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「……ドウイウ……こと、だよ……?」
西陽が差し込む、我々国の廊下。幹部棟から出ようとしたその時だった。
「……運営国総統代理、緑色。……少し話がしたい、時間はあるかい?」
「……グルッペン……フューラー……」
低く、前あった頃とは全く違う雰囲気をした、我々国総統「グルッペン・フューラー」に呼び止められた。
「……話とは?」
「此方へ着いてきてくれ」
俺は黙ってその背中を追った。
「……ソレデ、話というのハ?」
我々国の会議室に案内され、向かい合わせに座った。そして、俺は再度、この質問をした。
「……この戦争の、本当の意味。……知りたくはないかい?」
眼鏡を怪しく光らせ、唸るようにそう言うグルッペンに、俺は不信感を抱いた。否、恐怖心のかもしれない。
「……本当の、……意味……?」
「嗚呼、”それ”を知っているのは、戦争に加わった人物で言えば私、……そして、” らっだぁ”の、ふたりだけだ。」
「らっだぁ……?」
聞きなれた人物名を、俺は言い直す。
「……今から話すとしよう。……この戦争の、本当の意味を」
その口から語られたのは、俺の考えを遥かに超える、醜く、そして、残酷な秘話だった。
話は、五ヶ月前に遡る。
「……なんで、……なんでこんなこと……」
あまりの出来事に、言葉が詰まる様子を、今でも覚えている。
それは、星がよく見える夏の深夜での出来事だった。
「………やはり、人間は醜いといったところか。」
本部。……つまり、この世界をまとめるリーダーとでも言うのか、遠く離れた王国に住む一人のリーダーからの手紙が、五カ国を不幸へと導く鍵となった。
『殺せ。』
簡単に略せば、そう言える文章。丁寧に書かれていても、結局のところはそれが目的の、手紙。否、命令文と言った方が正しい。
「……っ可笑しいだろ、んなこと……するわけ……」
「…………いや、然し、……これは”命令”として私らに下された。……これを断れば……」
「……それで、「はいわかりました殺します」ってなるわけねえだろ……」
らっだぁは、手に持った命令状を潰し、立ち上がった。
「……俺、本部に行ってくる」
「……待て、……一旦頭を冷やすんだ。」
「……でも、でも!グルッペンさんはそれでいいのかよ…!?……っただの、鬱憤ばらしのためだけに、……それだけのために同盟五カ国で殺し合うだなんて……俺は絶っっっ対嫌。……それじゃ」
「……待つんだ。待て、らっだぁ。……運営国総統として、考えろ。……今はお前個人の意見は求められてい」
「でも……」
悔しそうに言葉を吐き捨て、おとなしく椅子に座り直した。
「……この戦争で、俺ら……否、五カ国は間違いなく誰も報われずに、終わる。だが、例え多くの犠牲が出たとしても、生き残り、また国を作り直す者が現れる。……然し、断れば、誰一人として残ることなく殺される。……どちらの方が幸せか、もっと考えろ」
「……っでも……でもさぁ……」
戦争を起こすのだとすれば、きっと、三ヶ月か、四ヶ月さきの話だ。……実際は、三ヶ月後に戦争が起こった。
「……つまり、本部の人間……いや、この世界の頂点に立つ人間の暇つぶしで、僕らはコンナ目に遭ったってワケ?」
「……嗚呼、……全て、人間の醜い欲望と、身勝手さから造られた、……ただの暇つぶしだ。」
俺がすぐに次の質問をかけようと、口を開いた時だった。
「……そして、この本当の理由は、私とらっだぁの二人しか知らないはずだった。」
そう語るグルッペンの瞳には、少しの悲しさが現れていた。
「……だった……?どう言う意味で?」
「……どこから漏れたのか、……その情報は運営国主幹部”レウクラウド”に伝わってしまった。」
レウクラウド。
その言葉に、俺は声が出ないほど驚いた。
「レウサン?」
「……そして、レウクラウドは本部へと足を運んだ。戦争から約一ヶ月ほど前の出来事だ。」
グルッペンは、ある写真を机の上に置いた。
そこには、直視するのが難しいほどの、痛々しい遺体が写っていた。体は全身切り傷だらけ、黄色いものは脂肪と聞いたことはある。人だったものとしか言いようのないそれは、所謂「水死体」と呼ばれるものだろう。水を限界まで吸った皮膚は見るに耐えない。
「……率直に言えば、レウクラウドはその時、その日に死んだ。」
「…………戦争一ヶ月前に?」
「嗚呼」
グルッペンは更に写真を出した。
恐らく三十半ばの男性だと思われる、一人の男が写った写真。
「それが、本部のリーダーだ。」
リーダー。
「……なんで、レウさんは殺されタノ?」
「簡単なことだ。……レウクラウドは、国家に反抗したことになった。だから、処された。」
「……これがレウさん?」
そう言い、先程の水死体の写真を取る。
「ああ、そうだ。」
「……跳ね首とかじゃないんダ」
「酷い拷問の上、水に沈められた。…本部にはきっと人の心などないのだろう。」
写真を見つめる。
本部の、誰かも知らないどっかの馬の骨がレウさんを殺した。
「……レウさんは、みんなの為にここに行ったんダヨネ?」
「……きっとそうだと思う」
戦争の一ヶ月前から、運営国に現れなくなったレウさん。……いや、しかし。
「それだけで、ラダオが戦争起こすなんて思えないんだけど」
「……感が鋭いな。」
「らっだぁはちゃんとした人間であったかと言われれば、「はい」と言い切れる人間ではないだろう。ただ、国、仲間のことを大切に思っていたか、そう言われれば「はい」と、迷わず答える人間だった」
「そんな「仲間思い」に漬け込んだのが、本部のリーダーだ。」
「……は…………?」
次に、本部の人間から送られたメールは、省略をすれば「レウクラウドの死亡」について書かれた文だった。
一足先に読み終わった俺はらっだぁが読み終わるのを待っていた。
初めは驚きの表情を見せるも、読み終わる頃にはその顔から感情は読み取れなかった。唯、静かなる怒りを感じたのは言うまでもない。
「変な気は起こすな。」
「……ここで俺が反発をすれば、運営国は完全に潰される。そんなんわかってるから、何も言わないで」
らっだぁはしばらく、送られた資料と動画、そして手紙を見つめ、考え込んでいた。
「……もし、俺がみんなの敵になっても、……その理由がみんなのためとかだったら、主人公みたいでカッコよくない?」
突然そう呟くらっだぁに、思わず「どういうことだ?」と聞き返した。
「……俺、本部に交渉行ってくる。」
「………レウさんにカッコつけさせたままは、ちょっと悔しいし」
らっだぁは、笑っていた。
だが、らしいといえば、らっだぁらしい結論だとは思う。
その後の話は、はっきりとは知らない。
ただ、その日からの一週間は、らっだぁは自国を主幹部らに任せ、本部へ”交渉”とやらを進めていたらしい。
そして、会議の時。これは、同盟国の約五ヶ国で行う総統、補佐と参謀を含めた会議だ。年に一度にある。
そして今、その会議が行われた。
「……戦争しよ」
らっだぁは、静かな会議室に、ハッキリとそう言い切った。
「……戦争?どこと何処が?」
日常国総統、クロノアがそう聞くと、らっだぁは静かに答えた。
「……この、同盟国で」
想像していた通りの回答だった。
然し何も知らない他国にとっては衝撃的な一言である。直ぐに反論をしたのは限界国補佐、焼きパンだった。
「……正気?」
「………俺がこんなこと冗談で言うって思ってんのか〜?」
いつも通りの、そんな調子で言うらっだぁに、更に同じ補佐のぺいんとが言う。
「……危ない戦争を好む奴でも、ないだろ……」
「ただ、俺はこのみんなで本気の戦争をやりたい。そう思っただけ。……拒否権はなしね」
「……らっだぁさんにしては、結構ぶっ飛んだこと言い出すなぁ」
完全に心の声が漏れたように、後ろに立っていたトントンがそう言った。何も知らなければ、私も同意見だっただろう。
「私は賛成だ。」
その場の深妙な空気を割くように、私は一言、そう言った。
「……正気ですか?貴方たち」
一人、ワイテ国総統ナカムが反対意見を出した。
「さぁ。最近、そういうクスリが出回っているらしいしな。」
揶揄う様にそう言い返せば、ナカムは見事挑発に乗った。
「巫山戯ていないで、ちゃんとした意見を言ってください」
「私は至って正気だ。正気な上で、この判断をしている」
「……グルッぺんさんは戦闘狂でしたね」
呆れたようにそういうナカムを他所に、次に意見を言ったのは同じくワイテ国補佐、否、補佐の代わりとしてきているシャークんだった。
「俺も、戦争には反対です。そもそも、やるメリットがよく分かりません。……部外者がすみません」
「いや、全然部外者じゃないでしょ!……でも、確かに……俺もメリットというか、……」
ぺいんとはそこで言葉に詰まったように口を噤んだ。
「……戦争に今まで乗り気ではなかったらっだぁが、なんでそんなことを言い出したのか、……なにか理由があるだろ」
静かに、限界国総統ぐちつぼがそう言う。
それに対して、らっだぁは同様も何も見せず当たり前だとでも言うように言った。
「俺らは、初めから何もせずに同盟を組んだ。みんなで本気の戦争なんて、やったことないじゃん?……だから、俺はやりたいって思っただけ」
「……ほぉん」
ぐちつぼは、納得のいかないと言ったように眉間に皺を寄せながら、相槌を打った。
「………で、結局どうするんですか?」
トントンが痺れを切らしたようにそう聞けば、らっだぁは「やるって、事でおーけー?」と各総統へ呼びかけた。
「……いいわけ……」
ないだろ。
恐らく、そう言おうとしたのだろう。だが、ぐちつぼの言葉は意外にもクロノアの言葉で遮られてしまった。
「……やりましょう」
「…………は?」
後ろに立っているぺいんとが驚きの声を出す。周りの人間も声には出さず、驚いているようだった。私も同様、少し以外に思っている。
平和主義者のような、温厚な性格のクロノアが自らこのらっだぁのことを肯定するなんて、思ってはいなかった。
「……クロノアさん、まじっすか……?」
「俺は嘘はつかないよ。……仲間も、友達も、表あまり出さないだけで大切に思ってる人だって知ってる。……確かに、らっだぁさんが「戦争しよう」と提案したのには驚いた。だけど、何も無い、ただの好奇心だけでそんな提案をする人だとは思わない。…何があったのか、俺は知らないし、知りたいとは思うけどらっだぁさんが言う気が無いんだったら、俺は深く追求はしないです。……俺は、らっだぁさんを信じてるんです。だから、俺はその意見に賛同します」
その言葉に、誰もが呆気に取られることとなった。
らっだぁすらも、口を開けたまま閉じれないほど驚きの言葉だ。
「クロノアさん……」
総統が判断したことにより、自分の意見が自動的に賛成へと変わったことへの納得のいかなさか、少し悲しさを含んだ声色でぺいんとはそう呟いた。
「……他のみんなは?」
「……正直、俺は賛成できない。信用していないわけじゃないけど、……さっきシャークんが言ってたように、メリットがよく分からない。……明確な理由が聞けるまで俺は「はい」とは言わない」
ぐちつぼがそういったのにつられたのか、「俺も、同じです」とナカムもそう言った。
「……この件は一旦保留かぁ……」
「…………いい加減にしろよ。らっだぁ」
低く、ガラの悪い口調の声が会議室に響いた。
「……只々そんなはっちゃけたこと言って、まともな理由なしに拒否権もなし。……頭いかれたんか?俺らにも何も言わずに急にこんなん言い出して」
「……きょーさん。今いい終わり方だったじゃん」
「どこがや」
会議も終わろうとしていた頃。運営国補佐、金豚きょーの言葉により会議はまだ続くことになった。
「どういうことですか?きょーさん」
トントンがそう聞くと、金豚きょーは答えた。
「コイツ、何も言わずにこの場で初めて「戦争しよう」なんて言い出したんだよ。……流石に」
「なんでもないから。」
金豚きょーが説明をしていると、いい切る前にらっだぁの冷たい声が遮った。
「もういいでしょ?」
何か言い出そうと、クロノアが素振りを見せるが何も言うことはなく、会議はお開きとなった。
「……よろしくね。グルさん」
初めて私をそう呼んだ彼とは、その日を最期にもう会うことは無かった。
「肝心なところが聞けてナイ。」
「……嗚呼、らっだぁがなぜ”アレ”だけで戦争を起こそうとした理由だったか。」
グルッペンは間髪入れずにすぐ答えた。
「そんなの、本人以外知る由もないだろう?」
「……ソウダネ」
まともな答えで、少し悔しくなる。と同時に、でも思わせぶりをしたのはそっちじゃないか、と少し腹が立つ。
文句を抑え、俺はもう一つ、気になったことを聞いた。
「きょーさんも、あまり納得してなかったンだネ」
「嗚呼、傍から見れば総統の決断に異論ありの喧嘩腰な補佐だったゾ。……意外だったのか?」
「ウン。……戦争が始まるまで、きょーさんは戦争に賛成って感じだったシ」
その返答に、グルッペンこそ意外だとでも言うような反応を見せた。
どうやら、その時点でのきょーさんはそんな突拍子もないらだおの話に乗り気でないどころか、今にも怒鳴りそうだと、話を聞いていて知った。
らだおからその後、本当の理由を聞いたのか?否、だからといってそんな反応だったなら、コロッと意見が変わってしまうほどきょーさんはチョロくないと思う。
「……ナンデ…」
「……私の考えを一つ、話してもいいか?」
考え込んでいた俺に、グルッペンは一言、そう言い出した。
「……一つの作戦のうち。……だとしたら、あの金豚きょーが納得したと言われても、案外納得がいかないとは思わないか?」
「……作戦………例えば?」
「もし、この戦争で多くの人間、……またはらっだぁなどの、多くの国民から信用を得た、そんな人間が死ぬ事で何かしら本部に影響が出るよう仕向けた。……とかか」
「……そんな事が出来るノ?」
「さぁ。それは私もわからんよ。……だが、らっだぁという人間は、……やるかもな。」
そう言い、にやりと怪しげに笑った。
赤い瞳は以前よりも生き生きとしているように見えた。……まるで前あったグルッペンとは別人のようだ。
「……調子戻ったネ」
「………面白い情報続きだからな。ずっと落ち込んでいていい機会を逃す訳にも行かん」
「……モシカシテ、いいダシにされてる?俺」
「ああ、今のところ美味しさは増すばかりだ」
少し癇に障る部分もあったが、有益な情報が得られたことに変わりは無い。
「……助けにはなれたかい?」
「……イラつくぐらい」
俺は一言、お礼だけ言い部屋を後にした。
「……随分長いこと喋っとったねぇ。緑くん。」
廊下を歩いていた時、丁度鬱さんとすれ違う。
喫煙所からでてきたばかりか、少しタバコ臭く顔を顰める。それに気づいたのか「すまんね」と笑って謝っていた。
「……鬱さんは、もし仲間が他人のせいで死んだって、そう言われたらドウスル?」
「……ふぅん。何かあったのか知らんけど、……もしそうやったら、ソイツらにカチコミに行くわ(笑)」
ダヨネ。
「……ワカル」
俺は思わずニヤリと頬を歪ませた。