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🦈「……期待、って」
こさめの声はうまく出なかった。
指先を撫でる熱い手。
泣きそうな笑顔。
全部が心臓に悪い。
すちははっとしたように目を伏せると、ゆっくり手を離した。
🍵「ごめん。今の忘れて」
🦈「え、あ、でも……」
🍵「熱あると変なこと言うね」
冗談っぽく笑う。
けれど、その目は全然笑っていなかった。
こさめは胸がきゅっと痛くなる。
この人はいつもそうだ。
大事なことを言って、すぐ隠す。
まるで、自分が幸せになっちゃいけないと思ってるみたいに。
🦈「……忘れません」
小さく呟く。
すちは少し目を見開いた。
🦈「こさめ、忘れないですから」
真っ直ぐ見返すと、すちは困ったように笑うだけだった。
結局、医務は呼ばれた。
熱は高かったらしく、すちはそのまま別室で休養することになった。
こさめはその日ずっと落ち着かなかった。
書類を書いてもミスばかり。
先輩看守に「魂抜けてんぞ」と額を小突かれる始末だ。
🦈「だってぇ……」
先輩「だってじゃねぇ」
先輩はため息をつく。
それから少しだけ真面目な顔になった。
先輩「……あいつ、昔から体弱いんだよ」
こさめは顔を上げる。
🦈「え」
先輩「ここ入ってから特にな。ろくに寝ねぇし食わねぇし」
🦈「なんで……」
先輩は少し言葉を選ぶように黙った。
先輩「死ぬ準備してる奴って、たまにいるんだよ」
その一言が、ずしりと落ちる。
死ぬ準備。
まるで、もう諦めてるみたいな言葉。
こさめの喉が詰まった。
夕方。
仕事終わり、こさめはこっそり医務室へ向かった。
怒られるかもしれない。
でも顔を見たかった。
扉を少し開ける。
すると、ベッドの上のすちがこちらを見た。
🍵「あれ、こさめくん」
🦈「……来ちゃいました」
🍵「怒られるよ」
🦈「その時はその時です」
むすっと答えると、すちは小さく笑う。
熱は少し下がったらしい。
朝より顔色はましだった。
こさめはベッド横の椅子に座る。
しばらく静かな時間が流れた。
医務室は静かで、消毒液の匂いがする。
すちはぼんやり天井を見ていた。
🍵「……こさめくん」
🦈「はい」
🍵「なんでそこまで俺に構うの」
またその質問だった。
でも今日は、前みたいに誤魔化せなかった。
こさめは膝の上でぎゅっと拳を握る。
🦈「……だって」
声が震える。
🦈「すちさん、ひとりで全部抱えようとするから」
🍵「……」
🦈「苦しそうなのに、大丈夫って笑うから」
すちは何も言わない。
こさめは続ける。
🦈「放っとけないです」
その瞬間。
すちの表情がわずかに崩れた。
苦しそうに眉を寄せる。
🍵「……そんなこと言わないで」
🦈「なんで」
🍵「俺、もう十分もらってるから」
🦈「え……?」
すちは静かに目を閉じる。
長い睫毛が震えていた。
🍵「これ以上優しくされたら」
そこで言葉が途切れる。
代わりに、小さく笑った。
🍵「……生きたくなる」