他の神に仕える、ってのは出来ないの……?」
恐る恐る聞くと、当然のように口を開く相棒。
「できますけど……オレは刀也さんに仕えたいんです。第1他の神なんてもうほとんどみんな式神従えてるし。」
……そんなに軽いものでもない気が……
「いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃないだろ…!!なんでそこまでして僕に仕えたいんですか!」
必死に弁解しようとした。
僕が何故、と聞いた瞬間の事だった。
彼の目が変わった。
「……3つ目の理由、お教えしましょうか。」
不気味な笑みを浮かべ、ゆらりとこちらへ近づいてくる相棒……いや、相棒と言うべきだろうか。
部屋の温度が変わった。一気に寒気が押し寄せる。小さく荒くなる自分の呼吸音と、比例して大きくなる僕の心臓の音が、耳を済まさなくても不思議なくらい大きく、大きく聞こえてくる。
無意識に逃げようとした。
助けを求めようとした。
人間の本能であったが、どうやらそれが駄目だったようだ。
「どうして逃げるんです、刀也さん」
気づけば彼の腕の中、僕は逃げられぬように拘束されていた。
あー、抵抗しても無駄だな。そう思い体の力を抜く。
それを確認すると、彼はそのまま淡々と説明を続けた。
「……3つ目の理由。それは……
オレは、…貴方が好きだからです。刀也さん。」
「……は?」
それはあまりにも予想外で。
は?…それ以外の言葉なんか出なかった。
「聞こえませんでしたか?アンタが好きだから、と言ったんです、刀也さん。
貴方が好きだから、神になったあなたに一生仕えたい。
貴方が好きだから、貴方を人間のまま野放しになんかしたくない。
貴方が好きだから、大好きだから、愛してるから、離れたくないから、貴方に神になってほしいんです、だからオレは貴方の時を止めたんです、ねえ刀也さん。
……オレの気持ち分かってくれますよねぇ……?」
彼は見たこともない深い愛情と不安と自己嫌悪が混ざりあった表情を僕に見せた。
……なんだか僕が思っているより大変な事態になっているようだ。