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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。地下室でグリーズさんからキッドについての情報を得て、御褒美に少しばかりお楽しみをした私は上機嫌のままダンジョンへと入りました。
もちろん入り口と奥地は直通なので、直ぐにマスターにお会いすることが出来ました。
「ごきげんよう、マスター。お邪魔しますね」
『そなたか、勇気ある少女よ』
ワイトキングのマスターは立派なローブを揺らしながらゆっくりと振り向いてくれます。
「本日はマスターにお願いしたいことがありまして、お邪魔しました」
『ふむ、言ってみなさい』
白骨化されて怖い見た目とは裏腹に、マスターの声は優しいのです。そう感じるのは私だけみたいですけど。
「はい、実は数日以内にここへ調査団が入ります。彼らは私の敵なのです。マスターのお手を煩わせるつもりはありませんが、もし宜しければダンジョン内部の変更をお願いしたいのです」
『内部を弄ることなど造作も無いことである。それよりも我はそなたの敵に関心がある』
「それでは、ご説明します」
私は事のあらましを隠さず詳細にお伝えします。その方がマスターも喜ばれるので。
『興味深い。そなたにとって敵対者とは殲滅すべき相手となるか』
「はい、私の大切なものを奪おうとする存在は例外無く敵です」
『和平の道は最初から勘定に入れておらぬか?』
「敵対した時点で」
『それでは敵を生み続けよう』
「その為に私は力を求め続けています。もちろんそれが際限の無い夢物語であり、いつか破綻することは理解していますが」
『ふむ』
「それでも、復讐を果たすまでは止まるわけにはいかないのです。そして、大切なものを護るためにはどうしても力が必要になりますから」
『故に力を求めるか。赦しを与えれば、それだけ敵を減らすことも出来よう』
「一度敵対した相手を信用するのは、難しいです。私の器が小さいだけなのかもしれませんが」
手打ちにして、味方を増やす。それは確かに敵を減らすことになりますが。少なくとも『エルダス・ファミリー』を許す気にはなれません。
『良い、揺れることの無い信条は強い力となる。では、そなたの敵を如何様に処理しようか。ダンジョンを複雑として数多のアンデッドで押し潰すことも可能であるが』
「それも愉快で素敵なご提案ですが、始末は……いえ、取り消します。マスターはアンデッドをある程度操ることが出来るのでしょうか?」
『幼子をあやすより容易いことよ』
「それ意外と難易度高いんですからね?」
孤児院へ遊びに行ったとき、泣き出した子供相手にどうすれば良いか分からず右往左往して、ルミに笑われた記憶が甦りました。ああ、恥ずかしい。
『造作もないことである。如何する?』
「では、本命のキッド及び私の親代わりの人だけは襲わないように出来ますか?」
『可能である。そのキッドなる者の特徴を教えよ』
「はい、後程詳細を」
『そして、そなたの親代わりとは興味深い話である』
「ではシスターについてお話しますね」
知らないことなら何でも良いんですよね、マスターは。
シスターについても隠さずに伝えます。
『聖職者でありながら、中々破天荒な人物であるな』
「否定できません」
『だが修道女の身なりならば間違えることはあるまい。では、それ以外をアンデッドに襲わせれば良いのであるな?』
「はい、マスター。後はシスターが上手くやってくれるかと」
『そなたの親代わりの修道女に関心を抱いた。我が声をかけても構わぬな?』
「ちゃんとシスターに伝えておきます」
その後、マスターと詳細を詰めた私は教会へと戻ってシスターに仔細を伝えました。
「ワイトキングに興味を持たれる。これでも聖職者なのですが」
相変わらずシスターも表情が乏しいですね。マーサさんにも似た者親子と言われましたっけ。
「マスターは悪い人?いやアンデッド?まあ、悪いことになりませんよ。知的好奇心が旺盛な方ですが」
「つまりシャーリィみたいな感じなのですね」
「有り体に言えば」
「分かりました。ダンジョン内部でキッドを殺すなんて、いつ考え付いたのか」
「マスターとお話ししている間に思い付きました。シスターには彼らに同行してもらいます。キッドからすれば、『暁』幹部を仕留める千載一遇の好機ですからね」
「そしてダンジョン内部でアンデッドが私とキッド以外を始末して、二人きりになると」
「ロマンチックじゃないですか」
「はぁ、ときめきなんて感じないシチュエーションですね。ですが、ベルモンドについてはどうしますか?あちらに知られていますよ」
「それについては、当日私はベルを連れて農園を離れるつもりです。もちろん目立つように」
「彼方とすれば自分達の面が割れているベルモンドが不在になる。まさに好機ですね」
「それでもシナリオ通りにいくかは分かりません。慎重な人みたいですからね」
「その辺りは任せなさい。調査の依頼を受けた以上彼らはここに来るしかありませんからね」
冒険者ギルドは受注した冒険者に腕輪を取り付けるようにしています。これは受注しながら逃亡するのを防ぐためです。信用に関わりますからね。
代わりに腕輪を見せたら各種割引を受けられるので、冒険者側にもメリットがあります。
逃亡した場合?直ぐに指名手配されますし、腕輪はかなり頑丈なのでギルドで外すしかないんですよね。無事に依頼を達成したら腕輪を外すシステムになってます。
「冒険者ギルドのシステムですね」
「合鍵はまだ製作できていませんからね。信用して構わないでしょう。今回も任せなさい」
「何だか最近シスターに任せてばかりな気がしますが」
「貴女には考えることがたくさんあります。荒事は任せなさい」
「シスター……ありがとうございます」
ではキッドについてはもう任せてしまいましょう。私は次を考えることにします。
それから二日後、キッドは十人の部下を引き連れて農園近くにまで進出していた。
「まるで要塞だな。これじゃ真正面から攻めるのは自殺行為だ」
キッドは農園周辺に張り巡らされた鉄条網と塹壕を見て戦慄する。彼は銃器の扱いに精通しているため、これらが何を意味するのか漠然とではあるが理解した。
「キッドさん、どうします?」
「待て、まだだ。ベルモンドの問題を解決できていない。あいつが居たら俺達は……全く我ながら間抜けだな。ベルモンドの問題を片付けてからやるべきだった」
「待った!キッドさん!あれを」
視線の先には馬車が用意されており、ベルモンドと少女、修道女、老齢の執事が居た。
「それでは、留守をお任せします」
「任せなさい、貴女も気を付けて」
「じゃあ、お嬢。行こうか」
「ええ。セレスティン、お願いします」
「御意」
少女とベルモンドが馬車に乗り、執事が御者として馬を操り馬車を出して離れていく。
「神様に感謝だな、ベルモンドが居なくなった。ボスのガキも居なくなったが、好機だ。行くぞ!」
キッド達は好機と見て農園へと向かう。それが罠であると知らずに。