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思わず眉を顰めてしまった俺に、男は不思議そうな顔で頷く。


「え? は、はい。ホテル等に宿泊されるのは初めてでしょうか? こちらは魔力の波長を記録する魔道具となっております。これによってチェックインやチェックアウトの際の本人確認をスムーズかつ確実に行っております」


魔力の波長を読み取る何の変哲もない道具。向こうならそうだった。だが、こっちに存在しているとは夢にも思っていなかった。


「……あぁ、女神の忠告はそういうことか」


世界も変化していますとは聞いたが、これは変化しすぎってもんだろう。


「これに指を入れればいいんですね?」


「はい、そうです。直ぐに終わりますよ」


念の為、注視してみるが罠ではない。本当にただ魔力の波長を読み取るだけの魔道具だ。俺はスッと指を差し込む。


「はい、ありがとうございます。最後にお名前をお願い致します」


「あぁ、はい」


結局何か書く必要はあるのか。そう思いながら、差し出された紙に|老日《ろうび》 |勇《いさみ》と書き込んだ。勇なんて名前の奴が勇者として召喚されるなんて出来すぎだろうと思うかも知れないが、名前というのは重要な要素だ。こんな名前だからこそ俺が呼ばれたってことだ。


「それでは、こちらの鍵をどうぞ」


「どうも」


案内とかはしてくれないんだな。そう思いながら俺は鍵に付いている半透明な棒に書かれた番号に従って部屋に向かった。


「ここか」


扉を開き、部屋に入り、鍵を閉め、それから直ぐにベッドに転がった。


「……上等だな。上等なベッドだ」


いつぶりだろう。ここまで柔らかいベッドで寝たのは。


「寝る、か」


目を閉じると、直ぐに意識が微睡んで消えた。







開いたままのカーテン。窓から朝日が差し込んで目を覚ました。


「……朝か」


寝たのは昼ぐらいだったから、かなりの時間眠ったことになる。それだけ疲れてたのは事実だ。


「チェックアウト……前に、着替えるか」


俺は虚空から色々と服を引っ張り出した。


「これで良いか」


俺はその中からギリギリ現代でも通用しそうなものを選び、着替えた。黒と灰色のみで構成されたファッションになったが、まぁどうでもいいだろう。


「行くか」


俺は部屋を出て階段を降り、ホテルのエントランスまで向かった。


「すみません、チェックアウトで」


「302……老日勇さんですね」


俺は頷き、差し出された魔道具に指を差し込んだ。それから、言われたとおりに料金を払う。


「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」


頭を下げる受付の男に会釈し、俺はホテルを去った。




日差しが暖かく、心地よい。今は春だろうか。


「にしても、魔道具か」


ホテルにあった、魔力の波長を読み取る道具。しかも、かなり一般的なもののようだった。つまり、この世界には魔術の存在が広く普及しているということだろう。


「一体、俺が飛ばされてから何があったんだろうな……」


調べる必要がある。もしかすると、悪目立ちすることなく魔術を用いて金を稼げるかも知れない。


「図書館……探すか」


とはいえ、スマホも無しに探すのは難しい。


「交番なら、直ぐ見つかるかな」


どっちかが見つかるまでぶらぶらと歩こう。散歩だ。


「……腹、減ったな」


予定変更だ。


「先に飯だな」


折角だから、ハンバーガーでも食いたい。チェーン店の一個くらい直ぐ見つかるだろう。図書館と交番を探すよりは全然簡単だ。




あった。良かった。まだあったんだな。黄色いMの看板。俺は迷わずその店に入った。


「チーズバーガー……は、朝だから無いのか。じゃあ、ベーコンエッグサンドとコーラで」


野菜やパティは入っていないが、名前通りベーコンとエッグ、後はチーズも挟まっていてそこそこは満足できるだろう。半分も腹が満たるとは思えないが。


「懐かしいな、この感じ」


注文が受領されたので、俺は下がって出来上がるまで待機する。それから直ぐに番号を呼ばれたので、トレイを受け取った。上には袋に包まれたバーガーと、Mサイズのコーラが乗っている。


「……美味い」


上品な味じゃない。きっと、この日本では値段相応の味だ。それでも、俺の心には感動があった。


「懐かしい……懐かしいな」


昔はよく食ったよな……あの頃から、全く変わっていない味だ。


「あの……」


横から声をかけられた。


「ん、すみません。何ですか?」


嚥下し、声の方に視線を向ける。髪が緑色の若い女だ。目も緑色。俺よりも年は下。制服は着ていないが、学生だろう。魔力に妙な動きは見えない。敵対意思も無さそう……って、そりゃそうか。こっちの世界じゃ、良くない癖だな。


「あの、なんで泣きながらハンバーガー食べてるんです?」


「何でって……思い出し泣きって奴だな」


妙なことを聞く女だな。涙を流してハンバーガー食ってる俺も十分に妙だが。


「お、思い出し泣き……って、そうじゃなかった。その、貴方の着てる服について聞きたかったんです。その服、明らかに普通じゃないですね。それと、貴方から一切の魔力を感じられないんですけど、それもその服の能力ですか?」


この女、面倒だな。

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