「私、霧島透花。ごく普通の高校生だと思っていたけど――」
目を覚ました瞬間、私はいつもと変わらない静かな朝を迎えていた。
朝日が窓から差し込んで、部屋を淡い光で満たす。
今日はいつも通り、家族と一緒に朝ごはんを食べ、学校へ行くだけだと思っていた。
だけど、何かが違う。
「透花、おはよう!」
母の真奈美が、朝ごはんの準備をしながら微笑んでくれる。
いつもの優しい笑顔だけど、何もかもが少し、ほんの少しだけ、違和感を感じる。
私の心の中に、理由のわからないモヤモヤが広がる。
父の大輔が新聞を広げながら、ふと顔を上げて言う。
「今日はお前も学校だな。頑張れよ」
その声は穏やかで、まるでいつも通り。
でも、私はどうしてもその言葉を信じることができない。
「あ、透花。学校まで一緒に行こうか?」
隼人、私の「兄」がカバンを持ちながら声をかけてきた。
無愛想で、いつも通り冷たい態度だけど、心の中で感じるのは「家族の一員だ」という安心感ではない。
彼が“兄”だという感覚が、どうしても腑に落ちない。
私が一歩、足を踏み出すと、ふと家の外に目をやる。
近所の風景は変わらず、いつも通りの風景なのに、なぜか心の中で何かが鳴り響いている。
学校へ向かう道を歩きながら、私は自分の気持ちを整理しようとする。
「どうしてこんなに違和感を感じるの?」
家族の顔を見ても、心のどこかで「これが本物じゃない」という感覚がぬぐえない。
隼人が少し歩調を早めて私の横に並ぶ。
「透花、大丈夫か?」
その言葉に、私は無意識に小さく首を振る。
「うん、大丈夫だよ…」
だけど、その言葉を口にした瞬間、自分の中の「嘘」が浮かび上がってくる。
私が言った「大丈夫」は、本当は大丈夫じゃない。
そんな自分を、どうしても受け入れられない。
学校に着いたとき、私は教室の扉を開けた。
生徒たちが談笑しながら過ごしている日常。
でも、私はその光景がどうしても「作られた世界」のように感じてならない。
直哉が教室の隅で、少し退屈そうに座っているのを見つける。
私の彼氏、藤堂直哉。
彼の表情はいつも冷たく、感情を表に出すことはほとんどないけれど、今日もまたその無表情が私を引き寄せる。
私は足を速めて彼の元へ向かう。
「直哉、おはよう」
彼は一瞬だけ目を私に向けると、わずかに頷いた。
「おはよう。どうした?元気がないみたいだな」
その言葉に、私は少し驚く。
直哉が私の気持ちに気づいているなんて思ってもみなかったから。
でも、彼が本当に私の心を理解しているのだろうか?
それすらも、わからない。
「実はさ…」
私が言いかけたその瞬間、突然、背後で誰かが話しかけてきた。
「透花、少し話があるんだ」
振り向いた先には、学校の職員室から出てきた黒崎玲司が立っていた。
彼は政府の関係者で、何かしらの研究に関わっている人物。
「話がある…?」
私の心臓が急に速く鼓動し始める。
直哉が軽く肩をすくめて、何も言わずに立ち上がると、私の手を引いて歩き始めた。
「行こう、透花」
その言葉が、私の中でさらに不安を煽る。
政府関係者の黒崎が私を呼び止める。
「透花、君に話すべきことがある。君が知るべき真実が…」
その言葉が私の耳に届いた瞬間、全てが崩れ落ちるような気がした。
私が今まで生きてきた世界、私が今まで信じてきた家族や学校が、何か大きな嘘でできていたことを――
その瞬間、私は気づいてしまう。
「私も、偽物なの…?」
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