テラーノベル
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タクシーの車内。藤利は、窓を叩く大量の雨粒と雨に濡れた窓越しに見える街の景色をぼんやりと見つめていた。ただの思いつきから突然飛び出したのだが、そのこともありどこに行くかも決めていない。──ただ、一つだけこれだけはしようと決めているものがあるだけで。
揺れに身を任せ、藤利はドアの方にもたれかかる。瞳を閉じても、先程まで見つめていた煌めく夜の街の様子は瞼の裏から離れそうにもなかった。目を閉じ耳をすましてみると、タクシーの音に混じってかすかに雨音が聞こえてくる。そこそこ強い雨が降っており、藤利はこんなに強い雨は久しぶりだな、などと思った。
それから数十分後。運転手が、「着きましたよ」とルームミラーを見ながら藤利に声をかけると、藤利はにこにことしながら体を起こした。そして、自分もルームミラーを見つめる。ルームミラー越しに視線がかち合い、どきりとしたのか運転手が先に目を逸らした。
「どこに着いたのかな? ここはおれが指定した目的地じゃないはずだけど……」
そう言いながら、藤利はちらりと外を見遣る。窓越しの景色は、いつの間にか煌びやかな街から一変し、暗く湿った森の中だった。藤利が本来向かおうとしていた目的地とは別の場所にタクシーが向かっていたのは、藤利が乗り始めてからほんの数分で気が付いた。その時、丁度目的地の道から一本外れた道を走り始めたからだ。そして、タクシーは見当違いな道を走り続け、気付けば目的地とは逆方向の森の中へと入っていった。
タクシーは、整備が不十分な森の道路の路肩に停められている。周りは見る限り一面が木。おそらく道路をもっと上った先に何らかの建物が存在している。運転手の男の〝アジト〟はここにあるのだろう。窓の外から見える景色だけを頼りにし、藤利はそのような考えを導き出していた。
すると、しばらく黙り込んでいた運転手の男に動きが見られた。男は隠し持っていた折りたたみ式ナイフを取り出し、藤利の喉元に突きつける。藤利は、怯える素振りも見せずに、喉元に突きつけられたナイフと運転手の顔を交互に見ていた。帽子の影に隠れて見えにくいが、その表情には焦りと恐れが混ざり合ったような表情をしていた。それだけを見ても、こういうことは慣れていないのだろうなということが分かる。藤利は、ふっと目を閉じた。そして、ぽつりと呟く。
「やればいいよ。──あんたがおれをやれるなら、の話だけど」
そのまま、藤利は目を閉じていた。男の手が震えているのが目を閉じていても伝わってくる。さてこの男はどうするのかと、藤利は目を閉じながら心を弾ませていた。
どれほど経っただろうか。痺れを切らした藤利が目を開くと、未だにナイフを手にしたままの男が居た。その手は震え、汗が止まらないようだ。分かりやすく動揺している男を見て、藤利はそんな男の手首を掴んだ。そして、ナイフを自身の心臓部分に向ける。
「急に怖くなったのかな? ほら、やるなら早くやって。ここを刺せば一瞬なんだからさ」
「……」
男は何も言わずに黙りこくっている。藤利は、期待はずれだと言いながら男の手を離した。足を組んで座り直し、じっと男の方を見る。男は、先程から全く動いていない。何も言わず、ただナイフを藤利に向けているだけ。まだ殺人に対する躊躇いのようなものがあるのだろう。本当に人を殺していいのか、殺人までしてしまえば自分はもう後戻り出来なくなってしまうのではないか、と。しかし藤利は、人を殺めるべきかそうでないか悩んでいる時点で、もう後戻り出来ないところまで来ているということを知っていた。
「……ねぇ」
「ひいっ!?」
「何もしないなら、おれ降りてもいい? これから大切な用事があるんだよね」
頬杖をつきながら男にそう問いかける。男はついに覚悟を決めたのか、藤利にナイフを突き刺そうと襲いかかってきた。藤利はそれを避け、勢い余った男はナイフをシートに突き刺した。それを見て、藤利は男からナイフを奪う。そして、男の右腕を掴んだ。
「待て……やめろ……!」
「まさか、おれに勝てるとでも思ってたの?」
「それじゃあね。おつ〜」
「待っ──」
藤利は男の心臓に狙いを定め、手にしたナイフを突き立てた。
◇ ◇ ◇
「っていうことがあってさー。ちょっと時間かかっちゃった」
「時間かかったって……。その運転手で遊んでただけじゃないの? というか死体はどうしたの?」
「その運転手のアジトの前に投げ捨てた! 今頃どうなってるんだろうな〜」
平然とそう言いのける目の前の青年を見て、一桜は眉間にしわを寄せた。そして、青年──藤利はまだ十八だったことを同時に思い出す。……そう、本来なら高校生活を楽しんでいるはずの年齢だ。そう考えると、途端に藤利が可哀想に思えてきた。人生の約三分の一を研究に費やしてきた一桜が言えたことではないが。
藤利の隣では、亜月がしれっと居座っている。亜月が尊敬している大好きな義兄はまだ任務中だそうで、家だと何をするか分からないから預かっていてくれと亜月の義兄から直接言われた。ブラコン共めが。人の家をなんだと思っているのだろうか。ひとまず、亜月には早めの夕食を摂らせて自由にさせていた。
「悪趣味な人ですね」
話を聞いていないように見えて聞いていたのか、亜月がぽつりとそう呟く。すかさず藤利が「あんたとあんたのお義兄様も大概だけどね〜」と、丁度一桜が言いたかったことを言った。それに反応した亜月が半ば叫ぶように反論する。藤利がそれを言い返し、二人は言い争いになってしまった。こんな場面を見ると、一桜は、この世界で生き抜くために大人にならざるを得なかった二人の青年にも、子供らしいところがあるのたなとふと思う。幼い頃から研究に没頭し、青春を全てドブに捨てたという点では、一桜にも似通ったところがあるのだが。
「人の家で暴れないで。……というか、そっちには危険な薬品だってあるんだけど。もし試験管が割れたりしたらどうするの?」
言い争いが発展し、ついには家の中を駆け回り始めた二人に向かって鋭い視線を向けながら一桜がそう言う。「危ないんだから怪我をしないように気を付けて」という一桜なりの配慮と心配である。少々どころか中々遠回しで棘のある言い方なため、それが二人にきちんとした意味で伝わっているのかは不明だが。二人の喧騒をバックに、一桜は今日も平和だな、なんて考えていた。もはや現実逃避である。
◇ ◇ ◇
「ふふっ……はははははは……!」
「……おえっ。なにこの惨状。ちょっと、今回は何したの?」
「死体の山です。そこの組織を潰しましたので。……おや、もしかして私達の仕事をご存知ない?」
興奮しているのか、何故か高笑いをしている金髪の男。その右手には血塗れで鞘から抜かれたままの刀。少し先にある死体の山。それを見て状況と自分の仕事を理解した掃除屋の綜 彩葉は、とてつもなく深いため息をついた。目の前の金髪の男、新月 美弦にその訳を尋ねると、美弦はご丁寧に組織を潰したとの解説をした。そんな彼の解説を聞いて、彩葉は聞き方を間違えたと思った。彩葉は「そんなことは知ってるよ」と呟くと、死体の山へと歩み寄った。そして、手袋をはめてから軽く死体の状況を見る。
……数はざっと百はいっているだろうか。山になって積み上がっている死体のどれもが刀によるものと思われる刺し傷や切り傷を負っている。全て美弦の仕業だろう。この戦闘狂ならやりかねないなと思いながら、彩葉は振り返って美弦の方を見た。まだ興奮が抑えられていないのか、ほんのりと上気した表情を見せている。戦闘狂に構っていても仕方がないので、彩葉は黙って死体と向き直り『仕事モード』に入った。
掃除屋の仕事は至って単純。依頼人から頼まれた場所を掃除するだけ。全てを綺麗さっぱり跡形もなく、何事もなかったかのように元の状態に戻す。それには普通の掃除だけでなく、いわゆる死体処理の仕事なども含まれていた。組織の殲滅などをした後、その組織の殲滅を行ったマフィアなどが、一人では死体を片付けきれない時に使用することが多い。幼い頃からこの世界に居ただけあって、彩葉もそれは理解していた。そして、仕事をしていく内に、もはやこんな汚れ仕事が常なのではと思うようになっていった。それ程、掃除屋とマフィアは深い関係にあった。……と言っても、「そういった掃除も請け負っている」時点で、仕事内容に死体処理が含まれているのは明確だったのだが。
彩葉が死体の状況を見ていると、誰かがふらりと近寄ってくる気配がした。ついさっきまで興奮モードだった美弦だ。美弦は彩葉に近付くと、彩葉の隣──死体の山の前にしゃがみ込んだ。そして彩葉と同じように死体を観察する。
「これはこれは……」
何やら感嘆の声を漏らしている美弦。それを見て、彩葉はいやいやきみがやったんでしょ、とツッコミたくなったがそれをやめて作業に移る。まず、この死体の山を片付けるのが最優先だった。
◇ ◇ ◇
力尽きた……。
本当に無駄に長いだけの駄文。公開するつもりなかったのに公開しちゃった。なんでェ?
ちなみにいつか連載作ろうと思ってます
ではでは👋🏻
コメント
3件
地の文の量が孤高とかに比べると断然多いです。1人で適当に書いてただけなんですけどね。 あまりにも地の文が多すぎると見る気失せるよなぁ…となったので孤高は地の文の量を減らしてる傾向にあります。まぁ#01とか結構多かった記憶ありますけど。 いつか連載化します。いつか。…いつかですよ?