TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

紫陽花に咲く


それは幾つかの歳を遡る。私が小学生の頃のことだ。


どよんだ空。五月雨が草花を濡らす。傘から零れる水滴は透き通り、世界を反射させていた。

梅雨は嫌いだ。人間の感情はよく空で表す。だから。空が暗いと自然と自分の心も暗くなるような気がしたから。

雨音が私を包む。やっぱり雨は苦手だ。周りの音が聞こえない。まるで一人のような感覚に陥ってしまう。


そろそろ雨が止むのだろうか。雲は深い灰色から段々と明るみを帯びてきた。雲間から少しづつ陽の光が差し込んでくる。

真っ直ぐな陽の光を帯びた紫陽花が眩しい。そこで私は気づいた。紫陽花の前の一人の少女に。

透明な雨合羽と少し紫がかった綺麗な傘。雨に濡れた綺麗な黒髪が靡いた。

紫陽花と彼女が舞う。合羽が光を受け眩いほどに輝いた。

「……綺麗、」

彼女をもう少し見たい、見ていたい。と私は彼女に少し近づいた。


「…ふふ、」

愛らしく笑うその顔に私は惹かれていった。一目惚れだ。少し困りがちな眉も紫陽花みたいにきれいな瞳も。全部、全部。

軽やかなステップを踏む彼女。なんだかすごく楽しそうで、儚くて、綺麗で。ずっと見ていたいような。そんな優しい気持ちに包まれる。

私と彼女を別ける雨の壁。透明だけど分厚くって、触れたいけど触れたくない。幻想のまま、終わらせたい。そんな不思議な気持ちを私はどうすることもできなかった。


初恋って、案外こんなもんだ。あれから会うことはなかったけれど、紫陽花を見るたびに思い出す。

少し、ほんの少しだけど。彼女のおかげで雨が好きになった。


Fin__

揺れた花影ー短編百合集ー

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

71

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚