テラーノベル
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――早く、帰りたい。
戦場を駆けながら、みことの胸に浮かぶのは、そればかりだった。
轟音が響く。
空を裂くように魔法が飛び交い、地面が揺れる。
それでも、みことは杖を握り直した。
「……まだ、終われない」
頭の中に浮かぶのは、すちの顔だった。
戦いを終えて帰れば、きっとすちはいつものように微笑んでくれる。
そして――
『おかえり』
そう言って、温かく迎えてくれる。
その瞬間を想像すると、不思議と身体に力が戻ってくる。
帰りたい。
あの場所へ。
すちの待つ場所へ。
だから、生きて帰らなければならない。
「……っ!」
みことは魔力を集中させた。
青白い光が杖の先に集まり、敵へ向かって放たれる。
また一つ。
そして、もう一つ。
何度も魔法を放ちながら、みことは必死に前へ進んだ。
そのたびに、すちのことを思い出す。
穏やかな声。
優しい笑顔。
自分が帰ってくるのを待っていてくれること。
――そのときだった。
ふと、胸の奥に今までとは違う感情が生まれた。
「……あ」
みことの動きが、一瞬止まる。
どうして、こんなにも帰りたいのだろう。
どうして、すちの顔を思い浮かべるだけで、こんなにも安心するのだろう。
答えは、ずっと前からそこにあった。
「……僕、すちのこと……」
好きなんだ。
そう自覚した瞬間。
視界の端で、敵の魔法が閃いた。
「――!」
避けようとした。
けれど、間に合わない。
強い衝撃に身体が揺らぎ、みことはその場に倒れ込んだ。
「……す、ち……」
遠くなる意識の中で、最初に浮かんだのはやっぱり彼の名前だった。
早く帰らなきゃ。
約束したわけじゃない。
それでも、帰りたかった。
すちの顔が見たい。
声が聞きたい。
そして、あの温かな場所へ帰りたい。
やがて仲間たちが駆けつけ、みことは救助された。
運ばれていく間も、意識は途切れそうになっていた。
何度も暗闇へ沈みかける。
そのたびに、みことは心の中で名前を呼んだ。
――すち。
すると。
「みこと!」
遠くから、声が聞こえた。
聞き間違えるはずがない。
ずっと会いたかった声。
「みこと、しっかりして……!」
その声を聞いた瞬間、みことの胸に安堵が広がった。
帰ってこられた。
ちゃんと、帰ってこられたんだ。
薄れていく意識の中で、みことは小さく微笑んだ。
声にはならなかったけれど。
心の中で、何度も伝える。
――すち。
――ただいま。
それからみことは、安心したように静かに意識を手放した。
#らんこさ
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