朝の柔らかな光がカーテンの隙間から差し込んでくる。
すちは先に目を覚まし、まだ眠っているみことの髪をそっと撫でた。
「……んっ……」
みことは微かに寝返りを打ち、昨夜の出来事が断片的に頭に浮かんでくる。王様ゲームで唇を重ねられたこと、そしてそのあと、すちと二人きりになって——。
「……っ!」
一気に目が覚め、頬に朱が広がる。
隣で優しく微笑むすちの顔を見るだけで、胸がきゅっと締めつけられる。
「みこと、起きた?」
「……うん……。でも……あの……」
言葉を選ぼうとするが、昨夜の熱が蘇り、顔はますます赤くなる。
すちはそんなみことの様子を見て、少しからかうように笑う。
「照れてるの? 昨日、俺にあんな可愛い声いっぱい聞かせてくれたのに」
「や、やめて……っ」
みことは慌てて布団を頭まで被る。
けれど心の奥では、昨夜のすちとの時間が怖さよりもずっと甘く、気持ちよかったと感じていた。
「……恥ずかしかった、けど……気持ちよかった、よ」
布団の中から小さな声で告げると、すちは驚いたように目を丸くし、すぐに優しく微笑んだ。
「……そう言ってくれるなら、嬉しいな」
布団越しに、そっとみことの頭を撫でる。
二人の間に流れる空気は、昨日までよりずっと近く、温かいものになっていた。
布団に潜ったまま、みことは昨夜の記憶を思い返す。
すちと二人で過ごした甘い時間は心地よかった。けれど、王様ゲームの中でみんなに見られながらのキスは……。
「……でも」
小さな声が布団の奥から漏れる。
「でも……みんなの前で……キスしたのは……やっぱり……恥ずかしかった……」
布団を少しずらし、赤い顔で視線を逸らすみこと。
「そっか。俺も……正直、見られたくなかったな」
「えっ……?」
「本当は、みことのあんな顔……俺だけが見ていたいから」
低く落ち着いた声でそう告げられると、みことの胸はドクンと音を立てた。
頬が熱くなり、言葉に詰まってしまう。
「……うん…」
照れながらぽつりと返すと、すちは嬉しそうに微笑んでみことの頭を自分の胸に引き寄せた。
「じゃあ、これからは二人きりの時にいっぱいしようね」
「……ん……」
二人は互いの温もりを確かめ合うようにしばらく抱き合っていた。
すちの胸に顔を埋めたまま、みことはふと顔を上げる。
昨日の恥ずかしさもまだ残っているのに、心の奥から別の感情が込み上げてくる。
「……あの……今は……二人きり、だよ……っ?」
掠れるような声に甘さが滲み、すちを真っ直ぐ見上げる瞳は潤んでいた。
その表情に、すちは一瞬で心を撃ち抜かれ、喉が鳴る。
「……みこと……」
迷いなく手を伸ばし、その頬をそっと撫でる。
温かな掌に包まれたみことは、くすぐったそうに目を細め、ほんの少し唇を開いた。
すちはもう堪えられず、顔を近づける。
そして柔らかい唇に自分の唇を重ね、深く吸い寄せるように口づけた。
「んっ……」
小さな声がもれて、みことの手がぎゅっとすちの服を掴む。
キスはすぐには離れず、重なり合う吐息が部屋の中を熱くしていく。
やがて唇を離したすちは、額を合わせて小さく笑った。
「……やっぱり俺、みことの可愛さには勝てないな」
みことは耳まで真っ赤にしながらも、幸せそうに微笑んだ。
唇を離しても、まだ互いの吐息が触れ合うほど近い距離。
みことは胸の鼓動が早すぎて、すちに気づかれそうで恥ずかしくなる。
そんなみことの表情を見ながら、すちはふっと笑みを深めた。
「……ねぇ、みこちゃん」
「……な、なに?」
すちは頬に添えた手を滑らせ、耳の後ろをくすぐるように撫でながら囁く。
「俺、朝ごはんより……みことからのキスが欲しい」
「っ……!」
みことの顔は一気に真っ赤に染まる。
「そ、そんなこと………」
小さく抗議する声も、甘えるように震えていた。
「嫌?」
すちが少し身を引き、みことの反応を待つように目を細める。
しばらく唇を噛んで迷ったみことだったが、やがて意を決したようにすちの胸に手を置き、そっと顔を近づける。
そして自分から重ねた唇は、昨夜とは違って、優しい温もりを帯びていた。
「……っ、ん……」
自然と声がもれて、みことはさらに深く唇を押し付ける。
すちはその愛らしい必死さに心を奪われ、みことの後頭部を抱き寄せて、甘く長い口づけを返した。
長く甘い接吻を終え、ようやく布団から抜け出したすちとみこと。
顔を赤らめたまま、みことは視線を逸らしつつも、自然と手を繋いで廊下を歩いていく。
「……みんな、もう起きてるかな」
みことが小声で呟くと、すちは苦笑を浮かべる。
「さぁね。昨日あれだけ騒いでたし、ぐっすり寝てるかも」
軽くノックをしてから扉を開けると、そこには予想外の光景が広がっていた。
床に近い大きめの布団に、らん、こさめ、いるま、ひまなつの四人が裸のまま寄り添い合って眠っている。
毛布は一枚だけ掛けられていたが、露出した肩や腕が冷えてしまいそうに見えた。
夏とはいえ、朝方の空気はまだ少し肌寒い。
「……ったく、油断しすぎ」
すちはため息をつきながら、部屋の隅に畳まれていた毛布をもう一枚取り出し、そっと四人に掛けてやる。
乱れた髪や、寄り添って安らぐ寝顔を一瞬見て、苦笑を浮かべた。
みことはその隣で、顔を真っ赤にしながら視線を逸らす。
「……みんな、すごく仲良しだね……」
「仲良しすぎて困るけどね」
すちは肩をすくめ、毛布を整えるとみことの手を再び握り直した。
二人は静かに扉を閉め、四人を起こさないように部屋を後にした。
台所に立つすちとみこと。
冷蔵庫を開けて「卵ある?」「牛乳もいる?」なんて言い合いながら、朝ごはんの準備が始まった。
みことはいつも通り包丁を握り、野菜をざくざく切っている。
すちはその様子を横目で見守りながらも、火加減を調整したり皿を用意したりと手際よく動いていた。
「ねぇ、すち」
「ん?」
「昨日の王様ゲーム……」
みことが思い出したように口を開きかけた瞬間、すちはみことが包丁を使っていないことを確認して、わざと名前を呼ぶ。
「――みこと」
「え?」
振り返ったみことの唇を、すちは素早く奪った。
不意を突かれたみことは驚いて目を瞬かせるが、すちが微笑んで離れると、耳まで真っ赤になり視線を逸らした。
「……もう、油断してた」
「油断してる顔がいちばんかわいいから」
さらりと告げるすちに、みことの胸はくすぐったいように高鳴る。
それからも、火を使っていないタイミングを見計らっては「みこと」と甘く呼ばれ、不意打ちのキスを繰り返される。
「ちょ、すち……っ!」
「も、もう……料理進まないから……!」
そう抗議しながらも、みことの表情は恥ずかしさと嬉しさが混じり合い、ふんわり笑顔を浮かべていた。
やがてふたりで作った朝ごはんが食卓に並ぶ頃には、みことの心はすちの愛情でいっぱいに温められていた。
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なんでこんなに美しい恋なのでしょうか