テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#らんこさ
クッキー
6,086
なぎ
11,462
1,706
夜の城塞には、冷たい雨が降っていた。
遠くで鳴る雷の音を聞きながら、すちは治療室の窓辺に立っていた。
戦場へ向かったみことが帰ってくる。
そう信じて、何時間も。
「……遅いな」
小さく呟いた声は、誰もいない部屋に消えていく。
机の上には、治癒魔法のために用意した薬草と魔石。
すちは何度もそれらを確認していた。
準備はできている。
あとは、みことが帰ってくるだけだった。
――そのとき。
城門の方から、慌ただしい足音が響いた。
「負傷者だ! 治癒術師を呼べ!」
すちは反射的に駆け出した。
「みこと……!」
廊下を曲がった先。
兵士たちに支えられながら運ばれてくる人影を見つけた瞬間、すちの足が止まった。
「……え……?」
みことだった。
衣服は泥と雨で汚れ、腕や肩、上半身には包帯が巻かれている。
顔色もひどく悪い。
いつもならこちらを見れば笑ってくれる瞳も、今は力なく閉じられていた。
「みこと!」
すちは駆け寄った。
声が震える。
目の前の光景を受け止めきれず、瞳から涙がこぼれ落ちた。
「どうして……こんな……」
「戦場で魔法攻撃を受けました。意識はありますが、かなり消耗しています」
兵士の説明を最後まで聞く余裕もなかった。
「こっちへ。すぐ治療する」
すちはみことを治療台へ寝かせる。
震える手を無理やり押さえ込み、治癒用の魔石を握った。
「大丈夫。絶対に大丈夫だから」
自分に言い聞かせるように呟く。
魔力を集中させる。
淡い光がすちの手から溢れ、みことの身体を包み込んだ。
けれど、傷は深い。
一度の治癒魔法では足りない。
「……っ」
額に汗が浮かぶ。
魔力をさらに注ぎ込む。
光が強くなり、治療室全体を照らした。
「お願い……」
すちの頬を、また涙が伝った。
「もう、頑張らなくていいから……」
返事はない。
それでもすちは治療をやめなかった。
何度も魔法を重ね、薬草を使い、傷の状態を確認する。
夜が明けても。
魔力が尽きそうになっても。
すちはみことの傍を離れなかった。
やがて、みことの呼吸が少しずつ安定していく。
「……よかった……」
すちは椅子に崩れるように座った。
安堵した途端、張り詰めていたものが一気にほどける。
「……帰ってきてくれて……よかった……」
声が震えた。
眠っているみことの手を、そっと握る。
まだ温かい。
それを確かめるように、すちは何度も指先に力を込めた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!